第16回 国際出版研究フォーラム 《30周年記念特別テーマ》 出版学の国際交流と発展方向

《30周年記念特別テーマ》 出版学の国際交流と発展方向

出版学研究における国際交流の持つ意義

芝田正夫
(関西学院大学教育学部教授)

(今回の国際出版研究フォーラムでは,30周年記念特別テーマとして「出版学の国際交流と発展方向」が設定され,韓国・中国・日本の学会長が発表しました。以下は私の発表の概要です。)
 国際出版研究フォーラム(IFPS)は今回で16回目となりました。私は,この間の歩みを語るのに十分な資格があるわけではありませんが,「国際交流の持つ意義」について考えてみたいと思います。

 

1.国際交流の意義
①研究者の交流の促進
 初回から今日までの期間,参加国の間で人的な交流が進められてきました。なかでも中国・韓国などから出版学を専攻する学生が日本の大学に留学し,博士学位を取得し,日本および母国において出版学の研究教育に携わっていることは特筆すべきでしょう。国際比較という,学術研究に不可欠な視点は,これまで,研究者の国際交流のなかでその意義が再確認され,研究成果として結実しています。
②出版研究における国際比較の視点
 次に「国際比較」に視点が強く意識されてきた点が挙げられます。日本出版学会が編集した『白書出版産業』(文化通信社,2010年)においては,国際比較に関する項目が多く選ばれ,それぞれの専門家によって詳しい記述がなされています。現在の出版をめぐる世界的な変化の時代を理解するためには,1国の出版状況と課題の把握のみでは不十分なのはいうまでもないでしょう。そのためにも,国際交流に基づく国際比較は重要になっています。
③国際学会としての議論の深化
 重要なのは,共通の場での議論が進んできたことでしょう。それぞれの参加者が国内的なテーマを個々に発表していた段階から,最近では,つねに国際比較を意識した発表に変わってきたと思います。前回の国際出版研究フォーラムにおいて,川井良介日本出版学会会長は,「総括討議」において,「いままでは各国の報告者の報告を聞くだけに終わっていたのが,今回の『国際出版研究フォーラム』では,議論が噛み合ってきたといえます。その点では共通認識が深まったといえると思います」とまとめられています。

2.今後の発展の方向
 IFPSは,関係者や参加者の努力で,国際学会として充実した内容を持つに至りました。今後の方向性として以下の点が考えられます。
 ①出版研究として,国際的な共通の課題の研究討議
 ②日常的な情報の交換
 ③人的交流のいっそうの推進
 出版をめぐる状況が,大きく変容しつつある今日,国際的な視点からその現状を分析し,未来を探ることは緊急の課題となってきています。今後もこうした課題の討議を中心にすえて,出版研究の幅広い領域において,実りある成果が得られる場として「国際出版研究フォーラム」開催の意義は大きなものがあると考えています。