日本出版産業の構造変化雑誌メディアの低迷とデジタル技術の影響  星野 渉 (2008年5月 春季研究発表会) 

日本出版産業の構造変化雑誌メディアの低迷とデジタル技術の影響

 (会報122号 2008年10月)

   星野 渉

 日本の出版産業は,メーカー(出版社),流通(取次),小売(書店)の各段階で書籍と雑誌の両方を生産,流通,販売していることと,雑誌が産業を支えてきた。1997 年から約10 年間にわたり,成長の原動力となってきた雑誌の市場が縮小したことは,出版産業の構造転換を迫るものである。
 雑誌の需要減退の理由としていくつかの原因が指摘されているが,最も説得力を持っているのはインターネットや携帯電話に代表されるデジタルネットワークの影響である。
 伝える内容(コンテンツ)の面からも,マス媒体という機能の面からも,デジタルネットワークは雑誌が持っていた役割を担い始めているのであろう。
 大手出版社の決算をみると,その低迷が利益の低下にほぼ直結していることがわかる。さらに,広告売上についても電通の「日本の広告費」では2007 年にネット広告が雑誌広告を上回った。
 流通・販売効率が良く収益性の高い雑誌の販売比率が低下し,流通・販売効率が悪い書籍の比重が増えたため,出版流通を担う取次会社の決算の悪化にも現れている。日本の出版産業は,雑誌の収益によって取次の物流システムが維持されてきたので,雑誌の不振は書籍にも悪影響を及ぼす恐れがある。
 大手出版社において,デジタルの影響を受けて産業基盤そのものが揺らぎ始めてきたことで,デジタルへの転換が背に腹は代えられない状況になった。
 2007 年春に富士山マガジンサービスが日本でデジタル雑誌の販売開始し,小学館は本格的なオンライン雑誌『SOOK』を創刊した。大手雑誌出版社による初の本格的なデジタルへの挑戦を始めた意味を軽視することはできない。
 出版産業が克服すべき課題は次のような項目が挙げられる。
(1)製造(出版社),流通(取次),小売(書店)の各段階で雑誌販売の減少を補う収益源の確保が必要になる。
(2)マス媒体ではなくなる雑誌に合わせた製作や販売の体制整備が必要になる。
(3)雑誌の収益に依存してきた書籍出版が自立するためのビジネスモデルを構築する必要がある。
(4)デジタルコンテンツで収益を上げるビジネスモデルを構築する必要がある。
 デジタル化の進展はあらゆる産業にパラダイムシフトをもたらしている。日本の出版産業においては,産業を支えてきた雑誌の需要が減退するという根本的な部分で顕在化し始めている。
 現在の出版は産業化によって著作物の再生産構造を維持してきたのであり,今後も産業の枠組みがどのように変化していくのかを注視し続けるとともに,検証を重ねていく必要がある。

(初出誌:『出版学会・会報122号』2008年10月)

なお,「春季研究発表会詳細報告」(pdf)がご覧になれます。

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