2010年と2011年に実施した電子書籍に関する調査結果の比較  矢口博之・植村八潮 (2011年5月 春季研究発表会)

■2010年と2011年に実施した電子書籍に関する調査結果の比較
 (2011年5月 春季研究発表会)

 矢口博之・植村八潮

はじめに
 米国では電子書籍市場が拡大を続けている一方,日本国内における電子書籍市場は極めて小さく,電子書籍端末についても普及が遅れている。そこで我々は,電子書籍の認知状況や利用意向,電子書籍の普及を妨げる要因などに関する知見を得ることを目的として,2010年1月にウェブによる調査を実施し,約400名のパネルから回答を得た。この調査で得られた知見をもとに2011年2月に同様の調査を実施し,約1,700名のパネルから回答を得ることができた。
 電子書籍元年と呼ばれた2010年には,数社から電子書籍端末が発売され,さまざまなメディアで取り上げられたことから,日本国内においても電子書籍に関する認知度や,利用意向が大きく変化したものと予想される。そこで本報告では,2011年におけるウェブ調査の結果と,2010年と2011年の調査結果を比較することで,この1年の間に電子書籍に関する認知度や利用意向がどのように変化したかについて分析することを目的とする。

1.今年度実施したウェブ調査の概要
 本年度の調査は,総務省「平成22年度 新ICT利活用サービス創出支援事業」の採択プロジェクトの1つである「電子書籍交換フォーマット標準化プロジェクト」の一環として実施した。
 調査対象地域は,Hi-panelが通常用いている「首都圏(40km圏)」ならびに「阪神圏(20km圏)」を対象とした。標本抽出枠は,エリアサンプリングなどを用いた標本抽出により集めた登録者集団(パネル)で15歳から69歳までの男女を対象とした。なお,調査実施期間は2011年2月4日,17:00から2011年2月7日,9:00までである。
 メールで調査依頼を発信した3,524件のうち,1,753件を回収したが,回収後のベリフィケーションにより76件を除外とし,最終的な有効回収数は1,677件,有効回収率は47.6%となった。以後の集計ならびに分析は,この1,677件を対象に行った。

2.質問項目
 今年度の主な質問項目は,昨年度実施した調査項目を基本的に踏襲し,「読書する場所」「電子書籍端末のブランド別所有状況」「紙書籍に対する電子書籍の普及予測」「スマートフォンの利用状況」などいくつかの質問を追加し,延べで91項目について調査している。

3.調査結果
3.1 読書行動と書籍に関する意識・行動
 読書や本に関する意識について尋ねたところ,基本的には2010年と同様の回答傾向であった。不要になった時の本の処理方法に関しては,2011年は書籍と雑誌を別の質問で訊いたため,直接比較はできないが,書籍では2010年とほぼ同じ回答数の項目がいくつか見受けられた。

3.2 電子書籍に関する認知度・利用意向
 電子書籍に関する認知度については,「内容は知っている」という人が,44.4%から68.3%へ増加し,「はじめて聞いた」と回答した人については6.8%から0.8%へと減少するなど,電子書籍に関する認知はこの1年間でかなり進んだことがわかる。ただし「すでに利用した」人は微増に留まっている。電子書籍の利用意向についても「ぜひ利用したい」という回答では全年齢層で2010年を上回っており,特に20代,40代については10%以上の増加が見られた。
 電子書籍端末のブランド別認知状況については,2010年の調査時では日本国内で発売されているものは無く,海外で発売されている機種とかつて発売されていた機種について尋ねた。2011年の調査では,iPadは72.2%の人が認知しており,同じブランドで携帯電話も展開しているガラパゴスも53.2%,電子書籍専用端末のリーダーでも25.5%の認知度があり,「ひとつもない」と答えた人は20.0%と大幅に減少した。しかし実際に所有しているかについては,最も認知されているiPadでも3.0%であり,他の端末は0.3~0.4%とさらに低い。また電子書籍端末所有者に利用頻度を尋ねたところ51.1%が「ほとんど利用していない」という回答であった。

3.3 電子書籍に関する意見
 「今後の技術の進歩にともない,“紙の書籍”の時代が終わり,次第に“電子書籍”の時代になるだろう」という意見に対する設問では,2010年に対し,2011年では肯定する意見が増え,否定する意見が減っている。しかしながら,電子書籍(端末)に関する意見についての設問では,ほぼ2010年の結果と同じだが,2010年のアンケートにおける自由回答から抽出した「本がデジタル化するのは時代の流れで仕方ないと思う」という消極的な賛成意見が53.2%を占める結果となった。

まとめ
 2010年度に引き続き,2011年においても読書や書籍に関する行動の特徴,電子書籍・電子書籍端末の利用状況や利用意向についてのウェブ調査を実施した。その結果,読書行動と書籍に関する意識・行動については,2010年と2011年ではほぼ同じ傾向を示していることが確認された。電子書籍元年と呼ばれた2010年において,電子書籍や電子書籍端末の普及についてはわずかな変化しか見られなかったものの,認知度や利用意向については一定の進展が認められる結果となった。