電子書籍のアクセシビリティに関する実証的研究 植村八潮 (2013年10月 秋季研究発表会)

電子書籍のアクセシビリティに関する実証的研究
――音声読み上げ機能評価のための分類

○植村八潮(専修大学)(会員),野口武悟(専修大学)(会員),
成松一郎(専修大学),松井進(千葉県立西部図書館) [○=発表者]

 本研究は,電子書籍研究として,アクセシビリティの中心的要素である音声読み上げ機能を評価する手がかりを得ようとするものである。このため現在流通している電子書籍端末やビューワーごとに,TTS(Text To Speech)による読み上げについて分類と検証を行うこととした。
 紙に印刷された書籍をそのまま読むことが難しい障害を持つ人には,視覚障害者だけでなく,ディスレクシア(読み書き障害)に代表される発達障害者,本のページをめくることが困難な肢体の不自由な人などがいる。このような紙に印刷された活字資料の読書に何らかのバリアを感じている人の問題を,プリントディスアビリティ(Print Disability,以下PDと略)と呼んでいる。
 こうしたPDのある人たちにとって電子書籍は,読書行為を容易にするとして大いに期待されるものである。電子書籍であれば,音声合成を用いたテキストの読み上げや文字の拡大,文字と地の反転(白黒反転)などが自由にでき,読書の幅を格段に広げることができる。
 PDのある人たちの間では,TTSについて,パソコンや電子機器が普及した80年代から,さまざまなシステム開発や試みが行われてきた。このための道具としてパソコンなどの汎用端末だけでなく,音声点字携帯機器やDAISY機器などの専用機器も開発されている。それぞれ一長一短があり,汎用端末は価格面に優れるものの携帯性に劣り,さらにシステム設定にコンピュータの知識が求められる。また,専用機器はPDのある人にとって使いやすいものの汎用端末に比べ高価にならざるを得なかった。
 一方で,この数年来の電子書籍ブームは,一般の読者を対象としているため,読書のためのコンテンツ数を飛躍的に増大させるとともに,電子書籍専用端末や高機能なタブレットPCの普及と低価格化を促すこととなった。さらには昨年頃から,iPhoneやAndroidなどスマートフォンによる電子書籍の読書が急速に広まっている。
 しかし,電子書籍端末といっても,すべてのデバイスがアクセシビリティを保障しているわけではなく,コンテンツやTTSシステム,専用端末ごとに操作が異なる結果となっている。またiOS,Androidに加えWindows8がタッチスクリーンインタフェースを導入したことから,音声読み上げ機能に音声操作ガイダンスが加わり,PDのある人にとって操作がより複雑さを増すこととなった。PDの立場で,どのような機能が使えるか,十分な検証や整理がなされていないのが現状である。
 実証研究として,視覚障害のあるモニター(全盲5名)に各種端末・コンテンツのTTSによる読み上げについて実際に試してみてもらい,使い勝手やユーザビリティなどをヒアリングした(2013年8月27日)。
 まず,快適な「読書」のために音声の質(流暢さ)を重要視した指摘がなされたことである。明らかになった課題として以下の点がある。
 使いやすさとして,視覚障害者にとってコンテンツ入手がどこまで自立的にできるか。具体的には電子書店での購入や,図書館での借用,ウェブアクセシビリティなどとの関連性を明確にする必要がある。現状では,購入や借用の際に,TTS読み上げ可能なのか不可能なのかの統一的な表示がないことがわかっている。この点についても標準提案をしていく。また代金の支払い方法としてクレジットカードを持てない障害者が多いことが想定されることから,コンビニ決済やプリペードカードの対応など補助的な決済方法導入も必要と考えられる。
 次に視覚障害者自身が自立的に操作できるかどうかの検証が求められる。さらに電子書籍のビューワーによっては,標準搭載のTTSやプラグインアプリとの相性が指摘されている。TTSについては,質(流暢さ)の主観的な評価に続き,客観的評価基準を導入する。
 本研究では,ユーザーによる質的評価を重要視し,実際に当事者ヒアリングや筆者らが参加する出版UD研究会などを通して評価していくものである。これらの研究から,今後,電子書籍を使ってみたいと考えている視覚障害者など障害のある人たちに対し,有益な情報を提供することができると考えている。また,出版界をはじめ社会全体に対しても,「読書のバリアフリー」の促進に有効な知見を提示できるものと考えている。
 なお,本発表は,平成25年度専修大学研究助成共同研究「アクセシブルな電子書籍のあり方に関する実証的研究」の研究成果の一部である。