日本出版社の海外ライセンス販売――マンガを事例に
玉川博章
(日本大学講師)
マンガの海外展開をグローバリズムという視点からとらえてみると,第一に海賊行為と著作権法の国際的調和,第2に現地での文化実践の拡大という二つの側面にフォーカスできる。
第一の側面については,著作物の世界展開を意図する権利者側が,ベルヌ条約やWIPOなどをつくり各国に対して知的財産権の保護を要求してきたことをあげることができる。多くの国々が自由貿易の必要性からWTOに加盟した結果,自国の海賊版対策をとらざるを得なくなったのが90年代以降。だが,一方ではインターネットの普及によりスキャンレーション(Scan+Translation)と呼ばれる新しい海賊版流通も出現した。
第2の側面として,ライセンス販売を介さない形での広がりも顕在化しつつある。たとえば中国では,角川書店が現地作家によるマンガ制作を進め,翻訳権のライセンス販売ではなくて合弁事業としてあたらしい雑誌を創刊している。
以上の2つの側面を紹介した上で,日本の出版社によるマンガの海外戦略は,正規のライセンス・ビジネスと海賊版との戦いという従来の構図に加えて,現地でのマンガ文化の成熟により新たな転換期を迎えているといってよい,と纏めた。
中国における出版のデジタル化と版権保護について
田勝立
(中国編輯学会会長)
他国と同様,もはやデジタル化を避けて通ることのできない中国の著作権事情について報告があった。中国では,継続な急成長に対して,デジタル出版の版権セキュリティの構築は未熟であり,現在の法律に基づいたままであると著者にとっては権利保護にあたるコストが高くついてしまう。したがって,デジタル出版に適用しようとするときには現行法の改正が必要であるという。現在,中国国家出版局は著作権法の改正を進めており,この動きは全国人大法公委,国務院法制局,法学会学者,弁護士会,知財権法廷などから積極的に受け入れられて,研究・調査・討議を行っている段階にある。だが,他方でその道のりは険しく長時間を要するので常に技術の発展と社会のニーズに遅れがちである,という。
知的財産権の観点からみたデジタル技術と出版産業
金基泰
(世明大学媒体創作学科教授)
金教授はまず韓国における最新の改訂著作権法の主要内容を次の通りであるとした。「著作権保護期間の延長」「一時保存の複製権認定」「アクセスコントロールの技術的保護措置の新設」「オンラインサービス提供者の責任強化」「非親告罪の導入」「法廷損害賠償制度の導入」「排他的発行権の新設」。
そして,さらに提言として以下の点をあげた。第一にパブリックドメイン政策の強化。第2にCCL(Creative Commons License)の拡大。第3に著作権の認証制度の導入,そして最後に著作権の登録制度の活性化である。
いまアナログメディアから派生した著作権の秩序が大きく揺れているが,このような「公正な利用」を拡大する方向としての法理を導入するとともに諸々の制度的措置がもうけられるならば,あたらしい著作権の秩序を定着させることができ,ひいては,紛争を減らし創造的活性化と市場創出につながるであろう。このように締めた。
著作権制度と出版をめぐる状況
和泉澤 衛
(東京経済大学現代法学部教授)
著作権問題を考えるとき,出版社が権利を希求することが必ずしも作者や新規の電子情報供給事業者の考えと一致するわけではない。このことは,著作権に関する昨今の議論に鑑みればあきらかである。こういう状況の分析には,正規版の制作者に対するインセンティヴと社会全体のwelfare(公共的な厚生・福祉)を考察する「法と経済学」という新しい学問が有効であるとして,その詳細な解説を行った。この学問は,i )社会的利益の最大・最適化,ii)費用便益分析,iii)単純化された前提とモデルなど,を特徴とする。そして,著作物・著作権についてのアプローチは,端的にいえば,インセンティブ保護の内容や水準がどの程度であれば供給者とユーザーからなる社会全体のwelfareが増加し最大になるか,という視点から行う。さらに,「取引費用」「盗み関連費用」などの概念を紹介して,その考え方の有効性を示した。そしてこれらの学問動向をふまえて,最後に新しい著作権制度を考えるときのキーワードは,消費者利益であると,提起した。
以上,4名の発表の後,会場を交えての討論が開始された。討論では,中国,韓国における日本の雑誌のライセンス販売の状況,それぞれの国における著作隣接権,フェアユースの状況などについて活発な情報交換・意見交換がおこなわれた。
(文責:橋元博樹)