《特別シンポジウム》
「日本出版学会と出版界が目指す[産学連携]を実現するために」
登壇者:
小野寺 優(河出書房新社 代表取締役社長
/ 日本書籍出版協会 理事長)
堀内 丸惠(集英社代表取締役会長
/ 日本雑誌協会 理事長)
片桐 隆雄(マガジンハウス代表取締役社長
/ 日本雑誌広告協会理事長)
塚本晴二朗(日本大学法学部新聞学科教授
/ 日本出版学会会長)
司会:
梶原 治樹(扶桑社営業局担当局長
/ 日本出版学会事務局長)
日本出版学会は、社会科学系の学会としては珍しく設立当初より出版産業界との関係を密にしてきた。とはいえ、近年では両者の交流が発足当初よりも弱くなっている点は否めない。塚本会長が会長就任時に掲げた「産学連携の推進」を実現するために、改めて産業界のトップから我々日本出版学会とどんな活動を一緒にしたいか意見を伺いたい……本シンポジウムはそんな目的で企画した。
結果として、日本雑誌協会から堀内丸惠理事長、日本書籍出版協会から小野寺優理事長、日本雑誌広告協会から片桐隆雄理事長(当時)をお呼びすることができた。この出版業界3団体の理事長が一堂に会するのは貴重であったためか、当シンポジウムには学会会員以外の出版関係者も含む90名以上が参加した。なお、新型コロナウィルスの影響で「無観客配信」とせざるを得なくなった中、登壇者が一堂に会して話し合うための会場をご提供いただいた國學院大學に深く感謝を申し上げたい。
当シンポジウムでは、まず塚本会長からは、学会と出版界双方にとって有益な関係を作り出していくために出版学会を「①出版業界のシンクタンク ②業界研修・教育機会の提供 ③出版業界人と研究者・学生の交流の場」と位置付けられないか、と提案した。
まず、「①出版業界のシンクタンク」としては、互いに研究課題を提示してシンポジウムやワークショップを開催する、メンバーを公募して研究を行う、あるいは出版関連政策について両団体で共催することなどを提案した。そして、そのような出版界にとってタイムリーな課題を相互に研究することで、「②出版業界人への研修・教育の機会」を作ることができる。さらに、出版界の現場の声を生で聞く機会が増えることで、研究者や学生にも刺激となり、「③出版業界と研究者・学生の交流の場」として学会が機能し、結果として出版に興味を持つ人材を増やし、出版文化の発展に寄与することができるのではないかと述べられた。
この提言を受けて、堀内理事長からは、日本雑誌協会の組織の成り立ちとそれぞれの委員会が抱える課題、また、雑誌協会以外のさまざまな出版関連団体についてご紹介いただき、「我々出版社は『右手に電卓、左手に志』をもって出版活動を行っている。研究者の一歩離れた視点から、私たち出版界にご提言いただく機会は誠にありがたいと思う」と述べられた。また、小野寺理事長、片桐理事長からも、いまの書籍・雑誌出版が抱えているさまざまな課題――市場の変化、物流問題、海外展開、雑誌広告の価値測定など――を例示し、今後類似する部会同士で交流を重ねながら、一緒に考える機会を作りたいというご発言をいただいた。
また、お三方からは「日本出版学会にはどのような研究者が所属し、どのような専攻分野をお持ちなのか。わかりやすくご提示いただけると、私たちも色々なご協力・ご依頼をしやすくなる」というご要望もいただいている。これについては、塚本会長が立ち上げたもう一つのプロジェクトである『パブリッシング・スタディーズ入門』の刊行がなされた時点で、各出版団体に寄贈することなどを検討したい。
筆者は日本出版学会では2020年より事務局長を務めているが、本業は出版社の営業であり、さらには日本雑誌協会でもいくつかの販売系の委員会に所属している。そのような立場を活用して、すでに出版デジタル研究部会やMIE研究部会などにおいては、出版関係団体有志と連携しながら調査研究や研究部会を行っているところだ。今回のシンポジウムをきっかけとして、出版産業に携わる人たちと、研究・教育者たちとの交流の機会がさらに広がり、深まっていくことを期待したい。
(文責:梶原治樹)