《ワークショップ》「出版教育と実務学のテキスト作り」(2023年12月2日、秋季研究発表会)

 出版教育と実務学のテキスト作り
 ―― 一人出版社「出版メディアパル」を例にして

 司会者:  伊藤民雄(実践女子大学)
 問題提起者:本多 悟(江戸川大学)
 討論者:  下村昭夫(出版メディアパル)
       清水一彦(文教大学)
       湯浅俊彦(追手門学院大学)

 
1.今回のワークショップの目的
 一人出版社である「出版メディアパル」(以下、「同社」)は2023年4月に創立21周年を迎えた。編集長の下村昭夫氏が「本の未来を考える旅」で世に送り出した出版関係の書籍は90点余りを数える。今回の出版教育研究部会と関西部会の合同ワークショップ、同社をケーススタディとして、出版及び出版教育について、議論を通じて会場の参加者と共に深め、克服すべき課題を把握することを目的とする。

2.問題提起(本多)
 大手出版社を退職し、実務家教員として大学に採用され、着任後すぐに「出版論」の授業を担当することとなった時に、その大きな手助けとなったのが同社の書籍ラインナップだったエピソードが語られ、元出版編集者・教育者の立場から、出版教育および出版研究を支えるテキスト作り、後継者問題を抱える一人出版社の理念継承等について問題提起がされた。

3.各人の発表
3.1 出版教育と実務額のテキスト作り(下村)
 最初に出版実務教育の歴史的な経緯と自身も関わった大学における出版実務家教育が簡潔に語られ本論に入った。「出版学」と「出版実務学」の間で、同社既刊をテーマ分け、例えば出版編集と出版販売のテキスト類、電子出版、大学ゼミの実践報告、出版通史、学位論文、日本出版学会研究部会から生れたテキスト等、それぞれの出版の意図と目的を裏話も交えながら詳説された。小出版社としての存続問題として事務所兼倉庫兼編集室である自宅が紹介され、経営実態も明らかにされた。事業継承問題として、後継者不足だけでなく、健康問題、家族の介護問題も指摘された。今後は他企業との協業や提携、経営統合、事業譲渡などが選択肢と有り得ると締めくくった。

3.2 出版メディアパルと歩んだ電子出版関係著作活動(関西部会:湯浅、中村)
 かねてから声をかけてもらっていた同社から2009年、本を出すこととなり、『電子出版学入門』を刊行したのが最初。また大学の電子教科書「EDX UniText」の第1号は、同社刊の『電子出版学概論』である。湯浅ゼミの活動成果の刊行には常に下村氏の支援があり、学生主体の紙と電子の双方による学びに大きく寄与していただいたと報告された。
 また、関西部会の若手研究者で始めた「出版史研究の手法を討議する」シリーズの報告書出版の際には、下村氏からの指摘により、改めて「出版史」や「出版研究」の枠組みの見直し、索引の必要性、「出版」とは何かを体感し、広義の学術出版における出版物のフォーマットのあり方ついて認識を深めることとなったことが紹介された。

3.3 出版を教育する実務家教員にとっての出版メディアパルの出版物の位置づけと、学生向けテキストの課題(清水)
 実務家教員にとっての同社の書籍群の有用な点として、シラバスの構成、授業項目出し、授業の事前準備のための論定整理などを挙げ、出版教育の内容と科目配置を座学系、演習系、座学系+演習系に分けて説明し、学生向けテキストを考える時に、座学向きの書籍はあるが、学生向けのコンパクトなテキスト(教科書)、具体的には演習系の教科書、特に15章構成の実践編テキスト「書籍・雑誌・電子出版物などの企画・取材・デザインDTPなどの制作実践マニュアル」が求められていることが力説された。

4.質疑応答と討論
 会場からの「今回の議論で取り上げている「出版論」は、出版人養成なのか、あるいは出版リテラシーなのかを明確化すべき」という意見に対し、討論者側からは、「大学により出版教育の位置付けが異なる」ことを述べたうえで、「知識だけでなく、表現を理解できる、つまり「人間力」を上げること」あるいは、「資格だけでなく、リテラシー教育の必要性」と回答された。会場からは、「校正関係の実務書が絶版になっているため、実務に関する概説書が必要」である。「編集作業というスキルは、社会に出て役立つ学びにつながるものであり、学士教育において必要な出版学の学びの必要性」が述べられた。「出版学の捉え方と対学生にアピールする出版学に関わるスキルも必要である一方で学問としてどのようにみるのか」、という点が指摘された。また、学術系出版社編集者からは、「人件費がゼロという特殊性により同社の採算性が保たれている」という感想があった。

5.結論
 時間切れとなり結論は導けなかったが、必要とされるテキスト等の今後の課題は少しながらも把握できた。下村氏の「本の未来を考える旅」は2024年秋の「国際出版研究フォーラム」まで続くことを確認し、今回のワークショップは成功裡に終わった。

(文責:伊藤民雄)