子宮頸がんワクチンの報道において実施された
リスク・キャラクタリゼーションに関する実証研究
本多祥大
(日本大学大学院新聞学研究科博士後期課程)
2023年現在、子宮頸がんワクチンの接種を推奨する広告が電車や駅構内で多く見られる。だが、日本においてこのワクチンは、2013年6月に一度接種の推奨が中止されていた歴史を持つ。推奨が中止された背景には、「ワクチンの副作用への不安」や「副作用治療への不安」が存在し、当時、接種の推奨を継続するべきか否かについて社会的な議論が巻き起こった。当然、子宮頸がんワクチンの副作用などが大きく報道されたわけだが、こうしたリスクに関する政策をめぐる報道で重要なことは、報道がリスク評価に関する分析的-熟議的プロセスに貢献することである。このプロセスは、リスク・キャラクタリゼーション(risk characterization)と呼ばれ、近年、重要視され始めた双方向的なリスク・コミュニケーションの根幹をなす概念である。そして2023年春季研究発表会では、副作用を機に活性化した子宮頸がんワクチンに関する報道が、適切なリスク・キャラクタリゼーションに貢献できていたのかについて、内容分析に基づいて評価し報告した。
報道の内容分析は、朝・毎・読の全国新聞大手3社を分析対象にすることが多いが、今回はそれらに加え、出版社系総合週刊誌と若年層向け女性週刊誌を分析対象とした。具体的には、ビジュアル・娯楽情報誌を除く出版社系の総合週刊誌で発行部数上位3社であった「週刊新潮」、「週刊文春(Woman含む)」、「週刊ポスト」と、女性週刊誌については生活情報・ファッション誌を除いて「週刊女性」、「女性自身」、「女性セブン」の記事を参照した。対象期間は、2013年4月から2022年3月31日とし、記事の検索ワードには『子宮頸がんワクチン』を用いた。利用したデータベースは、新聞記事は各社の電子データベース、週刊誌の記事は大宅壮一文庫である。
以上によって記事を抽出し、子宮頸がんワクチン報道に関連しない記事を除いた結果、朝日新聞206件、毎日新聞190件、読売新聞182件、週刊新潮5件、週刊文春5件、週刊ポスト1件、週刊女性5件、女性自身3件、女性セブン5件を分析対象として抽出することができた。
新聞の内容分析からは、子宮頸がんワクチンの報道で争点となっていた不安が「ワクチンの副作用への不安」と「副作用治療への不安」であったことがわかった。そして、新聞報道の傾向を参考に週刊誌の報道を質的に分析したところ、出版社ごとに内容が明確に異なっていたことが明らかになった。
週刊新潮はワクチンの有効性を主張する医師の意見のみを取り上げる傾向にあり、週刊ポストはワクチンそのものではなく報道倫理の問題を報じていた。そして女性自身は、ワクチンの副作用が薬害であることを宣言し、副作用についても不治の病であることを強調する内容であった。
これらは内容が一貫的だった週刊誌であり、週刊文春、週刊女性、女性セブンでは報道内容が突然変わっていたことが確認された。すなわち、週刊文春では、ワクチンの有効性に疑問を呈していたのが、2021年1月に突然ワクチンの有効性を強調していた。週刊女性と女性セブンについては、新聞社が副作用を騒いだ初期の時期には、ワクチンの有効性を訴える専門家と副作用被害者を対話させるような報道であったにもかかわらず、2016年に突然、副作用を認めさせたい勢力の意見のみを報じるようになっていた。
以上の結果を発表したところ、質疑応答では、週刊誌に見られた態度変容と態度変容が起こった時期の新聞報道に関連性を見出すことができるのではないか、という提案を頂いた。新聞報道については、記事内容の質の落差が激しかったがゆえに質的分析の指標を定めることができず、量的分析にとどまっていた。しかしながら、週刊誌は一つ一つの記事の質が確保されている。そのため、週刊誌での報道が活性化した時期やその内容を指標にすれば、新聞報道の質的分析の精度を高めることができると思われる。よって、今後の課題は、出版社系総合週刊誌の報道を指標に、新聞報道の内容分析の精度を高めることである。本研究にとって春季研究発表会は、週刊誌の報道内容を分析する学術的な価値を再確認できたという意味でも有意義であった。
主要参考文献
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塚本晴二朗(2021)『ジャーナリズムの規範理論』日本評論社.