兵田印刷工芸が支えるラノベ聖地巡礼とコラボ企画
――「チラムネ福井コラボ」のこれまでとこれから
司会/問題提起者:山中智省(目白大学)
討論者:貝淵友哉(兵田印刷工芸株式会社(専属アドバイザー))
討論者:西中辰也(兵田印刷工芸株式会社)
本ワークショップは、裕夢(著)raemz(イラスト)のライトノベル『千歳くんはラムネ瓶のなか』(ガガガ文庫、2019年~)を踏まえた聖地巡礼現象と、同作の主要な舞台である福井市が展開した「チラムネ福井コラボ」の事例を取り上げ、コラボ企画の数々が作品のファン、出版社、自治体だけでなく、印刷会社によって支えられているという実態を、企画当事者の報告を交えて明らかにすることを目指したものである。
昨今では「聖地巡礼」(「漫画や文学作品などで舞台となった場所やゆかりの場所を聖地と呼び、そこを訪れること。」JapanKnowledge『現代用語の基礎知識2021』より)、あるいは「コンテンツツーリズム」と呼ばれる現象が日本各地で生じ、「聖地」と見なされた場所や地域における人出増加や経済効果などが社会の注目を集め、観光振興策としての聖地巡礼/コンテンツツーリズムを促す動きも見受けられる。また他方では、観光学、社会学、経済学、宗教学をはじめ、複数の学問分野・領域で調査・研究が行われており、聖地巡礼/コンテンツツーリズムの仕組みや要素、その効果や影響力を明らかにした成果の蓄積が進んでいる。具体例としては、ファン特有の行動様式や一連の現象を理解するための各種理論、地域振興や町おこしに繋げる方法論などに迫った先行研究が挙げられるだろう。しかしながら、聖地に関わる人々(作品のファン・地域住民)と自治体(職員を含む)には比較的スポットが当たりやすい一方で、聖地巡礼/コンテンツツーリズムを支えている企業のなかでも、聖地巡礼マップ、コラボポスター、関連グッズなどを手掛ける印刷会社の存在とその重要性は、まだ広くは知られていないと思われる。
そこで、本ワークショップの司会/問題提起者の山中は、『涼宮ハルヒの憂鬱』や『Fate/stay night』といった人気アニメ作品とのコラボ企画を手掛けた実績を持ち、2021年からは、ラノベ聖地巡礼/ライトノベルツーリズムの記念碑的事例となりつつある「チラムネ福井コラボ」に参画中の兵田印刷工芸株式会社(兵庫県西宮市)に着目した。そして、「チラムネ福井コラボ」の企画当事者であった西中辰也氏と貝淵友哉氏の協力のもと、両者の報告内容を手掛かりに、「チラムネ福井コラボ」の事例に見る印刷会社の役割・方針・実績とその重要性、今後の見通しなどについて、議論を行うことを試みたのである。
ワークショップ当日はまず司会・問題提起者の山中より、ワークショップの概要説明に加え、『千歳くんはラムネ瓶のなか』と「チラムネ福井コラボ」に関する紹介が行われ、参加者との認識共有が図られた。続く貝淵報告では、小説(文字)からの情報だけで成立するラノベ聖地巡礼/ライトノベルツーリズムの可能性を模索しているさなかに、「チラムネ福井コラボ」の実現に至った経緯等が具体的に説明された。そして西中報告では、「チラムネ福井コラボ」において兵田印刷工芸が、イベントの企画立ち上げ相談、広報物のデザイン作成、イベントグッズの制作といった多様な役割を担うなかで、これらをいかなる方針のもとに行い、コラボ企画のなかでどのような実績をあげてきたのかが詳細に報告された結果、兵田印刷工芸における実務の実態とその重要性が浮き彫りとなった。
報告終了後に実施された会場との質疑応答では、兵田印刷工芸が「チラムネ福井コラボ」で行った企画立案の過程、出版社や自治体を対象とした折衝の様子、各種グッズ制作といった実務の実態に加え、企画当事者として必要な意識や配慮すべき事柄、さらには「チラムネ福井コラボ」の特異性やアニメとのコラボ企画の違いに至るまで、様々な方面への質問が複数あがり、報告内容に対する参加者の関心の高さがうかがえた。また、その結果として、ライトノベルやアニメとのコラボ企画の実現と成功には、印刷会社の提案力や技術力が重要な要因であることが把握・共有されるとともに、聖地巡礼/コンテンツツーリズムに出版・印刷の実務や研究の視座からアプローチする道筋についても、議論を深めることができた。
(文責:山中智省)