司会:柴野京子(上智大学)
問題提起者:飛鳥勝幸(三省堂出版局)
討論者:磯部敦(奈良女子大学)、中村健(大阪市立大学学術情報総合センター)
近年、本学会では出版史をテーマとした研究会・ワークショップ等が連続して開催され、史資料の発掘・共有・利活用とデジタル化に対応したプラットフォーム開発の必要性が討議されてきた。今回のワークショップでは、この一連の流れを受けて、データベースの共同製作という具体的なプロジェクトに向けた提案を行った。
最初に問題提起者の飛鳥勝幸氏から、同氏が永年にわたって独自に収集してきた出版者の創業・独立に関するデータベースの説明が行われた。このデータは、社史・回想録などをもとに、出版者の異動・枝分かれの系譜をエクセル上に可視化したもので、文学系を中心に約1600社が収録されている。データ内容は、出版社名、創業者名(出身大学)、設立年月日、前職の経歴、独立の経緯、社名の由来、刊行物、その他企業情報などで、逆引き・社名のみの簡略版も作成している。収集の目的は、出版社創業者の表現者としての軌跡と歴史を残すことであり、出自・源流から縦軸の視点として、出版技術と精神――企画、編集方針、ジャンル、販売方法などに継承される特徴を見出すことが可能である。
続いて討論者の磯部敦・中村健両氏から、関連する話題提供があった。磯部氏は、自身が研究対象としてきた東京稗史出版社関連情報の調査、「東京出版業者名寄せ」(磯部編『明治前期の本屋覚書き』金沢文圃閣)編纂などから具体的事例をあげて、近代の出版業のデータ収集の方法、留意点のレビューが提示された。また中村会員は、図書館における目録運用の視点から、転居ファイル・レコードのスタイルなどについて指摘があった。後半のディスカッションは中野綾子会員の協力により、意見を随時スクリーンに投影しながら進められた。出された主な意見は次のとおりである。
・対象時期・データ内容
・近現代を区切る必要性はない
・典拠の記載(真偽は別として)は不可欠
・地理データ(住所・出身地)、資本関係がほしい
・ 創業後の親会社の変遷(どのようにデータ化していくのか)
・理系・実用書系を増やしていくこと
・データベースの構造について
・外部とつながる識別子が必要ではないか。
・他分野でいかにデータベースを使用するか
・作業のすすめかた
・作業自体におおいに意義がある
・まずは抜けがあってもデータを作成することが必要。NOTEに情報をためておき、のちに腑分けすることもできる。
・wikiを作成して、共同作業を行う
・会員外の研究者・出版人の持つ情報の集約はどうするか
・出版社に協力してもらうことはできないのか
・参考資料
・既存のデータベース、名簿等の活用、奥付の利用
・国立国会図書館リサーチナビ「出版人の履歴を調べる」
・千代田区図書館の出版資料(社史等)の有効活用
・人事興信録、商工会議所の情報 等
全般に大きな関心をもって受け止められ、終了後の懇親会でも多くのアイデアが提案された。またデータベース化と利活用にあたっては、ワークショップ終了後に、国立情報学研究所の高野明彦教授を訪問し、具体的な助言を得た(2017年8月4日、飛鳥・柴野)。出版史研究部会と関西部会協同で、引き続きプロジェクト実現に向けた活動を継続したい。
(文責:柴野京子)