第3回日本出版学会賞の審査は,日本出版学会賞要綱および同審査細則にもとづき,1980年10月1日から81年9月30日までの1年間に発表された出版研究の領域における著作を対象にして行われた.
本審査のために,審査委員会は1981年11月10日から82年3月23日までの間に合計5回の会合を開いた.審査作業は,まず委員会事務局が収集した対象期間内出版関係著作リストおよび会員からの推薦(アンケートによる)を基礎にして包括的な検討を加え,ひろく候補対象たりうる著作の発見につとめたのち,第1次選考,第2次選考と回を重ねながら対象をしぼるという手順で進められた.
その結果,4点の著作が最終的な審査の対象として残されたが,さらに慎重な審査を行ったのち,審査委員会は矢作勝美編著『有斐閣百年史』(有斐閣刊)を授賞候補作とするとの結論に達した.
なお,最終的な審査の段階で惜しくも授賞を逸した著作は,荘司徳太郎・清水文吉編著『資料年表・日配時代史――現代出版流通の原点』(出版ニュース社刊),西谷能雄著『出版流通機構試論』(未来社刊),S・アンウィン著(布川角左衛門・美作太郎訳)『最新版・出版概論(原書第8版)』(日本エディタースクール出版部刊)の3点である.
【学会賞】
矢作勝美編
『有斐閣百年史』(有斐閣)
[審査結果]
本書は,編集者が前著『伝記と自伝の方法』(1971年,出版ニュース社刊)において展開を試みた方法論にもとづき,関係資料の調査・収集・整理から脱稿にいたるまで5年余の歳月をかけた労作であり,とくにその執筆にあたっては,各時代の出版活動の時代的,社会的背景にも十分な目配りを施すとともに,できるだけ客観的な立場から記述するよう試みられている.このため,本書は,これまではややもすれば社の好ましい側面を強調し不都合な部分は極力省略しようとする傾向の強かった大方の社史とは異なって,単に一法学書出版社の社史たるにとどまらず,わが国における法学書を中心とする学術書の出版史としても十分に通用しうるだけの内容をもっている.その意味で,本書は数多くの社史の中にあって群を抜くものと評価することができる.
[受賞の言葉]
受賞のことば 矢作勝美
『有斐閣百年史』の編纂・執筆については,従来の社史にはあまりみられなかったいくつかのことを試みることができたように思う.それは,私なりの社史に対する考え方から出たもので,いうなれば私の方法論であった.
しかし,そうした方法論が社史の編纂・執筆を通じてうまく展開できたかどうかとなると,心もとないものがある.それは今後の課題にしたいと思うが,審査委員会の審査報告によると,方法論のことまで言及され,それをふまえたうえで,こんどの社史の仕事のことが評価されている.そこまで深く読んでもらえるとは思わなかっただけに,ありがたいことであった.
社史とか私家版の伝記といったようなものは,一般になじみも薄く,なかなか読んでもらえないのが通例であった.また,社史や伝記の編纂・執筆する側にも,積んでおかれても仕方がないような,それなりの理由があったことも確かである.
今回は,学会賞の対象に社史が選ばれることになったが,その意味は決して小さくないように思う.これを契機にして社史編纂のあるべき姿が真剣に追及されることを期待したい.そして,今後よりすぐれた社史が次々と刊行されるようになれば,出版活動,出版史の研究に決定的影響をあたえるのは必至である.
(著者病気のため,関係各位の諒解を得て,『出版ニュース』1982年6月中旬号より転載.)
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