変化する出版・読書環境における「読書推進」の意義
樋口清一
(日本書籍出版協会)
1.日本の出版界の現況
冒頭に出版物の図書館における受け入れ貸出冊数,読書率調査結果について概要を説明した。
2.日本における読書推進事業の現状
(1)子どもの読書推進計画
2008年3月に定められた「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」第二次基本計画の実施の中で明らかになった課題として,①学校段階が進むにつれて読書離れが進む傾向,②地域における取組の格差が顕著,③学校図書館資料の整備が不十分という3点が示されている。これらの点を踏まえ,2013年5月17日に第三次計画が策定され,より実効性のある計画を目指している。
(2)民間の活動
読書推進運動協議会,出版文化産業振興財団のような民間の読書推進活動を紹介し,さらに朝の読書運動,ブックスタート,〈大震災〉出版対策本部の最新の状況を報告した。
3.読書の「意義」と「効用」
(1)期待される読書の効果
なぜ読書が必要なのかということについては,以下のような様々な理由が考えられる。
①情操教育や人格形成に資するものであり,充実した人生を送ることができる。
②学習能力の向上に資するものであり,高い教育水準を維持するために不可欠。
③読書によって有意な人材が育ち,我が国の国際競争力の維持・向上につながる。
④読書を通じて得られる言語能力の向上が,コミュニティにおける相互理解の円滑化を促し,社会の安定に資する。
⑤多くの人が読書を楽しむことによって,出版物の売上げが上がり,出版関連産業が安定的に経営を行うことができ,多様な出版物が発行され,一国の出版文化が発展する。
(2)読書の過程に即した分類
アドラー及びヴァン・ドレンは,読書の過程に即した発展的な分類として,Elementary Reading,Inspectional Reading,Analytical Reading,Syntopical Readingの4分類を提示しているが,娯楽のための読書も含めその目的から分類する方法として,純粋読書,応用読書,探究読書の3分類を提案する。
4.電子書籍が読書に与える影響
(1)媒体としての電子書籍
一冊の書物として編集された「知識」は,体系づけられた「知」として提示されることで,読者の思索を手助けする。いっぽう,ネットワーク空間に存在する膨大な「知識」を自らの「知」へ育て上げるには,高度のネットリテラシーの獲得を読者に強いる。
(2)本の持つ機能
読書とは,それが行われる時点ではきわめて私的な行為であっても,それが私的な領域を超えて共有されるときに初めて,本来の価値を持つ。電子書籍では,読書しながらSNSに接続し感想を世界中の多くの人々と共有できるというソーシャルリーディングを可能にする。しかし,読書は一方で,極めて個人的な内省的行為である。常時外部と「繋がっている」環境が読書にとって好ましいかどうかについてはさらに研究を深める必要がある。