1.概 況
1969年3月に設立された日本出版学会は、創立から50年をむかえ、新たな時代への歩みを進めている。これまで設立の理念と志を尊重し、円滑な研究者の交流や情報交換をおこない、研究成果の発表のために、学会誌や会報の発行、研究発表会や各種の部会活動、そして国際出版研究フォーラム(IFPS:The International Forum on Publishing Studies)への参加を継続的におこなってきた。
これらが可能となったのは、何よりも学会を構成する会員の方々の努力と、経済的な支援をはじめ様々な便宜をはかっていただいている賛助会員の方々のご協力の賜物であり、ここに改めて深甚なる感謝の意を表したい。
2020年度における日本出版学会の活動は、それまでの研究や人的交流の蓄積に基づいて着実に進められ、出版研究に対する関心は一層高められた。特に2020年度より開始した産学連携プロジェクトにより、積極的に出版業界との連携を推進した結果、日本書籍出版協会や出版文化産業振興財団との交流に繋がった。これは日本出版学会の歴史の中でも特筆すべきことである。
春季研究発表会は、2021年5月8日にZoomによるオンラインで開催した。参加者は109名であり、3名の研究発表、1つのワークショップ、特別シンポジウムをおこなった。
また、秋季研究発表会は、2021年12月4日にオンラインで開催し、58名の参加者で、5名の研究発表および2つの日本出版学会賞受賞記念講演をおこなった。
2.会員数
正会員 285名
賛助会員 法人 34社
名誉会員 2名
(2022年3月末日現在)
3.総 会
2021年総会は、2021年5月8日、Zoomによるオンラインで93名(委任状を含む)の会員が出席、2020年度事業報告、同決算、同特別会計決算、2021年度事業計画案、同予算案、同特別会計予算案をそれぞれ審議・可決した。
4.理事会
2021年度の会務をおこなうため、2021年総会から本総会に至るまでの間、理事会を下記のとおり開催した。
第1回: 2021年9月6日
第2回: 2021年12月4日
第3回: 2022年3月14日
第4回: 2022年4月18日
第5回: 2022年5月14日
5.調査研究委員会
調査研究委員会は、主として各部会間の連絡調整にあたった。各部会の活動状況は次のとおりである。
(1)学術出版研究部会
6月25日(オンライン)「〈学術出版を語る1〉コロナ禍でも立ち止まらないために――学術出版の次を妄想する」江草貞治
9月3日(オンライン)「〈学術出版を語る2〉学術出版の縁から――変化の時代を生き抜くために」喜入冬子
11月29日(オンライン)「〈大学における電子教科書を考える その1〉「参考書」のサブスクリプションモデル実証実験から見えてきたもの――デジタル教材活用制度プロジェクトからの報告」井関貴博・山里敬也・上原早苗・井村寿人(出版デジタル研究部会共催)
12月20日(オンライン)「〈大学における電子教科書を考える その2〉大学生協の電子教科書事業(DECS)からの報告――利用者の視点を踏まえて」瀬良兼司・鷲嶺奈緒子(出版デジタル研究部会共催)
2月28日(オンライン)「〈学術出版を語る3〉学術出版の未来形――コンテンツ販売からサービス提供へ」金原俊
(2)雑誌研究部会
5月25日(オンライン)「『JJ』とは何だったのか――ファッション誌の来し方行く末」米澤泉
(3)出版アクセシビリティ研究部会
2月24日(オンライン)「学術情報・コミュニケーションのアクセシビリティ」西田奈央、他
(4)出版技術研究部会
9月13日(オンライン)「本というマイクロコスモス」髙木毬子(関西部会共催)
(5)出版教育研究部会
11月10日(オンライン)「海外の書店について語る」ナカムラクニオ・森啓次郎・伊藤民雄
(6)出版産業研究部会
1月13日(オンライン)「出版産業の30年・100年を振り返る――『平成の出版が歩んだ道』」能勢仁・河野高孝・八木壮一
(7)出版史研究部会
今後の研究課題、部会運営について検討をおこなった。
(8)出版デジタル研究部会
11月29日(オンライン)「〈大学における電子教科書を考える その1〉「参考書」のサブスクリプションモデル実証実験から見えてきたもの――デジタル教材活用制度プロジェクトからの報告」井関貴博・山里敬也・上原早苗・井村寿人(学術出版研究部会共催)
12月20日(オンライン)「〈大学における電子教科書を考える その2〉大学生協の電子教科書事業(DECS)からの報告――利用者の視点を踏まえて」瀬良兼司・鷲嶺奈緒子(学術出版研究部会共催)
(9)出版編集研究部会
6月22日(オンライン)「本の索引はコンピュータで作れるのか?――著者・編集者・読者の視点で考える」藤田節子
(10)出版法制研究部会
今後の研究課題、部会運営について検討をおこなった。
(11)翻訳出版研究部会
3月19日(オンライン)「モリエール生誕400年、邦訳全集・選集を顧みる」柴田耕太郎
(12)MIE研究部会
今後の研究課題、部会運営について検討をおこなった。
(13)関西部会
9月13日(オンライン)「本というマイクロコスモス」髙木毬子(出版技術研究部会共催)
6.プログラム委員会
総務委員会と調査研究委員会によって構成される合同委員会を開催し、研究発表会の企画・運営に当たった。
(1)春季研究発表会(2021年5月8日、オンライン)
〈研究発表〉
1.「米国公共図書館における電子書籍・オーディオブック・映像資料の提供の現状と日本の課題」長谷川智信
2.「「テレビブロス」に見る、テレビ情報誌の“雑誌”としての挑戦」平松恵一郎
3.「戦後日本における教養言説の展開――1945-1999年の朝日新聞紙面を対象として」松井健人
〈ワークショップ〉
「出版教育研究部会:出版の教育・研究を支える出版学文献データベース構築の必要性について」伊藤民雄・古山悟由・小林昌樹
〈特別シンポジウム〉
「日本出版学会と出版界が目指す[産学連携]を実現するために」小野寺優・堀内丸惠・片桐隆雄・塚本晴二朗・梶原治樹
(2)秋季研究発表会(2021年12月4日、オンライン)
〈研究発表〉
1.「海を渡った女性記者・加納ユカシに関する考察――『台湾愛国婦人』時代を中心に」下岡友加
2.「大正期『週刊朝日』にみえる索引的編集から読み物への変化――戦前期週刊誌の基礎研究」中村健
3.「幕末に刊行された洋学関係官板、及び「準官板」の出版史上における意義――近代出版への架け橋として」佐々木千恵
4.「書店としての図書館専門企業の仕入・販売実績について」伊藤民雄
5.「出版DX(デジタルトランスフォーメーション)としての大学における電子書籍制作と電子図書館公開」湯浅俊彦
〈日本出版学会賞受賞記念講演〉
1.「近世後期の豪農・豪商の書物受容」鈴木淳世
2.「元禄期の江戸出版文化――書肆活動の様相と文芸への係わり」速水香織
7.日本出版学会賞
(1)受賞図書・論文
第42回日本出版学会賞は、下記のとおりである。
【日本出版学会賞奨励賞】
速水香織 著『近世前期江戸出版文化史』(文学通信)
鈴木淳世 著『近世豪商・豪農の〈家〉経営と書物受容――北奥地域の事例研究』(勉誠出版)
【日本出版学会賞特別賞】
凸版印刷株式会社印刷博物館(『日本印刷文化史』(講談社)の刊行および印刷博物館の活動全般)
【清水英夫賞(日本出版学会優秀論文賞)】
張 賽帥 著「雑誌『東亜時論』(1898-1899)にみる東亜同文会の中国時局観」(『出版研究』50号掲載)
(2)日本出版学会賞審査委員会
日本出版学会賞審査委員会は、第43回日本出版学会賞の審査にあたった。
(3)受賞記念講演会
12月4日(オンライン)
1.「近世後期の豪農・豪商の書物受容」鈴木淳世
2.「元禄期の江戸出版文化――書肆活動の様相と文芸への係わり」速水香織
8.『出版研究』編集委員会
『出版研究』編集委員会は、学会誌『出版研究』の企画・編集にあたり、第51号(A5判、220頁、600部、定価:本体2,600円+税)を2021年4月に発行し、引き続き第52号(A5判、136頁、600部、定価:本体2,600円+税)の編集をおこなった。
9.広報委員会
広報委員会は、学会活動に関する対外的広報活動を随時おこなうとともに、学会案内の作成、および『日本出版学会会報』の企画・編集にあたり、次の各号を発行した。
第150号=40頁、2021年4月15日(700部)
第151号=20頁、2021年10月31日(700部)
また、ウェブサイト改定委員会の検討結果を受け、公式ウェブサイトの改定を実施、新サイトでの情報発信を開始した。
10.関西委員会
関西委員会は、調査研究委員会と協力して、学会の秋季研究発表会の運営にあたった。
11.国際交流委員会
国際交流委員会は、第20回国際出版研究フォーラム(IFPS)(中国編輯学会主催)の企画・運営をおこなった。
12.役員(2022年度総会まで)
会長=塚本晴二朗
副会長=茨木正治 富川淳子 中西秀彦
理事=飛鳥勝幸 阿部圭介 安部由紀子 石川徳幸 磯部敦 伊藤民雄 植村要 梶原治樹(事務局長) 駒橋恵子 清水一彦 新藤透 鈴木親彦 玉川博章 長尾宗典 中川裕美 中村健(事務局次長) 橋元博樹 秦洋二 宮下義樹 村木美紀 矢口博之 山崎隆広 山中智省 山中秀夫
監事=植村八潮 星野渉
13.委員会メンバー
(◎=委員長・部会長、○=副委員長)
(1)総務委員会=◎富川淳子 阿部圭介 石川徳幸 茨木正治 梶原治樹 塚本晴二朗 中西秀彦 中村健 山崎隆広
(2)調査研究委員会=◎石川徳幸
学術出版研究部会=◎橋元博樹 山崎隆広 吉田拓歩
雑誌研究部会=◎山中智省 玉川博章 石川徳幸 田島悠来
出版アクセシビリティ研究部会=◎野口武悟 植村要(担当理事)
出版技術研究部会=◎矢口博之
出版教育研究部会=◎伊藤民雄 清水一彦
出版産業研究部会=◎鈴木親彦 岡部友春 橋元博樹
出版史研究部会=◎長尾宗典 柴野京子 石川徳幸
出版デジタル研究部会=◎矢口博之 梶原治樹
出版編集研究部会=◎飛鳥勝幸 清水一彦 吉田拓歩
出版法制研究部会=◎阿部圭介
翻訳出版研究部会=◎柴田耕太郎 安部由紀子(担当理事)
MIE研究部会=◎清水一彦 富川淳子
関西部会=◎中村健 磯部敦 常木佳奈 中西秀彦 秦洋二 村木美紀 山中秀夫 湯浅俊彦
(3)『出版研究』編集委員会=◎茨木正治 ○山中智省 飛鳥勝幸 磯部敦 稲田隆 上田宙 玉川博章 中川裕美 山崎隆広 山森宙史 吉田拓歩
(4)広報委員会=◎阿部圭介 石川徳幸 石沢岳彦 鈴木親彦 秦洋二
(5)関西委員会=◎中西秀彦 磯部敦 常木佳奈 中村健 秦洋二 村木美紀 山中秀夫 湯浅俊彦
(6)国際交流委員会=◎山崎隆広 植村八潮
(7)日本出版学会賞審査委員会=◎塚本晴二朗 植村八潮 川井良介 駒橋恵子 新藤透 富川淳子 長尾宗典 中川裕美
(8)プログラム委員会=◎宮下義樹 ○新藤透 ○湯浅俊彦
(9)ウェブサイト改定委員会=◎鈴木親彦 阿部圭介 鷹野凌 山中智省 吉田拓歩
(10)出版企画委員会=◎塚本晴二朗 磯部敦 牛口順二 大重史朗 玉川博章 中川裕美 野口武悟 平松恵一郎 堀井健司 森貴志
14.『パブリッシング・スタディーズ』プロジェクト
日本出版学会とは、いかなる学会なのかを明確にするための出版物を刊行しよう、というこのプロジェクトは、2月刊行予定からややずれ込んだものの4月刊行にこぎ着けた。献本及び広告の配布等若干の作業を残すが、プロジェクト自体は刊行をもって終了した。
15.「産学連携」プロジェクト
出版学会と出版業界の新しい連携を模索したこのプロジェクトにより、日本書籍出版協会から賛助会員の申し出を受け、出版文化産業振興財団からも調査研究での協力要請を受けた。また、2022年度春季研究発表会にて、出版文化産業振興財団の近藤敏貴理事長の特別講演を開催することとなった。