■ 耳で読む読書:出版物の音声による利用とは (2009年11月 秋季研究発表会)
近藤友子
一般的に読書といえば印刷された資料を本の形態で読むことが考えられる。しかし視覚に障害を持つ人にとっては紙に印刷された墨字の資料から情報を得ることは困難である。また全盲の方,弱視の方,中途失明の方などさまざまな視覚障害の方が存在している。個人により障害に差があり,情報にアクセスする点でも違いがある。全盲の方で子どもの頃から点字を習得している人は,情報を得る手段に点字と音声の資料などが考えられるが,中途失明者など成人後に視覚に障害を持った人にとっては点字を習得することは難しく,音声の資料を利用するほうが便利である。近年はコンピュータで音声読み上げの機能が使えるなど,視覚障害者の情報入手の方法にも変化がみられる。本発表では,視覚障害者の耳からの読書方法に視点をおき,音声による読書について録音図書や音声再生の機器などの変遷をみることから出版物の音声利用の意味や役割を考え,これからの音声資料の進展について考察を行った。
1.視覚障害者にとっての読書の形態
視覚障害者への読書用資料の提供方法を考えた場合,点字による触覚を用いての資料利用の方法,もしくは音声での聴覚を利用した提供方法がある。点字は点訳者の協力があり,音声によるものは音訳者の協力がみられる。点訳者も音訳者もともに資料の変換を行える技術を持った人々ということである。本発表では耳からの情報提供に視点をおき,音声による資料の録音図書などの製作には音訳者の存在を忘れてはならないと考えている。情報を音声に変換して提供する場合,音訳者の声による読み上げが一般的であるが,近年ではコンピュータの読み上げソフトの利用なども考えられ,これからの視覚障害者の読書にはコンピュータ等の機器類の存在を視野にいれていく必要があると考える。またカセットテープによる音声資料の提供も,近年のデジタルデータの登場によりCDなどの媒体による利用方法へと変化してきている。
2.音声資料の変遷
日本点字図書館は日本において,視覚障害者への図書資料の提供において最も先駆的で規模も大きな点字図書館である。日本点字図書館では1958年(昭和33年)より録音図書の製作がはじまり,翌年より録音図書の貸出が始まった。録音図書の製作のために日本点字図書館では朗読ボランティアが作られ,現在でも約90名あまりが活動を行い,録音図書の製作を支えている。また定期的に講習会を行うなど音訳技術の向上にも取り組んでいることが,職員の方への聞き取り調査によりわかった。
1950年代後半には録音資料が視覚障害者への情報資料として利用されてきた動きがわかったが,オープンのテープレコーダ時代から次第にデッキによるものへと変わり,貸出用もオープンテープによるものからカセットテープへの変遷がみられた。1970年代にはカセットテープによる貸出が主流となり,現在までカセットテープによる貸出を日本点字図書館では行っている。最近ではデジタルデータで製作した録音図書もあるが,1970年代より今日まで音声による資料が継続して利用され続けてきていることがわかった。
3.公共図書館における音声資料の利用
公共図書館でも点字図書館のように視覚に障害のある人へ利用者サービスを行っている。しかし公共図書館ではすべての人への利用者サービスを行っており,視覚障害者への利用者サービスはあくまでも障害者サービスのなかのひとつである。
障害者サービスに積極的に取り組んでいる事例として枚方市立中央図書館を取り上げ,公共図書館がどのような視覚障害者サービスを行っているかをみてみた。(表1参照)
表1にあるように,点字や録音図書などの郵送貸出,対面朗読などの実施,大活字本や布の絵本など触ることから情報を得られる資料の収集や,また拡大読書器などの設置が行われている。この中で音声による利用者向けサービスとしては録音図書と対面朗読があげられる。録音図書も対面朗読もともに音声を利用することで情報を得られる一般的な利用方法である。特に録音図書においては近年の情報化の進展により,今後はデジタルデータで製作された資料の利用が増えてくるものと考えられる。
表1 公共図書館で行われている視覚障害者向けサービス
サービス:種類 | サービス:内容 |
点字資料 | 郵送等による貸出 |
録音図書 | |
対面朗読 | 対面朗読室などで実施 |
大活字本 | 資料収集・貸出 |
点訳絵本,さわる絵本,布の絵本 | 資料収集・貸出 |
拡大読書器などの視覚障害者用機器 | 設置して利用に供す |
(枚方市立中央図書館ホームページ「図書館の利用に障害のある方へ」を参照して作成)
4.さいごに
1996年に「デイジーコンソーシアム」という団体が設立された。この団体は,デイジー(DAISY:Digital Accessible Information SYstem)と呼ばれるデジタルデータによる録音図書の推進をすすめることを目的としており,世界的にもデジタルデータによる資料利用が進められてきている。視覚障害者の情報入手や利用方法にデジタル化の影響はますます大きくなるものと考える。アナログからデジタルへの変化は,視覚障害者の耳からの読書においても機器の機能を覚える必要や,デジタルデータの再生機器の購入などいろいろな影響があると考えられる。利便性とともに変化していく機器の利用方法や,それに伴って変化していくと考えられる視覚障害者の読書について,今後の社会的な情報化の流れを捉えつつ考えていく必要がある。
(初出誌:『出版学会会報126号』2010年1月)