「出版における経営・広告戦略としてのメディアミックスとその課題」公野勉(2022年5月14日、春季研究発表会)

出版における経営・広告戦略としてのメディアミックスとその課題
――出版原作の映像等二次制作における、監修と制作随意性に対する考察を中心として

 公野 勉
 (文京学院大学経営学部)

 
はじめに
 映画ではメディアミックスによる宣伝広告戦略を採る、多くの“原作付き”作品が配給される。原作はヒットに向けた部材であり、成功への保証でもある。本稿では原作をメディアに搭載し直す二次制作にはどのような問題が起きるか、メディアミックス事業における広告戦略としての二次制作はどのような位置づけとなっているか等を考察する。
 
1.問題となった作品

【メディアの搭載替えによる問題が発生した作品】
『この世界の片隅に』
 当作は劇場用アニメーションのヒットを受ける形で、原作には無いアニメーション独自の映像を参考とした表現部分を持つテレビドラマが、再度制作されたが、原作者がSNSで監修通りにはなっていない事、「『六神合体ゴッドマーズ』よりは原作に近いのではないか」との内容を投稿した。
 
『NANA』
 当作は何か事故やトラブルが起きた作品ではないが、現在の「一次×二次」の関係において大きな転換点となった。映画化に際して、キャストの外見やロケーションを漫画原作の描画そっくりに撮影、登場人物に酷似する俳優を起用した上で、衣装や美術もそっくりなものを使用、物語もセリフも原作のままに完成した。画面サイズについても原作コマに合わせた設計がなされており、当時、「出版社にとって理想的な映像化である」と高く評価された。これを契機とし、原作の代理人を自任し、二次制作許諾の可否の権限を実質的に運用する出版社は、以降の実写作品の二次制作に対し、当作を前例とした「原作通りの撮影と制作」を条件に挙げるようになる。
 
【原作者との取引関係上による問題が発生した作品】
『金色のガッシュ!!』(2001年)
 小学館の週刊少年サンデーの連載漫画が初出。2003年にアニメーション化(アニメーションのタイトルは『金色のガッシュベル!!』)。2011年、文庫本が出版社を変更して発売された。出版元が変更された理由は、原作者と担当編集者との関係の悪化にあるが、2008年の訴状では、編集者の怠慢や原稿の紛失を理由に挙げている。
 
【コアスタッフの変更に伴う問題が発生した作品】
『ブギーポップは笑わない』(2019年)
 2019年に行われた二度目のアニメーション化作品。メディアミックス展開中、初出メディアである小説において挿絵を手がけていたイラストレーターが、アニメーション化に際して、自身のデザインの新作内使用を知り、自身への報告や許諾依頼が無い事の不満を2018年3月にツイッターで発表、製作元のカドカワや制作会社へファンからの批判が起き、5月28日にカドカワは謝罪文を公式サイトに掲載する。
 
『ヤッターマン』(1977年・2008年)
 初出は1977年のTVアニメーション。2008年の新作に合わせてマーチャンダイジングとメディアミックスを展開。原作アニメーションにおいてオープニング楽曲を作曲、歌唱していた音楽家が、想定外の歌手が新録曲に起用される事、有名人歌手募集の告知に対してホームページにショックを告白。製作元への批判が集中、讀賣テレビは番組ホームページにて謝罪した。
 
【制作会社社側の事情による問題が発生した作品】
『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年)
『らき☆すた』(2007年)
 当作も事件や事故では無く、推移の検証となる。京都アニメーションによる制作。同社はクオリティも高く、2009年頃から作品の自己資本率を高めて発言力を上げた結果、幹事社や配給社が収益を担保される事と反比例して発言権を失っている。
 
『けものフレンズ』(2017年)
 コンセプトデザインを描いた漫画家が原作・著作者人格権者相当の人物である。アニメーション制作時に独自的に発生した部分的版権の既得性・始原性の確認をアニメーション制作会社が求めた結果、委員会の総意として著作権の分岐には合意ができない旨が結論され、当該制作会社は第2期の制作体制からは離脱した。
 
2.解決を前提とした今後の展望と提

 以上のケースとその分析から、現時点で考え得るメディアミックス事業の経営的なプロテクションと、宣伝・広告的な戦略を以下のようにサマリする。
【Ⅰ.著作人格権の法人著作権化】
【Ⅱ.代価の買い取りではない、印税システムの徹底】
【Ⅲ.資本側のフェアな取引意識の醸成、クリエイター側の資本構造の理解の促進】
【Ⅳ.SNS危機管理の徹底】
 
3.最後に

 高資本でなければメディアミックスは困難である一方で、少人数あるいは1人だけでコンテンツを作れるような高い機能のアプリケーションも多数登場している現在、コンテンツビジネスの概念自体が変質しつつある。