《ワークショップ》いま再販問題を考える 清田義昭 (2016年5月 春季研究発表会)

《ワークショップ》 いま再販問題を考える

 司会者:清田義昭(出版ニュース社)
 問題提起者:高須次郎(緑風出版、前日本出版者協議会会長)
 討論者:福嶋聡(ジュンク堂書店)
      和泉澤衞(東京経済大学現代法学部)

 再販制が存置されて15年になる。そうしたなかで再販制に対する議論はほとんどないといってよい。一方では、電子書籍が非再販であることに対して疑問を主張する声もある。なぜ、著作物である電子書籍に再販が認められないのかということだ。
 また、再販制に対しては、アマゾンが再販違反をしているとして、批判をつづける日本出版者協議会の人たちもいる。
 いま、再販問題を考えるワークショップが出版学会で実施されることの意味は大きいということで提起された。(司会 清田)
 出版協の元会長高須次郎氏は2012年8月にアマゾンが学生向けの大幅なポイントサービスをはじめたことに危惧を感じた。そして、ポイントサービスから自社出版物を除外するように申し入れた。その背景には公正取引委員会によるポイントサービスは値引きにあたるとしていることがある。ただ公取委はその値引き行為が再販契約に違反するかどうかは出版社が判断し、その意図を受け取次も対処できるとしている。また、1%といったお楽しみ程度のものまで、再販違反として出版社が止めさせるのは消費者制度に反するとの見解への反論である。
 アマゾンの売り上げシェアが高まり、アマゾンとの直取引が増えていくと再販制は崩壊し、出版社は価格決定権を奪われ買いたたきにあう。出版社は出版計画が成立しにくくなり硬い本の出版ができなくなる。読者・著者はそれでいいのかという提起をした。
 これに対して福嶋聡氏はまず第一に著作者の保護を目的とする。パトロニズムによる保護は著者だけではなく、つくる人、届ける人にもおよんでおり、出版流通を支えるという立場である。そうしたなかで需給曲線を描けない出版物は経済原理になじまないという。再販ありきのなかで出版の位置づけをした。
 公正取引委員会出身の和泉澤衞氏は再販制の切り口からみえるものはビジネスにおける売れ残りのバランスである。そして、ビジネスの成否は自身のリスクとリターンの勘案にかかってくる。一方「定価販売制」は価格競争がないので創意工夫のサイクルが働かないとして消費者からは評判が悪い。流通が委託制の場合リスクとリターンはどうか。最終的には破棄されるものを減らせば効率的になるばかりか「価格」に反映できるという。
 それぞれの意見表明ののち、参加者からの発言があった。そのほとんどが、再販制のメリットを中心に、現行取引についての実感の吐露、つまり、出版流通の不備の指摘がでたように思う。いずれにしても再販論議は現行のアマゾンを中心に論議することがわかりやすいのではないかということで終了した。
(文責:清田義昭)