日本の大学図書館における電子ジャーナルと多文化サービスの拡充
――国際競争力の強化に向けて
郭 昊
(立命館大学大学院文学研究科博士課程前期課程)
本発表は、日本の大学における学術研究の国際競争力を強化するために、電子ジャーナルと多文化サービスの角度から考察するものである。来日留学生の数は今後更に著しく増加することが予想され、大学図書館ではより高度な多文化サービスを提供する必要性が高まることが予測される。しかし、増加する留学生に対して、日本の大学図書館における多文化サービスはそれほど進展していない現状がある。特に、電子ジャーナルやデータベースなどの外国語のデジタル資料がある程度扱われているがまだ不十分である。日本において、J-STAGEとCiNii Articlesは二つの柱として、日本の電子ジャーナルを支えているが、現状では、学術情報の発信、流通の面での国際化において、その機能はまだ十分に発揮されているとは言い難い。本発表では、日本の大学のグローバル化の進展に伴い、研究成果の発信と流通の迅速化と国際化に資する多文化サービスについて考察する。
本研究の目的は、日本の学術情報流通における国際競争力の高度化を図るために、第1に電子ジャーナル刊行の拡大をめざし、第2に、大学図書館における多文化サービスを充実することにより海外からの留学生の学術論文の生産力を促進する、という政策提言を行うものである。2017年に発表された文部科学省科学技術・学術政策研究所の調査では、日本の大学や研究機関が2013~15年に発表した論文数が10年前に比べて6%減少したことが明らかになった。一方、日本では海外からの留学生数はすでに27万人を超え、今後さらに著しく増加することが予想され、より高度な多文化サービスを提供する必要性が高まっている。しかし、大学図書館における多文化サービスは進展しているとはいい難い状況にある。そこで本発表では学術情報流通の今後のあり方を、電子ジャーナル刊行の拡大と留学生の論文生産力の向上という2点から検討する。
研究手法として、第1に日本国内最大級の電子ジャーナルプラットフォームJ-STAGEとCiNii Articlesの現状を調査し、電子ジャーナル刊行の拡大するための改善案を分析した。J-STAGEとCiNii Articlesの現状と利用状況について、科学技術振興機構と国立情報学研究所に関する統計資料を収集し整理して、それを踏まえて調査を行い、現状と課題を析出した。そして、比較対象として中国でよく使われている三大学術文献データベース作成元の例を取り上げて、J-STAGEとCiNii Articlesと比較し、分析した。
第2に、これまで紙媒体を中心に行われてきた日本の大学図書館における多文化サービスの現状調査を行った。大学図書館における多文化サービスの現状について、2017年3月に公刊された『多文化サービス実態調査2015報告書』(日本図書館協会)の内容に基づき、日本の大学図書館における多文化サービスの現状を分析し整理した。また、その報告書を参考に立命館大学図書館へのインタビュー調査を実施し、多文化サービスの現状に関する論点整理を行い、電子ジャーナル・電子書籍サービスの導入などのICTを活用した多文化サービスの新しい可能性について分析した。
本研究によって、日本において、J-STAGEとCiNii Articlesは二つの柱として、日本の電子ジャーナルを支えている。しかし、日本の大学や研究機関が発表した論文数が減少しつつあり、国際的な競争力を失いつつある現状では、学術情報流通の発信、流通の面での国際化はまだ十分に行われているとは言い難いことが明らかになった。
近年、学術論文の発表数や引用数が大学・研究機関の業績評価の指標の一つとして採用され、さらに、一国の学術研究の国際競争力の指標としても見られている。しかし、現状においては、日本の大学は論文引用数などが他の国と比較すると劣っている。その原因は、日本に整備された引用索引データベースがない一方、日本の学術文献の電子化プロジェクトの中心となっているJ-STAGEとCiNii Articlesが他国と比べると、それほど進展していないことにある。日本の大学における国際競争力を強化するために、日本の大学と大学図書館、さらに、世界的な学術情報流通を支えている商業出版と遜色のないJ-STAGEとCiNii Articlesへの転換が必要だと考えられる。
また、大学図書館における多文化サービスの拡充が留学生の論文生産能力を高める可能性があることも判明した。留学生数の増加と科学論文数の減少との矛盾の中で、大学図書館は電子ジャーナル刊行を促進することで、より高度な多文化サービスが提供できる一方、研究成果の発信、学術情報流通の迅速化、国際化にも貢献することが期待できる。今回の調査結果から、留学生向けの多文化サービスの拡充と電子ジャーナルの拡充が、日本の学術情報流通における国際競争力の高度化を図るために不可欠であることが明らかになった。