デジタル出版における図書館の役割
宮下義樹
(洗足学園音楽大学)
概 要
電子書籍市場が拡大し続ける一方で、図書館への電子書籍導入はそれほど進んでいないと考えられている。その理由のひとつとして、図書館の要求する電子書籍コンテンツが提供されていないことがあげられるが、提供をしていない理由として電子書籍を図書館に提供するメリットが電子書籍の提供者側に乏しい可能性がある。
また、新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い図書館の閉鎖が相次いだ結果、図書館へのアクセスが不可能になり資料収集等に困難をきたす事態が起こる等の問題が起こり、図書館のデジタル化対応が要請されるようになり、資料収集のデータでの受領を可能とする等の著作権法の改正がなされるようになった。
図書館での電子書籍利用の利便性と、利用者の利便性向上に伴う、権利者の損失の可能性を考慮して、今後の図書館の役割を考察していく必要がある。
2021年の出版市場は、紙出版市場で1兆2080億円、電子出版市場は4662億円、となっている(注1)。出版市場中、電子出版の割合は約27.8%でこの比重は年毎に増してきており、出版市場を見る上で、電子出版を無視することはできない状況になっている。
1 図書館への電子書籍導入
電子書籍を導入している図書館の割合も増えているが、電子書籍市場と比べるとまだ少数と言える。電子書籍の図書館への導入があまりされていない理由の一つとして、タイトル数の少なさ及びベストセラー作品が提供されていないことが指摘されている。
出版者側からすると、敢えて図書館向けに電子書籍を提供しなくても、利用者に向けて販売することで利益が見込めるし、図書館側からすると、貸与の電子書籍向けに高価になっているため紙の書籍よりも高価で利用に制限がある電子書籍導入へのメリットが薄れるとも考えられる。
図書館はあえて電子書籍を導入することで、導入コストを上回るメリットが電子書籍に要求されることとなる。
紙の書籍で足りるのであれば、条件が複雑な電子書籍を積極的に導入するメリットはあまりないが、電子書籍が紙書籍と比較して有するメリットとして以下のように考えられる。
国立国会図書館ではデジタルシフトを推進し、ユニバーサルアクセスの実現を目的としている(注2)。ユニバーサルアクセスの中には読書バリアフリーの推進もあり、電子書籍を利用することで視覚障碍者が読書をすることが可能となり電子書籍であれば図書館まで行かなくとも、書籍の貸し出しが可能となる。図書館へ行けない人でも図書館サービスを受けることが可能となる。読書バリアフリーに寄与することが可能である。
2 図書館資料のインターネット対応
従来の著作権法で図書館を利用した資料の複写は可能であったが、絶版等資料は利用者に直接ではなく利用者に要求を受けた各図書館への送付であったり、資料の複製が紙の複写でしか認められていなかったりということから、以前から図書館のデジタル化の遅れが指摘されていた。さらに新型コロナウィルス感染症の拡大により図書館の閉館が相次ぎ、約87%の図書館が閉館してしまう事態になってしまい(注3)、インターネットを通じた図書館資料へのアクセスニーズが顕在化したといわれ、著作権法の改正が審議され、図書館に行かないとアクセスできなかった国会図書館の絶版等資料についてインターネットを通じ、自宅からでも受信できるようになり(31条5項)、絶版等ではない資料についても、紙での複製のみが対象だったものがメール等、インターネットを通じてデータ入手できるようになった(31条2項)。こうした改正により、利用者側は必要な資料をより便利に入手することが可能となった。
利用者にとっては便利な著作権法改正であるが、権利者にとっては利益に関わる大きな変化となる。そのため、一定の補償金を支払うことが必要となり、また、協議の上で複写の対象とはしない書籍も認めることとなった。
3 まとめ
電子書籍市場は拡大し、また図書館のデジタル化も進んでいる。それは、図書館における電子書籍の位置づけが大きくなることを意味する。
一方で、図書館のデジタル化は紙の書籍と図書館との関係よりもさらに電子書籍市場との垣根を低くするものである。インターネットを使い、サイトから書籍を閲覧するという意味において、図書館サイトに向かうのも電子書籍販売サイトに向かうのも大きな違いはない。図書館の役割をどのようにとらえるのかが大事になっているだろう。
注
1 全国出版協会・出版科学研究所『出版月報』2022.1月号
2 国立国会図書館ビジョン2021-20258
(https://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/vision_ndl.html)
3 日向良和「COVID-19下で『図書館』はなにをして、なにができなかったのか」『図書館界』73号(2021)68頁参照。