MIEでの雑誌つくり:教員・指導者用マニュアル2
――手描きラフの重要性と追加プログラム
清水一彦
(文教大学)
「MIEでの雑誌つくり:教員・指導者用マニュアル」(清水2021)に沿った教育実践を続けるなかで、雑誌つくりに必須であるラフ描きをどのように指導するかが課題となっていた。ラフは誌面の設計図であり、情報の構成とコミュニケーションの要である。そのため、ラフを描けない学生の誌面完成度は低くなるからだ。本発表は、この課題を解決することを目指し追加策として、おもにインスタントカメラを利用した手作業による記事作成を導入した実践報告である。発表会場には、大学の授業で雑誌つくりを取り入れている会員も多く、熱心に発表をお聞きいただき感謝の念に耐えない。
ラフが描けない場合、以下のような問題が発生する。[1]企画構成があやふやなため散漫な取材や撮影となり、必要な情報および写真などビジュアル素材が不足する。[2]レイアウト段階にそのまま進むと、レイアウトソフトの画面に素材がバラバラに配置されるだけで、いつまでたっても誌面構成ができない。
学生がラフを描けるようにするために、まず、プロのラフ描きを分析した。プロは①アイデア=伝えたいことを設定してタイトル化し、②そのアイデアを経験、すなわちいままでにつくった誌面や参考になるコンテンツを記憶のストックから引き出し、③それを雛形として利用して、制作者のカラダから出た独自の価値観と美意識に裏付けられたいわば身体化した言語によるアナログ的な手作業でラフを描く。
学生は①がどうにかこなせたとしても、②から③への過程でつまずく。経験や記憶がないので、せいぜい見たことのある誌面を真似る程度しかできない。真似るといっても誌面構成を理解するために見てきたわけではないので、たいした参考にはならない。
このような問題意識を抱えながら、先行研究や実践を見直した。初等中等教育での生徒たちの作品は手描き要素が色濃く残ったものも多い。身体化した言語としての手作業が記事自体の発想と独創性を成立させ、その誌面構成や表現には肉声に近い訴求力があるものもみられる。
以上、プロのラフ描き過程の分析と先行研究との2側面から、大学のMIEでも手作業を主軸にした擬似的な完成誌面を体験させることで、ラフを描く敷居を低くすることができるのではないかと想定した。学生は完成した誌面が想像できないからラフを描けない。絵を描くことも重荷にもなる。だったら、インスタント写真を並べてアナログな方法で擬似的な誌面をつくる体験をさせれば、その経験をフィードバックさせてラフが描けるのではないかということである。
このプログラムは既存の「雑誌トレース」、「切り貼り誌面の作成(福笑い)」、そして新設の「雑誌ジグソー」の後に実施した。「切り貼り誌面の作成(福笑い)」は、様々な雑誌からビジュアルやテキスト部分を切りとって自由に配置し新しい特集に仕立てなおす。「雑誌ジグソー」は、雑誌の見開き記事のタイトル、文章、写真、イラスト、図表、飾りデザインなど誌面構成要素をすべてバラバラに切り分けワンセットにして、元の誌面を見ていない他学生に渡し台紙の上でジグソーパズルのように復元していく。
ここまでの机上の学習のあと、個人作業としてインスタントカメラに1枚だけフィルムを装填して人物写真を取り、A4の白紙に写真を貼り付け、手書きでインタビュー記事をつくらせる。
次のステップはグループによるインスタントカメラを使っての手描き見開き記事の作成だ。学生はメモ程度のラフしか用意していないが、この段階ではあえて細かな指導はしていない。人物取材を入れることを条件に企画内容は学生たちに任せた。作成期間は1週間。A3ノビを縦に2枚使っての見開きとした。
インスタントカメラを利用した誌面づくりは、写真と文章やタイトルを素材として「福笑い」のように組み立てることになる。素材を台紙の上で自由に組み合わせることは、完成誌面の実態的なイメージをつくることである。この作業がラフ描きのシミュレーションとなりコツを覚えることにもつながる。完成誌面が想像できることは、逆算してラフを描く手助けとなるからだ。
今回追加した過程を経験した学生は、程度の差はあるものの一回目のラフから誌面作成に必要な要素を空間的に構成して描いていた。
発表後には「雑誌トレース」、「切り貼り誌面の作成(福笑い)」、そして「雑誌ジグソー」「一枚だけのインスタントカメラによるインタビュー」「インスタント写真による誌面構成」にそれぞれどのくらいの授業回数を掛けるのかとの質問があった。これに対しては、それぞれ1回の授業を当てていること、また雑誌作成はいつからどのくらいの期間かとの質問には、前期7月前後からはじめて12月末を目処にゼミの授業を組み立てていると説明を加えた。