第7回日本出版学会賞の審査は,日本出版学会賞要綱および同審査細則にもとづき,1984年10月1日から1985年9月30日までの1年間に発表された出版研究の領域における著作を対象にして行われた.
本審査のために,審査委員会は1985年11月11日から86年4月1日までの間に,合計5回の会合を開いた.審査作業は,まず委員会事務局が収集した対象期間内出版関係著作リストおよび会員からの推薦(アンケートによる)を基礎にして包括的な検討を加え,ひろく候補対象たりうる著作の発見につとめたのち,第1次選考,第2次選考と会を重ねながら,手落ちなく,かつ対象にふさわしいと思考する作品を選び出すという手順で進められた.
その結果,3点の著作が最終的な審査対象として残されたが,更に慎重な検討の末,審査委員会は山本武利著『広告の社会史』(法政大学出版局)を学会賞とすることに満場一致で決定した.
なお,最終的な審査で惜しくも授賞を逸した著作は,『評伝・宮武外骨』(木本至著,社会思想社),『青表紙の奇蹟』(稲村松雄著,桐原書店)の2点である.
【学会賞】
山本武利
『広告の社会史』(法政大学出版局)
[審査結果]
本書は,日本近代における新聞のメディアとしての発達と,その発達に寄与した広告とのかかわり,とくに発達史上における「出版」と「新聞」と「読者」との三者の関係を,膨大な資料群の中から発掘して,日本資本主義の発展と民衆の生活史の発展とを,広告媒体の研究をキイ・ワードとして解いて見せたユニークな著作になっている.
氏の得意な史的領域である明治後期から大正初期に至る間の広告とメディアの具体的な関係を説いた部分は,細密にして的確であり,ジャーナリズムを「読者論」の側から解き進めた山本氏独自の方法が,『広告の社会史』の中で充分に生かされている.
出版の研究とは研究者にとって,未知の領域の豊かに残された学問の分野で,100%出版が対象にされずとも,その当てた定規の角度で,思わぬ光を放つものであう.
[受賞の言葉]
受賞のことば 山本武利
私自身が審査委員の一人なので,自分の本が候補作として絞られるとともに,複雑な思いにかられた.受賞作の最終選考には,もちろん席をはずれたし,委員会の審査報告の文章作成にもタッチしていない.ともかく,他の委員の方々が出版広告も出版研究の重要な分野として認められ,その分野への一つの挑戦的研究として評価していただいたものと素直に喜んでいる.
私の本は明治初期から昭和戦前期までを扱っている.『毎日新聞』の書評に戦後を対象としたものを次に出してほしいとあった.私もぜひそうしたいと思う.しかし,この本をまとめるのにも,約20年かかっている.しかもこの期間は私の人生でもっとも気力,体力が充実していたと思う.これからこれに相応する大冊が出せるかどうか自信はない.
だが学界を見渡せば,80歳を超える方が意欲的に新しい領域を開拓され,次々と労作を世に問われている.その方々に比べると私はまだ若い.これを機にさらにがんばろう.
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