2023年度事業報告(2023年4月1日~2024年3月31日)

1.概 況

 1969年3月に設立された日本出版学会は、創立から55年をむかえ、新たな時代への歩みを進めている。これまで設立の理念と志を尊重し、円滑な研究者の交流や情報交換をおこない、研究成果の発表のために、学会誌や会報の発行、研究発表会や各種の部会活動、そして国際出版研究フォーラム(IFPS:The International Forum on Publishing Studies)への参加を継続的におこなってきた。
 これらが可能となったのは、何よりも学会を構成する会員の方々の努力と、経済的な支援をはじめ様々な便宜をはかっていただいている賛助会員の方々のご協力の賜物であり、ここに改めて深甚なる感謝の意を表したい。
 2023年度における日本出版学会の活動は、それまでの研究や人的交流の蓄積に基づいて着実に進められ、出版研究に対する関心は一層高められた。特に2020年度より開始した産学連携プロジェクトにより、積極的に出版業界との連携を推進した結果、日本書籍出版協会や出版文化産業振興財団との交流に繋がった。これは日本出版学会の歴史の中でも特筆すべきことである。
 春季研究発表会は、2023年5月13日に跡見学園女子大学文京キャンパスで開催した。参加者は68名であり、4名の研究発表、1つのワークショップ、1つの基調講演をおこなった。
 また、秋季研究発表会は、2023年12月2日に同志社女子大学今出川キャンパスで開催し、43名の参加者で、7名の研究発表および2つのワークショップをおこなった。
 
2.会員数

正会員        270名
賛助会員    法人  31社
名誉会員         2名
        (2024年3月末日現在)
 
3.総 会

 2023年総会は、2023年5月13日、跡見学園女子大学文京キャンパスで83名(委任状を含む)の会員が出席、2022年度事業報告、同決算、同特別会計決算、2023年度事業計画案、同予算案、同特別会計予算案をそれぞれ審議・可決した。
 
4.理事会

 2023年度の会務をおこなうため、2022年総会から本総会に至るまでの間、理事会を下記のとおり開催した。
 第1回: 2023年6月19日
 第2回: 2023年9月11日
 第3回: 2023年12月11日
 第4回: 2024年3月18日
 第5回: 2024年5月7日
 第6回: 2024年6月8日
 
5.調査研究委員会

 調査研究委員会は、主として各部会間の連絡調整にあたった。各部会の活動状況は次のとおりである。
(1)学術出版研究部会
 今後の研究課題、部会運営について検討をおこなった。
(2)雑誌研究部会
3月26日(オンライン)「ビデオゲーム関連雑誌とその研究可能性」毛利仁美
(3)出版アクセシビリティ研究部会
5月13日(跡見学園女子大学文京キャンパス)「アクセシブルなEPUB出版物の制作における課題――日本出版学会学会誌を事例にして」梶原治樹・池下花恵・岩本崇・植村要・鷹野凌(春季研究発表会ワークショップ、出版デジタル研究部会共催)
(4)出版技術研究部会
 今後の研究課題、部会運営について検討をおこなった。
(5)出版教育研究部会
12月2日(同志社女子大学今出川キャンパス)「出版教育と実務学のテキスト作り―― 一人出版社「出版メディアパル」を例にして」伊藤民雄・本多悟・下村昭夫・清水一彦・湯浅俊彦(秋季研究発表会ワークショップ)
(6)出版産業研究部会
9月28日(専修大学神田キャンパス)「公共図書館の所蔵および貸出は新刊書籍の売上にどの程度影響するか:解説と補足」大場博幸
3月15日(専修大学神田キャンパス)「本屋の新しい業態研究――シェア型本棚と公営書店(八戸ブックセンター)」植村八潮・梅本優希・湊梨々子
(7)出版史研究部会
7月26日(オンライン)「近代朝鮮における出版文化の形成と展開」田中美佳(日本出版学会賞受賞記念講演会)
9月6日(専修大学神田キャンパス+オンライン)「近代日本におけるメディア文化圏としての「地下出版」」大尾侑子(日本出版学会賞受賞記念講演会)
3月11日(専修大学神田キャンパス)「R.ダーントン著/上村敏郎、八谷舞、伊豆田俊輔訳『検閲官のお仕事』(みすず書房)を読む トークセッション」 上村敏郎・伊豆田俊輔・大尾侑子
(8)出版デジタル研究部会
5月13日(跡見学園女子大学文京キャンパス)「アクセシブルなEPUB出版物の制作における課題――日本出版学会学会誌を事例にして」梶原治樹・池下花恵・岩本崇・植村要・鷹野凌(春季研究発表会ワークショップ、出版アクセシビリティ研究部会共催)
(9)出版編集研究部会
12月12日(オンライン)「新書の窓から「出版」を考える 一編集者の視点から」渡辺千弘
2月8日(オンライン)「「出版指標」の統計と現在の出版業界」原正昭
(10)出版法制研究部会
 今後の研究課題、部会運営について検討をおこなった。
(11)翻訳出版研究部会
4月16日(日本出版クラブ)「シェイクスピア全集」松岡和子
7月21日(文京シビックホール)「ライプニッツ著作集」十川治江
10月13日(文京シビックホール)「「在野」のアメリカ文学研究と全集出版」井上健
(12)MIE研究部会
10月4日(専修大学神田キャンパス)「ニューヨークのMIE実態調査報告」富川淳子
(13)関西部会
1月20日(オンライン)「電子ジャーナルとリンクリゾルバの普及期の省察」増田豊
 
6.プログラム委員会

 総務委員会と調査研究委員会によって構成される合同委員会を開催し、研究発表会の企画・運営に当たった。

(1)春季研究発表会(2023年5月13日、跡見学園女子大学文京キャンパス)
〈研究発表〉
1.「子宮頸がんワクチンの報道において実施されたリスク・キャラクタリゼーションに関する実証研究」本多祥大
2.「文学賞受賞の表示が書籍の購買意欲に及ぼす影響」浅川雅美・菊地桃華・岡野雅雄
3.「日本と中国の出版研究比較――戦後から2000年代までの出版関係書籍を対象に」伊藤民雄
4.「中西嘉助の出版活動と明治維新――江戸期書肆から明治期出版社への移行」中西秀彦
〈基調講演〉
1.「文藝春秋のこれまでとこれから」飯窪成幸
〈ワークショップ〉
1.「アクセシブルなEPUB出版物の制作における課題――日本出版学会学会誌を事例にして」梶原治樹・池下花恵・岩本崇・植村要・鷹野凌

(2)秋季研究発表会(2023年12月2日、同志社女子大学今出川キャンパス)
〈研究発表〉
1.「1980年代の「おたく雑誌」における「おたく」の自己語り――アニメ雑誌とパソコンゲーム雑誌の比較を通して」久野桜希子
2.「講談社X文庫が見せた作家・作品展開のグラデーション――“ライトノベルのメディア史”における位置づけの再検証」山中智省
3.「韓国における男性軍人の身体へのまなざし――ミリタリー雑誌における美容整形広告の考察から」小平沙紀
4.「海外の雑誌作り教育に関する調査報告および考察――New YorkにおけるMIE(Magazine in Education)の目的とその教育効果」富川淳子
5.「明治十年代、板木購入・運用の実態とその背景――桂雲堂豊住書店史料から見えてくるもの」磯部敦
6.「紙書籍としての絵本――制作から受容までの一連の流れのなかで」山内椋子
7.「試論 専門書出版における「わかりやすさ」を考える――認知心理学の知見を手がかりとして」大橋鉄雄
〈ワークショップ〉
1.「出版教育と実務学のテキスト作り―― 一人出版社「出版メディアパル」を例にして」伊藤民雄・本多悟・下村昭夫・清水一彦・湯浅俊彦
2.「学術出版の現在と未来」中村健、中西秀彦、秦洋二、湯浅俊彦
 
7.日本出版学会賞

(1)受賞図書・論文
 第44回日本出版学会賞は、下記のとおりである。
【日本出版学会賞奨励賞】
大尾侑子 著『地下出版のメディア史――エロ・グロ、珍書屋、教養主義』(慶應義塾大学出版会)
田中美佳 著『朝鮮出版文化の誕生――新文館・崔南善と近代日本』(慶應義塾大学出版会)
【清水英夫賞(日本出版学会優秀論文賞)】
山中智省 著「「ライトノベル」が生まれた場所――朝日ソノラマとソノラマ文庫」(『出版研究』第52号掲載)
(2)日本出版学会賞審査委員会
 日本出版学会賞審査委員会は、第45回日本出版学会賞の審査にあたった。
(3)受賞記念講演会
1.7月26日(オンライン)「近代朝鮮における出版文化の形成と展開」田中美佳
2.9月6日(専修大学神田キャンパス+オンライン)「近代日本におけるメディア文化圏としての「地下出版」」大尾侑子
 
8.『出版研究』編集委員会

 『出版研究』編集委員会は、学会誌『出版研究』の企画・編集にあたり、第53号(A5判、104頁、600部、定価:本体2、600円+税)を2023年4月に発行し、引き続き第54号(A5判、600部、定価:本体2,600円+税)の編集をおこなった。
 
9.広報委員会

 広報委員会は、学会活動に関する対外的広報活動を随時おこなうとともに、学会案内の作成、および『日本出版学会会報』の企画・編集にあたり、次の各号を発行した。
第154号=24頁、2023年4月10日(700部)
第155号=28頁、2023年10月31日(700部)
 また、公式ウェブサイトの充実をはかり、情報発信をおこなった。
 
10.関西委員会

 関西委員会は、調査研究委員会と協力して、学会の秋季研究発表会の運営にあたった。
 
11.国際交流委員会

 国際交流委員会は、第21回国際出版研究フォーラム(IFPS)(日本開催)に向け、企画・運営をおこなった。
 
12.役員(2024年度総会まで)

会長=富川淳子
副会長=清水一彦 中西秀彦 山崎隆広
理事=飛鳥勝幸 安部由紀子 池下花恵 石川徳幸 石田あゆう 伊藤民雄 植村要 牛山佳菜代 梶原治樹(事務局長) 駒橋恵子 鈴木親彦 鷹野凌 玉川博章 長尾宗典 中村幹(財務担当) 橋元博樹 秦洋二 本多悟 宮下義樹 村木美紀(事務局次長) 森貴志 山中智省 山中秀夫 湯浅俊彦
監事=茨木正治 塚本晴二朗
 
13.委員会メンバー

(◎=委員長・部会長、○=副委員長)
(1)総務委員会=◎石川徳幸 牛山佳菜代 梶原治樹 清水一彦 玉川博章 富川淳子 中西秀彦 中村幹 村木美紀 森貴志 山崎隆広
(2)調査研究委員会=森貴志
  学術出版研究部会=◎橋元博樹 山崎隆広 吉田拓歩
  雑誌研究部会=◎山中智省 玉川博章 石川徳幸 田島悠来
  出版アクセシビリティ研究部会=◎野口武悟 植村要(担当理事)
  出版技術研究部会=◎矢口博之 中村幹(担当理事)
  出版教育研究部会=◎伊藤民雄 ○本多悟 清水一彦
  出版産業研究部会=◎鈴木親彦 岡部友春 橋元博樹
  出版史研究部会=◎長尾宗典 柴野京子 石川徳幸
  出版デジタル研究部会=◎鷹野凌 梶原治樹 徳永修 藤井健人 堀鉄彦 矢口博之
  出版編集研究部会=◎飛鳥勝幸 小林えみ 吉田拓歩
  出版法制研究部会=◎宮下義樹
  翻訳出版研究部会=◎柴田耕太郎 安部由紀子(担当理事)
  MIE研究部会=◎清水一彦 富川淳子
  関西部会=◎中村健 石田あゆう 磯部敦 中西秀彦 秦洋二 村木美紀 山中秀夫 湯浅俊彦
(3)『出版研究』編集委員会=◎玉川博章 飛鳥勝幸 稲田隆 上田宙 鷹野凌 辻泉 中川裕美 山崎隆広 山中智省 山森宙史 吉田拓歩
(4)広報委員会=◎牛山佳菜代 石川徳幸 秦洋二
(5)関西委員会=◎中西秀彦 石田あゆう 磯部敦 中村健 秦洋二 村木美紀 山中秀夫 湯浅俊彦
(6)国際交流委員会=◎山崎隆広 植村八潮
(7)日本出版学会賞審査委員会=◎富川淳子 塚本晴二朗 石川徳幸 石田あゆう 清水一彦 鈴木親彦 村木美紀
(8)プログラム委員会=◎宮下義樹 駒橋恵子 湯浅俊彦
(9)産学連携プロジェクト=梶原治樹 村木美紀
 
14.「産学連携」プロジェクト

 出版学会と出版業界の新しい連携を模索したこのプロジェクトにより、出版文化産業振興財団からも調査研究での協力要請を受けた。