「米国公共図書館における電子書籍・オーディオブック・映像資料の提供の現状と日本の課題」長谷川智信(2021年5月8日、春季研究発表会)

米国公共図書館における電子書籍・オーディオブック・映像資料の提供の現状と日本の課題

 長谷川智信
 (一般社団法人電子出版制作・流通協議会)

 
概 要
 今日、あらゆるサービスのデジタル化・ネットワーク化が進んでおり、図書館が提供する主な資料である出版物においてもデジタル化・ネットワーク化が進んでいる。
 海外特に米国の公立図書館では2014年の時点で電子書籍提供が9割となっており、新型コロナ感染症が猛威を振るい図書館が休館となった2020年においては積極的に電子図書館サービスが利用された。
 そこで、この発表では、米国の図書館の実態を示すとともに、図書館における電子書籍(E-books)や、オーディオブック(Audio Materials)、映像資料(Video materials)の実態について示すものである。
 なお、この発表において「電子図書館サービス」とは、主に「電子書籍貸出サービス」のことを言う。
 
1.はじめに
 一般社団法人電子出版制作・流通協議会(以下、電流協)では、2010年の設立時より、電子図書館部会(現在、電子図書館・コンテンツ教育利用部会)を設けた。2013年より毎年電子図書館アンケート調査を実施し、アンケート結果を中心に『電子図書館・電子書籍貸出サービス調査報告』を発行してきた。
 日本の公共図書館においては2010年以降においても電子図書館サービスの普及が進まなかった。昨年2020年度は新型コロナ問題で、多くの図書館が閉館を余儀なくされ電子図書館サービスが注目された。自治体図書館における電子図書館サービスの導入は政府の助成金が利用できたことなどから、2020年度後半期に電子図書館サービスの導入が急増し、コロナ問題発生から約1年を経過した2021年4月1日時点においては、昨年の倍以上の205自治体(電流協調べ)に普及した。
 一方、米国では、2013年にすでに89%の自治体で「電子書籍やオーディオブックなどの電子図書館サービス」が行われており、2015年には94%の普及で、10万人以上の自治体では100%の普及となっている。
 
2.米国公共図書館と電子図書館
(1)電子化する米国の図書館
 米国の公共図書館では紙書籍等の貸出サービスだけでなく、地域コミュニティとしてのイベントの提供、家にパソコンが無い人へのパソコン利用環境の提供、施設に来なくても電子図書館を利用して電子書籍やオーディオブック、ストリーミングによる映像配信が利用でき、地域の公共サービス機関として積極的に電子図書館サービスを提供している(注1)。そのことから、2020年の世界的なコロナ禍においても、米国のパブリックライブラリーはオンラインを通じて、電子書籍の提供や、オンラインイベントなど多様なサービス提供がなされた。

(2)米国公共図書館の94%がE-booksを提供
 米国ではE-booksを提供する公共図書館が9割以上で、図書館に行かなくても自宅などからE-booksを自宅などから読むことができる。
 米国の図書館専門雑誌『Library Journal』(注2)が2010年から2015年にかけて行った米国のパブリックライブラリーアンケート調査の2015年調査結果(注3)(2015年9月発表)を見ると、2010年では72%、2011年では82%、2012年には89%とほぼすべてのパブリックライブラリーで電子書籍が提供されており、2014年では95%の図書館で電子書籍の提供が行われ、2015年では94%となった(2015年の調査回答数は317館)。このように米国では電子書籍サービスの普及がいきわたったことからか、2016年以降このアンケート調査は行われていない。
 また、このアンケート調査では、その図書館を有する自治体等の人口でみたE-books提供の普及率を発表している。これをみると、人口10万以上の自治体では、普及率が100%であり、人口が25,000人から99,000の自治体では98%、人口25,000人未満の自治体でも84%で電子書籍サービスが実施されている。
 
3.米国の電子図書館についてのまとめ
 新型コロナ感染症によって、日本の公共図書館においても「電子図書館サービス」が注目されることとなったが、まだ8割以上の自治体では「電子図書館サービス」が導入されていないという現実がある。
 一方、米国では、前述のようにほとんどの公共図書館において、電子図書館サービスが導入されている。同サービスの導入においては、導入だけでなく、同サービスを理解してサービスの運営を担うスタッフ及び図書館員すべての理解と知識の充実が必要である。また、それぞれの図書館において、サービスを理解する図書館スタッフが、同サービス提供の事業者とともに、利用者にどんなサービスやコンテンツを提供するのが望ましいか、ということを考えることが必要である。
 

1)岡部一明、アメリカの電子図書館とE-BOOK市場、2019.7
2)Library Journal https://www.libraryjournal.com/
3)Library Journal, Survey of E-book Usage in U.S. Public Libraries, September 2015