マンガは読書材としてだけでなく,映画やドラマのコンテンツとしても人気が高く,メディアミックス化が盛んな資料である.日本の出版物全体におけるマンガの比重も,売上の占有率が 21.6%,部数の占有率が35.4%(『2010出版指標年報』より)と非常に高いことが確認できる.
しかし,日本の図書館界においてはマンガを蔵書とすることが困難な状況にある.それはなぜなのか,日本の図書館における取り扱いの現状と課題を明らかにし,図書館の蔵書にするにはどうすればよいかを提言することを目的に研究を行った.
図書館法の第2条には,図書館の機能と役割が明記されている.それに照らして,図書館の機能である収集・整理・保存・提供の4点に注目し,選書,購入,配架・コーナー作り,目録データ,予約・貸出,保存,レファレンスといった項目のそれぞれについて,現状と課題を整理する.図書館は,誰に何のために何をどのように提供するのか,その目的は何なのかといった役割も踏まえ,対象年齢,有害図書問題も取り上げた.分析する図書館の館種は,主に自治体が設置運営している公立図書館を中心としている.
収集については,専任の担当者がおらず,明確な収集方針や選書基準が設けられてい
ない中で行われていること,一度蔵書にした資料の継続収集や欠号の補完が厄介であることを確認した.選書の手掛かりとなるような書誌・目録等が無いことも問題であると考える.
整理では,配架・コーナー作りで,マンガ=子どもためのモノとの誤った考えから偏りが出やすいこと,ブラウジングで探す際にテーマで作品を探せないこと,OPAC(コンピュータ目録)のデータからは,マンガの詳細な内容が分からず,既知文献しか検索できないことを指摘した.
保存では,汚破損や盗難などの紛失,欠号に対する補充や複本などの対応,公立図書館の資料は「使われてナンボ」という位置づけであるため保存には適さないことを述べた.
提供では,貸出と予約,レファレンスについて分析した.貸出と予約については,冊数や他館からの取り寄せに対する制限の設定,巻号順に借りられるよう配慮したセット貸しやセット予約での対応,館内閲覧用の複本の用意等で工夫している現状を報告した.マンガをテーマにしたレファレンスサービスについては,出版やメディア論の資料は存在するものの,書誌・目録・索引や研究資料が極端に少なく,対応ができていないことが明らかになっている.
以上は公立図書館に対する分析であるが,発表では他館種として,学校図書館,大学図書館,専門図書館についてもそれぞれが抱える問題や現状を概観した.
また,マンガは国内のみならず,海外での人気も高い.MANGAとの表記で認識され,図書館や書店で当たり前のように見かけることができる.アメリカ図書館協会のヤングアダルト部門では全米の図書館に向けて「おすすめのマンガリスト」を作成・公開し,スウェーデンをはじめとする北欧では,図書館のイベントとしてマンガキャラクターのコスプレ大会や映像を活用したブックトークが開催されたりもする.MANGAから日本の文化に対する興味が高まり,大学ではたいてい日本語のコースがあり,人気を博しているとのことである.もはや日本のMANGAは文化として広く世界に認知されているのである.
本研究では図書館資料としてのマンガについて考えてきた.蔵書にするには誰のためにどのようなものをどのように提供するのかを館の方針として検討する必要がある.例えば,同じ紙媒体の資料でも小説や文庫本とは異なる.メディアの特徴を理解し,図書館資料としてどう取り扱うか,利用者のニーズを反映させつつ,館の共通認識を持たなければならない.そして,単に所蔵すればいいのではなく,アクセスしやすいよう,コーナーの設置や配架を検討し,OPACデータを提供していくべきである.
一方で,マンガの選定や導入には,出版よる情報の提供,解題・書誌・目録・索引が欠かせない.文学研究等と比較すると,まだまだマンガ研究が進んでいないこともあるかもしれないが,研究者による情報の提供やデータベースの作成も求められ
るところである.マンガを図書館資料として活用するには,図書館界のみならず,出
版社,マンガ研究者の協力も欠かせないのである.
時間の都合で質疑応答はあまりできなかったが,発表後に多くの方からご意見や
ご感想をいただくことができた.感謝して今後の研究に活かしたいと考えている.