装丁のイメージ画像が書籍の購買意欲に及ぼす影響
岡野雅雄(文教大学)
浅川雅美(文教大学)
1.研究の背景と目的
商品パッケージは、店頭においてわずかな時間で消費者の注意を引き、製品の情報や価値を伝達する手段として重要な役割を担っている。これは、書籍にも該当しており、小宮山・福島・盛川(2018)は、オンラインで書籍を購入する際、表紙の外観を重視する人が多いことを実証的に明らかにしている。しかし、Leito, Amaro, Henriques, & Fonseca(2018)が指摘しているように、消費者がどのように書籍を選択しているかについて検討した研究はあまり行われておらず、書籍の表紙の構成要素(例えば画像)が消費者の購買行動に及ぼす影響についての先行研究は見当たらない。そこで本研究ではこれについて実証的に検討することにした。
2.仮説の設定
パッケージの画像が消費者反応に及ぼす影響について、Underwood, Klein, & Burke(2001)およびUnderwood & Klein(2002)、外川・石井・恩藏(2016)などの先行研究を参考に以下の仮説を設定した。
仮説1:書籍の表紙の好感度は、画像がある方が無い場合よりも高くなる
また、ワインラベルにおいて、画像非掲載、商品名と整合性のある画像掲載、商品名と整合性のない画像掲載の3パターン効果の違いを分析したJaud & Melnyk(2020)を参考に、以下の仮説を設定した。
仮説2:書籍の表紙の好感度は、画像と書籍名に整合性がある方が無い場合よりも高くなる
3.調査方法
予備調査の結果に基づき、書籍の年間購入数が0冊の人、1~4冊の人、5冊以上の人がそれぞれ1/3ずつになるように抽出した700人の被調査者を対象とし、2021年7月下旬~8月上旬に、Web調査の形で実施した。実験刺激としては、『消費者の心理』と『愛犬の気持ち』の2種類の書籍それぞれに対して、①書籍名と整合性のある画像、②書籍名と整合性のない画像、③画像無しの3種類の表紙(合計6種類)を作成した。この6種類の実験刺激のうち1種類が、ランダムに被調査者に割り当てられる。被調査者には、その表紙を見て、a)表紙が書籍名と一致していると思う、b)表紙の好感度、c)表紙を見て、書籍の内容がよさそうに感じる、d)自分のために買いたい、e)誰かにプレゼントしたい、という評定項目について、7段階評定をしてもらった。
4.結果と考察
4.1 表紙の好感度が購買意欲に及ぼす影響
表紙の好感度が購買意欲に及ぼす影響(表紙の好感度⇒購買意欲)について、書籍名と画像の組み合わせを変えた6種類について重回帰分析を行った。その結果、組み合わせのパターンによってばらつきがあるものの、標準化係数は0.442から0.691でいずれも統計的に有意であり、プラスの影響が認められた。つまり、購買意欲を喚起するには表紙の好感度を高めることが重要であることが示唆された。
4.2 表紙の好感度に及ぼす、書籍名および表紙の画像の影響
表紙の好感度を従属変数、書籍名と画像を独立変数とした二元配置分散分析を実施した。その結果、主効果には有意差が認められず、画像の違い、書籍名の違いは、単独では表紙の好感度に違いをもたらしていなかった。
一方、書籍名と画像の交互作用には有意差が認められ、『愛犬の気持ち』に子犬の画像を用いた時(一致条件)は、矛盾条件・画像なし条件と比べて好感度が高かった。しかし、『消費者の心理』に財布をもった女の子の画像を用いても、そのような効果は認められなかった。これは、後者については整合性を感じなかった被調査者が比較的多かったことによると考えられる。また、『愛犬のきもち』に子犬の画像を用いたときは好感度が有意に高く、『消費者の心理』に同じ画像を用いた時は好感度が有意に低かった。つまり、同じ画像を用いても、書籍名との整合性がない場合は表紙の好感度が低くなり、整合性がある場合は表紙の好感度が高くなることが確認できたことになる。
以上の結果から、仮説1は、一概に言えないことが分かった。また、仮説2は支持された。さらに、同じ画像を用いても、書籍名との整合性がない場合は表紙の好感度が低くなり、整合性がある場合は表紙の好感度が高くなることが確認できた。
5.質疑応答
①評定尺度、および、②被調査者の書籍の年間購入数を0冊、1~4冊、5冊以上に分けて見た場合についてご質問をいただき、以下のように回答した。①については、1~7の回答カテゴリーは言語的に提示し、たとえば4は「どちらでもない」であったことを補足した。②については、3つのグループの中で、書籍の年間購入数が「1~4冊」のグループは、表紙画像への反応が現れやすい傾向が見られたことをご報告した。