《ワークショップ》
学協会活動のアクセシビリティを考える
――日本出版学会の活動を中心に
登壇者 植村八潮(専修大学)
野口武悟(専修大学)
池下花恵(相模女子大学)
植村 要(鶴見大学)
1.目的
本ワークショップは、全国の学協会における学術情報・コミュニケーションのアクセシビリティに関する取り組みを確認し、日本出版学会はどのようにアクセシビリティに取り組むのかについて考えるものとして開催した。
本ワークショップでは、まず昨年度、出版アクセシビリティ研究部会が実施した日本学術会議協力学術研究団体を対象とするアンケート調査の結果(調査方法と対象の詳細については、予稿集を参照)と、アクセシビリティに対する取り組みの先進事例を報告し、フロア参加者と議論した。以下では、この調査結果と先進事例の紹介を記す。
2.調査結果
日本学術会議協力学術研究団体を対象とするアンケート調査の結果では、315団体から回答(1,958団体のうち)があり、回収率は16.0%であった。
学協会誌のアクセシビリティについての結果では、学協会誌の発行媒体の主な回答として、紙媒体のみが185団体、紙媒体とオンラインジャーナルが71団体、オンラインジャーナルのみが41団体であった。複数回答も含めて紙媒体を選択した269団体に、学協会誌の頒布においてアクセシビリティ対応をしているか質問したところ「全くしたことがない」が248団体であり92%、「している」が18団体、「過去に行ったことがあるが、今はしていない」が3団体であった。「している」と回答した18団体のアクセシビリティ対応としては、アクセシブルなPDFが10団体、PDFだがアクセシブルかアクセシブルでないかわからないが4団体、アクセシブルでないPDF、テキストファイルがそれぞれ1団体であった。
研究大会の情報保障の有無に関する結果では「している」と回答したのは20団体であり、そのきっかけをたずねたところ、「研究大会の実行委員会からの提案」が最多で7団体、「障害当事者からの要望」が5団体、「障害者差別解消法などの制定による社会的機運の高まり」、「研究大会のテーマや発表内容に応じて」が共に4団体であった。
学協会ウェブサイトにおけるアクセシビリティ機能の装備に関する結果では、「備えている」と回答したのは20団体であり、その対応に取り組んだきっかけをたずねたところ、「学協会Webサイト運営者からの提案」が最多で7団体、「学協会理事会からの提案」が5団体であった。
3.学協会におけるアクセシビリティに対する取り組みの先進事例
学協会におけるアクセシビリティに関する取り組みは、総じて進んでいないが、熱心な取り組みを行なっている団体もある。
発表時における会場での情報保障として、ヒューマンインタフェース学会では、1999年に開催された「第1回ヒューマンインタフェースシンポジウム’99」において、手話に関する研究発表がある会場でPC要約筆記が行なわれた。
また、電子情報通信学会では、ヒューマンコミュニケーショングループの情報保障ワーキンググループが、従来の情報保障方式を導入した場合の経費の試算の検証などを行ない、「論文作成・発表アクセシビリティガイドライン」および「情報保障マニュアル」を公開した。
「論文作成・発表アクセシビリティガイドライン」には、発表者用の「発表時の情報保障に関するアクセシビリティガイドライン」、主催者用の「情報保障マニュアル」が作成されている。「発表時の情報保障に関するアクセシビリティガイドライン」には、論文作成ガイドライン、電子プレゼンテーション(Microsoft PowerPointなど)・スライド・OHP等の作成アクセシビリティガイドライン、発表時アクセシビリティガイドライン、チェックリスト、論文作成・発表アクセシビリティガイドラインチェックリスト、学会・研究会等会場へのアクセス配慮チェックリストが記載されている。「情報保障マニュアル」には、(1)手話通訳や要約筆記とその手配手順、費用などの聴覚障害関連の従来型の情報保障、(2)点訳、テキストデータの配布などの視覚障害関連の情報保障、(3)音声認識を用いた字幕システム、遠隔手話通訳・字幕システム、字幕拡大投影システム、自動点訳機能つき講演原稿受付システム、ローヴィジョン対応拡大画面手元配信システム、盲ろう者への実時間点字・指点字提示システムなどの新しい技術による情報保障について記載されている。
(文責:植村要)