■ 日本における電子書籍の流通・利用・保存の現状と課題 (2009年5月 春季研究発表会)
湯浅俊彦
1.研究目的
日本における「電子書籍」の量的拡大,コンテンツの多様化,そして読者の受容という状況を踏まえ,電子書籍の流通・利用・保存の現況について調査した。
2.研究手法
国立国会図書館の2008年度調査研究の委嘱を受けて「日本における電子書籍の流通・利用・保存に関する調査研究」を実施した。調査方法は以下の通りである。
2.1 電子書籍の流通・保存状況
調査対象:出版社,コンテンツプロバイダー,携帯電話キャリアなど
調査方法:
・インタビュー調査(出版社,コンテンツプロバイダー,携帯電話キャリア,電子書籍の調査報告書刊行社,合計19社)
・アンケート調査(日本書籍出版協会,出版流通対策協議会会員社,配布数565社,回収数255社,回収率45.1%)
2.2 電子書籍の利用状況
調査対象:国立国会図書館職員
調査方法:アンケート調査(配布数904名,回収数373名,回収率41.3%)
3.結果の知見(抄)
3.1 出版社調査に見る電子書籍の現況
電子書籍の刊行状況
現在,何らかの電子書籍を刊行している出版社が27.1%,かつて刊行していたが現在は手がけていない出版社が1.2%,刊行していない出版社が71.8%と,刊行していない出版社の方が圧倒的に多い。
電子書籍の提供開始年
電子書籍を閲覧するための端末は,従来のパッケージ系電子出版物や電子書籍専用端末から,携帯電話,あるいはゲーム機,iPodなどのデバイスに移行している様子が窺える。
エンド・ユーザーに提供している電子版コンテンツのフォーマット
出版社がエンド・ユーザーに提供している電子版コンテンツのフォーマットについては,「PDF形式」が最も多く,次いで「テキスト形式」,「HTML形式」,「XMDF形式」,「.BOOK形式」,「コミックサーフィン形式」,「FLASH形式」,「携帯書房形式」の順となっている。
電子書籍への関心状況
電子書籍を刊行していない出版社は,「刊行を検討していない」(64.5%)と電子書籍分野への進出には慎重な姿勢となっている。
書籍の一部分を電子的に検索,閲覧できるサービスへの参加状況
書籍のテキスト検索への参加状況は,「参加していない」が最も多く,次いでアマゾン「なか見!検索」,グーグル「ブック検索」,その他のサービスと続くが,電子書籍を刊行している出版社の方が刊行していない出版社より参加率が高い傾向が見られる。
電子書籍の普及と紙媒体への影響
電子書籍が普及するにつれ,紙媒体書籍が売れなくなると考える出版社は,「その通りだと思う」(10.2%),「やや思う」(37.6%)を合わせて47.8%と約半数を占め,「あまり思わない」(33.7%),「全く思わない」(9.8%)の43.5%をやや上回っている。
3.2 対策が必要な電子書籍の保存
電子媒体は網羅的に収集・保存しなければ紙媒体の資料よりもさらに散逸・滅失の危険性が高い。だが現在の電子書籍の発行者はその長期保存については関心が低いように思われる。PCや読書専用端末など媒体そのものが違っていることがあり,PCだけをとってもデータフォーマットが統一されていない。だが媒体変換や長期保存の体制の確立などの問題点はまだ,充分に認識されているとはいえない。保存に対する注意の喚起が必要である。国立国会図書館職員のアンケート調査結果でも言及されているが,利用に関しては出版社の反発が強いことがすでに明らかになっており,法の整備も含め,著作権者や出版社に配慮した慎重な対応が求められる。
【なお,本発表の原資料は『電子書籍の流通・利用・保存に関する調査研究』(国立国会図書館,2009年3月)に収録されており,http://current.ndl.go.jp/report/no11にて閲覧・印刷が可能である】
(初出誌:『出版学会会報125号』2009年10月)