電子メディアは学術出版システムの危機を解決するのか   山本俊明 (2008年5月春季研究発表会) 

学術情報のグローバルな流通の現状と課題
  電子メディアは学術出版システムの危機を解決するのか (会報122号 2008年10月)

山本俊明

 電子メディアとインターネットの登場により,印刷メディアに比べて,学術情報の生産と流通のコストの低さ,またその簡便さにより,学術情報の「国際交流」の困難は,ほぼ乗り越えられたと考えられる。そのことは,ここ20 年間に日本から世界へと英文で発表された論文の量的な拡大をみればわかる。
 しかし,電子メディアとインターネットによる学術情報のグローバルな流通は,学術情報流通のシステムを変化させた。
 第一に,学術情報の性格が変化したことである。学術研究の発想から学術論文,モノグラフへと至る学術情報の生産と流通のプロセスが変化しただけではない。学術情報と呼ばれる範囲が拡大し,拡散した。
 第二に,学術情報の生産と流通の担い手が変化した。学術出版システムの中核にあった学術情報を選別するゲートキーパーと価値付与の編集機能は,非営利の大学出版部などから大学図書館,情報センターなどに結果的に移動した。またグローバルな大手商業出版社が学術電子ジャーナルの制作,流通を独占的に支配するようになった。
 第三に,大手商業出版社の寡占に対抗するために登場したオープンアクセス方式,機関リポジトリに代表されるように,学術情報が利用者に「無料」で提供されるようになった。これは学術情報の生産と流通における費用を回収し新たな学術情報を生産するという学術出版のビジネスモデルを破壊するものとなるであろう。
 電子メディアによる学術情報流通は,グローバルな流通を実現したが,われわれに,そもそも電子的な学術情報に価格は付けられるかという新しい課題を提示しているのである。

(初出誌:『出版学会・会報122号』2008年10月)

なお,「春季研究発表会詳細報告」(pdf)がご覧になれます。

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