酒井 信
(文教大学情報学部メディア表現学科准教授)
1. 研究目的
この研究発表は,文教大学情報学部メディア表現学科の出版・ジャーナリズム分野において,発表者がゼミナールの教育活動の一環として行ってきた冊子制作のプロジェクトの概要と教育上の効果についての研究成果をまとめた内容である.本研究発表では,学術的な視点と教育的な視点の双方の視点から,Media Studiesに関連する学科における冊子制作プロジェクトの教育・研究上の意義を明らかにすることを主目的とした.図1は,文教大学情報学部メディア表現学科・酒井信ゼミナール制作「メディア表現 第二号」(2018年3月発行)の表4(左),表1(右)である.裏表に異なるテイストの表紙を配置することで,異なる表紙を用いて,平積み時の訴求効果を高めることを目的としている.
図1
2. 取材・編集活動について
冊子制作の教育上の意義と効果について考える上で,一つ目のポイントは,Bill KovachとTom Rosenstielが定義する「人々が情報の自治の担い手であることへの自覚を促す」というジャーナリズムの定義を参考にした,Media Studiesに関するアクティブ・ラーニングについて評価することにある.二つ目のポイントは,学生と教員の双方の視点を交えながら,130ページに及ぶ冊子制作を一年間かけて行うことで,学科の教育活動の詳細を情報公開する方法とその効果について検証することにある.冊子制作のプロジェクトは,在校生や受験生,教職員やその父母,地域の方々やインターン先の企業の方々,OB・OGなど,学科の教育・研究活動を支えてくれている人々に対して,学科の教育活動の情報公開を行い,一定の公共性を有した記事を紙媒体で,制作に関わる学生たちの「暖かみ」を伝達することを意図している.三つ目のポイントは,企画・取材・執筆・編集・デザイン・広報等,冊子制作の複合的なプロセスを通して,長期間にわたるゼミの課外活動として,それを実践する教育上の意義について評価することにある.3年生が中心となって制作したA5サイズの冊子は,4年次の就職活動で格好の「名刺代わり」になり,昨年度のゼミ卒業生の就職実績からも,進路の開拓に貢献していると判断できる.図2は文教大学の学生に対する社会調査を兼ねたアンケートの集計・分析結果である.家族・友人・恋人とのコミュニケーションや学生のメディア受容に関する質問を,社会調査に関する学習内容を踏まえて,毎年定点観測で実施することで,Media Studiesを専門とする学生達の「情報の自治の担い手」としての意識を高めることを目的とした.
図2
3.結論
上記の一点目について得られた知見をまとめると,冊子制作を通して学生達は,学科の特徴的な授業の要約や,学科の専任教員やキャリア支援課などの職員へのインタビュー,ゲストの講義のまとめの作業,OB・OGへの取材活動等を通して,広義のMedia Studiesに関する教育内容に参加する意識を強め,自分自身が受けている教育内容を客観的に捉え見直す機会を得て,学科教育に関する「情報の自治の担い手」としての意識を高めることができたと判断できる.上記の二点目について得られた知見をまとめると,大学が広報上の観点からトップダウンで作成した制作物とは異なって,学生達は多角的に大学生活を捉え,課外研修や海外研修,サークル活動やアルバイト,インターン活動などを含めた学生生活全般について,情報公開の促進に貢献できたと判断できる.上記の三点目について得られた知見をまとめると,130ページに及ぶ冊子制作は,労度が高い作業であるため,制作の中心となるゼミの3年生は,その前年度に冊子制作を経験した4年生から,企画・取材・執筆・編集・デザイン・広報等,多岐にわたる知見を継承する必要があった.このため学生達は課外活動の時間を含めて,相互の学び合いを促進し,広義のMedia Studiesに関する知見を,多岐にわたる編集作業を通して実践的に身に付けることができたと判断できる.
発表に際して多くの好意的なご関心と質問を頂いた.この場を借りて感謝申し上げたい.頂いたコメントについては,今後の教育・研究活動及び,大学の研究室を拠点としたマイクロ・パブリッシング活動に生かしたいと考える.