「公共図書館における、電子図書館サービス導入の実態と課題、新型コロナウイルス感染問題による図書館の意識の変化について」長谷川智信(2020年9月12日、春秋合同研究発表会)

公共図書館における、電子図書館サービス導入の実態と課題、
新型コロナウイルス感染問題による図書館の意識の変化について

 長谷川智信
 ((一社)電子出版制作・流通協議会)

 
概 要
 今日、あらゆるメディアにおいて、情報のデジタル化が進んでおり、図書館の主たる資料である、出版物においても、急速にデジタル化が進んでいる。
 海外特に米国の公立図書館や、日本の大学図書館では電子書籍貸出サービス(以下、電子図書館サービス)の普及が9割を超えて図書館における必須のサービスとなっている。
 しかし、日本の公共図書館における、電子図書館サービスの普及は2020年7月1日現在で100の自治体であり、図書館を持つ1,380自治体からみると導入率は7.2%である。
 ここで、公共図書館における「電子図書館サービス」をはじめとするデジタル化資料の提供は、自治体の情報センターとしての役割及び、自治体の教育の情報化の推進として重要になると考えられる。
 また、2020年は新型コロナウイルス問題により、公共図書館においても「電子図書館サービス」に対する意識の変化がみられる。
 
1.はじめに
 本研究の目的は海外や日本の大学と比較して日本の公共図書館に導入が進んでいない電子図書館サービス特に「電子書籍貸出サービス」の実態と課題を明らかにすることである。
 
2.公共図書館の役割と、自治体、利用者との関係について
 自治体の設置する公共図書館の役割は「図書館法(昭和25年4月30日法律第118号)」に規定されているように「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする」(2条1項)ことであり、急速に進む情報のデジタル化においては、紙書籍等だけでなく、電子書籍やデジタル化された自治体・行政が発表する資料や国立国会図書館の資料の提供や、利用サポートが必要であり、教育の情報化が進む自治体の小中学校の学校図書館のデジタル化をサポートすることが望まれる。
 
3.情報のデジタル化と電子図書館サービスの普及
 日本の公共図書館における「電子図書館サービス」の導入図書館数は、2020年7月1日現在で100自治体・97電子図書館であり、公共図書館がある自治体数(1,380自治体)からみると、7.2%であり普及が進んでいない状況にある。
 一方、米国の公共図書館では9割以上の図書館において電子図書館の導入が進んでおり(注1)、また、日本の大学図書館においても電子書籍サービスの導入が97%と、電子書籍提供は電子ジャーナルサービスや、データベース提供サービスとともに必須のサービスとなっている。
 
4.電子書籍等電子情報の利点と図書館提供者の期待
 電子書籍の提供は、紙の書籍では実現できない利点が多い。電子図書館サービスのメリットとしては、場所や時間にとらわれずに、インターネットを通じて電子書籍の検索・貸出・返却・閲覧が可能であるため、特に時間や場所等の問題で図書館に来館できない、非来館者サービスや音声再生可能な電子書籍については、文字を読むことが困難な人でも読書ができるという点もある。
 
5.電子図書館サービス導入における課題
 電子図書館サービスアンケートでは、「電子図書館サービス」の導入の課題について、「どのような課題・懸念事項があるか」の調査を行っている。
 電子図書館をまだ導入していない図書館では「予算の確保」(91.0%)が最も多く、次に「導入の費用対効果」(69.8%)、「提供される電子書籍コンテンツ」(59.4%)、となっている。
 一方、導入済みの図書館だと、「提供される電子書籍コンテンツ」(90.7%)、「費用対効果」(55.8%)、「予算の確保」(48.8%)となっている。
 
6.紙の本と電子書籍の役割と補完関係について
 最後に、電子書籍の役割と本の役割との違い、補完関係について述べたいと思う。
 紙の本を読書とする考え方からすると、電子書籍を「読む」ことは読書かどうかの問題がある。
 しかし、電子書籍の役割としてはまず、読書向けというよりも、変化が激しいICTの機器等の最新情報を提供することや、法律の改正などの正確な情報を提供するということがあり、その分野については電子図書館サービスを用いるというのは理にかなっているといえる。
 2020年のコロナ禍においては、図書館が休館を余儀なくされ、図書館が紙の本を提供することが困難になった。そのような時期に電子図書館サービスを実施している図書館では電子書籍の貸出を行うことができた。
 このように、電子書籍は紙の本を完全に置き換えるというよりも、紙書籍と機能的特徴やコンテンツの役割などを鑑みてそれぞれの特徴とする部分を生かして補完しあうことで、図書館としての本来の使命を果たすことが必要だと言える。
 

1)ライブラリー・ジャーナル、Survey of Ebook Usage in U.S. Public Libraries, September 2015, p.5
https://s3.amazonaws.com/WebVault/ebooks/LJSLJ_EbookUsage_PublicLibraries_2015.pdf