第19回 国際出版研究フォーラム発表「海賊版電子書籍に対する著作権法改正」宮下義樹(2020年11月6日)

《第4主題:モバイル・コンテンツの出版政策》
 海賊版電子書籍に対する著作権法改正

 宮下義樹
 (日本大学講師)

 
1.はじめに
 電子書籍市場が順調に拡大している中で、電子書籍の海賊版による被害も大きくなっている。例えば海賊版配信サイト「漫画村」1サイトのみで半年間の被害額が3,192億円に及ぶと推計も存在する(注1)。こうした電子書籍の海賊版に対して対抗措置が必要となり、2020年6月に著作権法が改正されることとなった。
 
2.2020年改正法について
2.1 海賊版対策としての2020年改正法
 改正著作権法で海賊版対策として大きく二点の改正が存在する。ひとつはリーチサイト対策で、ふたつ目は侵害コンテンツのダウンロード違法化である。

2.2 リーチサイト対策
2.2.1 リーチサイトについての従来解釈
 リーチサイト(Leech site)とはそのサイト上では直接海賊版コンテンツは配信せず、海賊版配信サイト等に存在する違法配信コンテンツのURL情報を集約したサイトである。この場合、リンクを張る行為が著作権法で定義する公衆送信のうち送信可能化に当たると解釈できれば著作権23条の公衆送信権違反となるが、送信可能化は「公衆送信し得るようにすること」と定義され(2条1項9号の5)、これは「自動公衆送信し得ない状態にあったものを自動公衆送信し得る状態にして初めて」送信可能化となるため(注2)、すでに送信可能化状態にあるコンテンツに対して新たにリンクを設定するだけでは著作権侵害にはならないという裁判例や学説が存在する(注3)。
 このように法改正前はリーサイトに対して著作権侵害を追求することは困難であったため、これに対応するためには法改正が必要であったといえる。

2.2.2 2020年改正法によるリーチサイト対策
 2020年改正法は113条2項と3項を新設し、権利侵害著作物に対する送信元識別符号(URL)等をリーチサイト(アプリ)に対して情報提供することでウェブサイトやプログラムで侵害著作物等の他人による利用を容易にすることにつき、故意または過失である場合や(113条2項)、リーチサイト(アプリ)の提供者も違法コンテンツへのリンク情報などが提供されていることを知りつつ、そのリンク情報提供に対しての防止措置が可能であるにも関わらずに措置を怠っている場合には著作権、出版権、著作隣接権侵害行為とみなすこととした。
 
2.3 ダウンロード違法化
2.3.1 インターネット上の海賊版への録音録画に対する権利制限規定の改正
 著作権法30条1項は著作物を個人的には家族内その他これに準ずる限られた範囲内で使用するために複製する場合は権利制限規定となり複製権侵害とならないとされていたが、音楽業界や映画業界等が発した違法ダウンロードへの強い抗議により、公衆送信権侵害によりアップロードされた著作物を違法と知りながら録音・録画する行為が権利制限規定から外されていた。ただし権利侵害となる対象は権利者の不利益が顕在している「録音・録画」に限定され、要望や実体の報告が寄せられなかったそれ以外の違法配信コンテンツは対象外であった。

2.3.2 2020年改正によるダウンロードの違法化
 2019年のインターンネット上の海賊版対策に関する検討会議では違法化の対象から出版が抜けているということが議論となり、録音録画以外のダウンロードについても権利制限規定から外すとする方向性となった(注4)。ただし、複製一般を対象にすると権利侵害の範囲が広くなりすぎることから、その範囲をいたずらに大きくしすぎることが問題であるということから、①翻訳以外の二次的著作物、②侵害が軽微なもの、③権利侵害でアップロードされたことを知らない場合、④著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な場合、⑤刑事罰の場合は正規版が有償で提供されていない場合、に該当するときは権利侵害とはならないとした。
 まず①については、いわゆるファンによる二次創作活動を全面的に禁止することがないようにするためのものである(注5)。
 ②としてはそもそも30条1項の私的使用の立法趣旨が私的領域における少数の複製は権利者に与える影響が少なく、権利者の経済的利益を不当に害さない場合にまで権利侵害を問うのが困難であるという理由もあり制定されたものであるためであり(注6)、また、この規定を付することで情報収集に対する萎縮効果を生じさせる効果も期待できる(注7)。
 ③については重過失を侵害要件とせず、違法にアップロードされていたことを知っていたことが要求される。これはダウンロード者の主観要件を厳格に解釈することでスクリーンショット等カジュアルに行われることが一般的であるインターネット上のダウンロード行為の実情に合わせたものと考えることができる。
 ④は外形的に違法行為となるが行為に正当性があるような場合(注8)にまで権利侵害とするのは問題であるところから規定されている。
 
3.残る課題
 改正された著作権法であるが、これで海賊版に対して対処できるかというとまだ課題は残る。

3.1 サイトブロッキング
 海賊版対策としての法改正の一案として海賊版サイトに対しての接続をブロックして、そもそも海賊版サイトにアクセスできないようにするというサイトブロッキングを認めるべきかという議論もあったが、憲法21条2項「通信の秘密は、これを侵してはならない」という通信の秘密に反する可能性があることから(注9)ブロッキングを導入しなかった。ただし、ブロッキング導入が否定されたのではなく、今回の改正で導入するほど議論が煮詰まらなかっただけと解することもでき、今後の議論が注目される。

3.2 ダウンロード違法化の実効性
 ダウンロードが違法化されたものの、実際にはインターネット利用者がコンテンツをダウンロードしたか否かを確認することは非常に困難であり、事件化することは考えにくい。現実に、既に違法化されている違法配信コンテンツの録音・録画について裁判になったケースを確認できておらず、これは改正法でも同様になると思われる。これについては違法化による権利行使を目的としているというよりも、利用者への警告という形の委縮効果を主目的としていると考えられるだろう。

3.3 ダウンロード以外の閲覧
 ダウンロードの違法化はあくまでも、著作権法上の複製権侵害ということで権利侵害を成立させるものだが、コンテンツの閲覧のみは著作権法上の何らかの権利に該当する行為とはならないため合法的といえる。利用者がいる限り違法コンテンツを閲覧できるサイトも存在し続けると考えられるため、ダウンロード違法化での海賊版サイトへの影響は限定的なものとなる。
 
4.おわりに
 著作権法について2020年改正法とそれに至るまでの経緯について海賊版対策の観点から説明をしたが、電子書籍の市場規模が一層拡大するにつれて、権利侵害の数も増えていくことが想像される。そうした中での著作権法改正について、その改正の効果を見ていくことが求められているだろう。海賊版の流通を阻止していくことは必要であるが、インターネットによる情報収集が必要以上に阻害されることもまた防がなくてはならない。権利者と利用者のバランスをとった形での、適正な著作権法の在り方を探ることが求められている。
 
 

1)一般社団法人コンテンツ海外流通機構の試算による。知財戦略本部『「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」中間まとめ』p.12 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/kaizoku/dai9/siryou1.pdf
2)加戸守行『著作権法逐条講義六訂新版』(著作権情報センター 2013)44頁参照。
3)裁判例としては「ロケットニュース24事件地判」(大阪地判平成25.6.20裁判所サイト)学説としては中山信弘『著作権法 第2版』有斐閣(2014)252頁、奥邨弘司『講演録治術革新と著作権法制のメビウスの輪』コピライト702号(2019)15頁参照。
4)『インターネット上の海賊版対策に関する検討会 第1回議事録』(2019)25頁。 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/kaizoku/dai1/gijiroku.pdf
5)もっとも二次的著作物は翻案権(28条)が存在し、フランスのパロディ規定やアメリカのフェアユース規定のような例外はないため、二次的著作物を創作することが法的に許容されているわけではない。あくまでも二次的著作物をダウンロードする行為が私的使用の範囲に含まれるだけである。
6)前注中山286頁。前注加戸222頁等参照。
7)侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会第1回議事録 https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/shingaikontentsu/01/
8)詐欺集団の作成した詐欺マニュアルを被害者救済団体が告発サイトに無断で掲載する場合等の例が考えられる。文化庁「著作権法改正説明資料」18頁。 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r02_hokaisei/pdf/92359601_02.pdf
9)注1 第8回森委員提出資料 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/kaizoku/dai8/siryou4.pdf