『サンデー毎日』特別号「小説と講談」の変遷――戦前の週刊誌考  中村 健 (2011年11月 秋季研究発表会)

『サンデー毎日』特別号「小説と講談」の変遷――戦前の週刊誌考 〈発表の概要と補足〉

中村 健
(大阪市立大学学術情報総合センター)

 本稿では発表の要点と,予稿集の紙幅の都合上,記述不足になった部分を補足する。

1.発表概要
 戦前の週刊誌が文芸読物路線に踏み切った転機に『サンデー毎日』特別号「小説と講談」(季刊)がある。大正11年に刊行,昭和5年に○季特別号に改題。その理由として,「内容が創作と講談に限られてくるやうで狭く聞える」(「編集後記」同誌昭和5年夏季特別号)とある。本報告では,8年間の変遷と改題理由を数量分析で探った。数量分析の方法は,編集部が目次で与えた分類(講談,小説等)をもとに,各読物の行数を探り,各号の誌面全体の何割を占めるかを探る方法(誌面占有率)を採った。分析結果は次の通り。1)執筆者は「大衆文芸」を意識した陣容である。2)号を追うごとにコンテンツの多様化がみられるとともに,「小説」「講談」は全体の10%以下になる。そのため,「小説と講談」が内容を代表するものではなくなった。かわりに「大衆文芸」が40%前後を占め,レイアウトでも「大衆文芸」「講談」が同質化する。派生誌として「臨時増刊新作大衆文芸号」が創刊。3)改題期になる昭和4年度に,「大衆文芸」の地位が低下し,代わりに「実話」が勃興し,企画物が増加しテーマに沿った読物が増えるなど編集優先の誌面となる。これらの結果から「小説と講談」が内容を表現するものではなくなり,編集優先の誌面でその時々でテーマが変わることから,「特別号」になったと結論付けた。

2.予稿集の記述の補足
 「2.執筆者の傾向」で,「「大衆文芸」を意識した執筆陣である」と結論付けたが,最多の執筆回数を誇る長谷川伸は,「髷物小説の話」で「髷物小説は新講談に取って代りはしたが,その母体を新講談とすることは違います。今日の髷物小説の母体は,前にあっては森鴎外,後にあっては菊池寛,この二作家の髷物小説こそ,正しく母体だと」と述べ,定説である新講談→大衆文芸を否定し,大衆文芸の母体は文学とした。『大阪毎日新聞』は,朝刊の連載に森鴎外,菊池寛を起用し,また,「小説と講談」でも菊池寛・芥川龍之介を起用し,「大衆文芸」に行き着いた。『大毎』の連載方針は,長谷川伸の言葉を裏付けている。
 「3.分類の細分化と「小説」「講談」の縮小化」で,数量分析を行った。その際,私は,挿絵があるものを「講談」系,ないものを「小説」系と分類したが,発表後に武蔵野次郎『かつてヒーローがいた:私説・大衆文芸の世界』(六興出版,昭和60年)178頁において「“挿絵があるのが大衆文芸,ないのが純文学”といった寸言も巷間に伝わっているが,慥かにそういうこともいえるかも知れない」という記述を見つけたので,本発表における分類の補足としたい。
 また,発表当日の配布資料では記事の分類別個数を示した。個数比較と行数による誌面占有率はどの程度の乖離があるかというと,「講談」系と「小説」系の読物個数を第1期と第8期で比較すると,第1期=46個:65個,第8期=53個:46個とあまり変化が見えない。しかし誌面占有率で見ると,第1期=36%:54%,第8期=49%:19%と,「小説」系読物の誌面を占める割合が5割から2割まで低下し,個数分析とは違う結果が出る。個数は7割程度,誌面占有率が4割減少したという2つの結果から,「小説」系読物が短編化したことが読み取れる。
 「5.何故「大衆文学」もしくは『大衆文芸』号に改題されなかったか?」で指摘した文芸読物の低下と「実話」の興隆の傾向を,発表において他誌との比較として『朝日』(博文館)の目次で確認した。『朝日』の目次は,目次の中心部に重要な読物を掲載しており(目次は,横長のため,中心部分の記述が見えるように,折りたたまれている),中心部分にどんな読物が来ているかを調べた。通常は文芸読物が掲載されるが,昭和4年11月~昭和5年7月までは実話物が中心部に載り,同様の傾向を読み取ることができた。

3.今後の課題
 今回は分類と行数による紙面占有率をもとにした数量分析を行ったが,他の分析方法による検証が出来なかった。他の検証方法として,記事の配列の変化や目次の表示分析などが考えられる。馬場光三『生活と雑誌』(言海書房,昭和10年,95-98頁)の「目次の役目」では,目次の見方が記されている。少し引用してみよう。
「目次は題材の価値を表現するから,其の雑誌が最も力を注いだ呼物記事の題名を他の夫より大ならしめ,或る筆者の力作の為には特別の位置を与へて読者の着目に便ならしめ,或は大執筆者の作品を特に優遇する方法を講ずる等,各題材の価値を充分表現せしむる為,種々なる工夫が施されるのである。次に目次の構成上,最も苦心を要する所は題材の類別であつて,題材の類別と其の位置が適当でなければ読者の目に着き難きのみならず,個々の題名が精彩を発揮し得ず,」と,題名の活字の大きさや配置場所によって記事の重要度が表現されるとしており,この方法論による記事分析を他日行いたい。