《緊急シンポジウム》
「書店・図書館等関係者における対話の場」の再検証
――学会と出版界連携によるエビデンスに基づく研究の意義
大場博幸(日本大学文理学部)
植村八潮(専修大学文学部)
菊池壮一(ブックアドバイザー)
はじめに、植村が進行役となり、このシンポジウムでは、2023年秋から24年春にかけて開催された「書店・図書館等関係者における対話の場」について議論することとした。
最初に、「対話の場」で座長を務めた大場博幸が、その開催の経緯と議論の推移、さらに議論と関連した実証研究について報告した。
2023年春「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」(書店議連)が岸田内閣に提言書を提出した。書店議連は自民党所属の国会議員による団体で、前年に出版文化振興財団(JPIC)から日本全国のおよそ1/4の自治体が小売書店を持たないという報告を受けていた。「対話の場」は、この提言書への対応として文部科学省主導の下で開催された会議体である。そこでは公立図書館に対して小売書店保護のためにどのような協力を求めるかが議論の焦点となった。
文科省、JPIC、日本図書館協会(JLA)の三者が、出版関係者および小売書店経営者、図書館関係者、教育委員会関係者の三つのグループから14名の構成員を選んだ。JPIC専務理事の松木修一とJLA専務理事兼事務局長の岡部幸祐が副座長となった。位置づけとしては、関係者有志による会議体であり、文科省による公式の会議ではないということである。また、発足時点では結論の方向性が定まっておらず、「話合いが決裂する可能性」も示唆されていた。会議の第一回は2023年10月1日に、第二回は同年10月30日に、第三は2024年1月17日に、いずれもweb会議形式で開催された。最後となる第四回は2024年3月6日にwebと対面のハイブリッド方式で開催された。
これらの詳細については、2024年4月1日に発表された『書店・図書館等の連携による読書活動の推進について ~書店・図書館等関係者における対話のまとめ~』が報告している。
「対話の場」論点①に関連して、2000年以降進められてきた「図書館による書籍市場への影響の実証研究」について以下で補足しておきたい。20世紀末、図書館関係者の間で貸出を重視する言説が大きな影響力を持ってきた。その結果「図書館はベストセラーを複本で大量購入している」というイメージが形成された。1990年代半ば以降から続く出版不況もあって、2000年頃から出版関係者は「出版物の売上を低下させている」と図書館を批判するようになった。しかしながら、図書館によるマイナスの影響を観察することは容易ではなく、20年以上にわたって疑惑だけで取り沙汰されてきた。
2010年代に行われた書籍の総売上と総貸出の関係を探ったいくつかの実証研究は図書館によるマイナスの影響を観察していない。これに対して、書籍タイトル単位で図書館の影響を検討した2020年代の二つの研究は、一部の需要の多いタイトルについては図書館による新刊書籍の売上冊数の大きな低下を認めている。ただし、平均的な需要またはそれ以下のタイトルについては、その影響はかなり小さいか、または観察されないとしている。これらの結果から大場は「図書館の影響は、所蔵/非所蔵によって書籍購入の優先度を変化させる点に現れるが、家計が書籍購入に用いる金額自体を変化させたりはしない」と推測した。
続いて、菊池壮一より,「対話の場」報告書を読んでの感想を中心に発表があった。菊池は「対話の場」構成員ではないが、これまで書店、図書館それぞれの現場に所属して経験を積み、現在は活字文化研究所を主催する人間である。
論点①と②に関しては、過去何度も取り上げられてきた問題であるが、現在ベストセラーを20部、30部も仕入れている図書館は皆無に近いと思われること、それでもミリオンセラーが出にくくなる一方、公共図書館は増え続けているので影響ゼロはあり得ないこと等を考えると、いつまでも「書店の不調は図書館のせい」と書店が訴えても仕方ない、リアル店舗で書籍の売上回復を望んでいるだけでは何も解決しないと述べた。
論点③については、資料値引き、装備無料の要求は図書館を管轄する部署から発信されており、早急に改めるべきで、まずは直営の図書館が範を示すべきであるとした。また図書館の資料費は漸減の傾向にあるが、こちらも早急に歯止めをかけ、増額をするべきであると主張した。また、年間の資料予算1000万円を超える図書館はそう多くなく、たとえ地元書店が取引を開始したとしても粗利200万円ほどで、アルバイト一人雇えば赤字である。よって書店も図書館との取引だけに頼らず、他業種の兼業等生き残るための策は自ら考えるべきで、他者に頼っているだけではまずいのではと提案した。
論点④の方向性については全面的に賛成であり、「やまなし読書活動推進事業」等を見習い、図書館と書店が連携してイベントを行ったり、図書館で本を売ったり等積極的に取り組むべきと語った。
引き続き、植村による司会のもと論点ごとに質疑応答がなされた。