1.概 況
1969年3月に設立された日本出版学会は、創立から50年をむかえ、新たな時代への歩みを進めている。これまで設立の理念と志を尊重し、円滑な研究者の交流や情報交換をおこない、研究成果の発表のために、学会誌や会報の発行、研究発表会や各種の部会活動、そして国際出版研究フォーラム(IFPS:The International Forum on Publishing Studies)への参加を継続的におこなってきた。
これらが可能となったのは、何よりも学会を構成する会員の方々の努力と、経済的な支援をはじめ様々な便宜をはかっていただいている賛助会員の方々のご協力の賜物であり、ここに改めて深甚なる感謝の意を表したい。
2020年度における日本出版学会の活動は、それまでの研究や人的交流の蓄積に基づいて着実に進められ、出版研究に対する関心は一層高められた。
春秋合同研究発表会は、2020年9月12日にZoomによるオンラインで開催した。参加者は89名であり、6名の研究発表、2つのワークショップ、日本出版学会賞受賞記念講演をおこなった。
コロナ禍の対応に当初手間取った。研究会等はオンライン開催しかできず、結果として大幅に回数を減らすこととなったしまった。しかし二つの会長プロジェクト等により学会全体としては、従前程度の活動を維持できているといえる。
2.会員数
正会員 294名
賛助会員 法人 36社
名誉会員 2名
(2021年3月末日現在)
3.総 会
2020年総会は、2020年5月24日、Zoomによるオンラインで95名(委任状を含む)の会員が出席、2019年度事業報告、同決算、同特別会計決算、2020年度事業計画案、同予算案、同特別会計予算案をそれぞれ審議・可決した。
4.理事会
2020年度の会務をおこなうため、2020年総会から本総会に至るまでの間、理事会を下記のとおり開催した。
第1回: 2020年5月24日
第2回: 2021年3月1日
また、電磁的理事会を下記のとおり開催した。
2020年6月8日
2020年7月6日
2020年10月26日
2020年11月7日
2020年11月30日
5.調査研究委員会
調査研究委員会は、主として各部会間の連絡調整にあたった。2020年度はコロナ禍によって対面方式での部会の開催が困難な状況であったため、主として次年度に向けた研究課題の検討等をおこなった。一部の部会ではオンラインでの部会開催を実施し、積極的な議論をおこなうことができた。各部会の活動状況は次のとおりである。
(1)出版史研究部会
3月4日(オンライン)「出版史から見た明治時代の「誌友交際」」長尾宗典
(2)出版デジタル研究部会
3月26日(オンライン)「電子出版ビジネスの現状と今後の展望――出版社における電子書籍・デジタル雑誌ビジネス実態調査報告」植村八潮・星野渉・矢口博之・田中敏隆(主催:電子出版制作・流通協議会)
(3)翻訳出版研究部会
3月5日(オンライン)「コロナ禍における翻訳出版――現在そしてこれから(2)編集者の立場から」永嶋俊一郎
(4)MIE研究部会
10月22日(オンライン)「中学校における雑誌編集教育の実践報告」植田恭子・渡辺光輝
12月3日(オンライン)「大宅壮一文庫の雑誌編集教育の実践報告」土屋潤子
(5)学術出版研究部会
(6)雑誌研究部会
(7)出版アクセシビリティ研究部会
(8)出版技術研究部会
(9)出版教育研究部会
(10)出版産業研究部会
(11)出版編集研究部会
(12)出版法制研究部会
(13)関西部会
6.プログラム委員会
プログラム委員長より、開催予定であった東京経済大学での開催ができなくなった、との報告を受け、オンライン開催へ向けた準備をおこなった。
春秋合同研究発表会(2020年9月12日、オンライン)
〈研究発表〉
1.「公共図書館における、電子図書館サービス導入の実態と課題、新型コロナウイルス感染問題による図書館の意識の変化について」長谷川智信
2.「日本における電子書籍化の現状(2020年版)――国立国会図書館所蔵資料の電子化率調査」鷹野凌・堀正岳
3.「江戸の実用書「小謡本」の編集――蔦屋・鱗形屋の方法」原八千代
4.「出版文献データベース考察――古山悟由編「90年代・出版関係雑誌文献目録(稿)」を利用して」伊藤民雄
5.「「ライトノベルの一源流」としてのソノラマ文庫――メディア史的アプローチからの再検証」山中智省
6.「ヘイトスピーチ解消法の問題点――法の下の平等の観点から」田上雄大
〈ワークショップ〉
1.「コロナ禍における翻訳出版 現在そしてこれから」安部由紀子・山本知子・井口富美子・梶原治樹・山崎隆広
2.「電子書籍におけるレイアウトと情報化――アクセシビリティを視座として」小林潤平・野口武悟・矢口博之・植村要
〈日本出版学会賞受賞記念講演〉
山森宙史
受賞作『「コミックス」のメディア史――モノとしての戦後マンガとその行方』(青弓社刊)
7.日本出版学会賞
(1)受賞図書・論文
第41回日本出版学会賞は、下記のとおりである。
【日本出版学会賞】
稲岡勝『明治出版史上の金港堂――社史のない出版社「史」の試み』(皓星社)
大和博幸『江戸期の広域出版流通』(新典社)
【日本出版学会賞奨励賞】
山森宙史『「コミックス」のメディア史――モノとしての戦後マンガとその行方』(青弓社)
巽由樹子『ツァーリと大衆――近代ロシアの読書の社会史』(東京大学出版会)
【日本出版学会賞特別賞】
金沢文圃閣(出版活動全般および「文献継承」の発行)
(2)日本出版学会賞審査委員会
日本出版学会賞審査委員会は、第42回日本出版学会賞の審査にあたった。
(3)受賞記念講演会
9月12日(オンライン)山森宙史(受賞作『「コミックス」のメディア史――モノとしての戦後マンガとその行方』(青弓社刊))
8.『出版研究』編集委員会
『出版研究』編集委員会は、学会誌『出版研究』の企画・編集にあたり、第50号(A5判、148頁、600部、定価:本体2,600円+税)を2020年4月に発行し、引き続き第51号(A5判、220頁、600部、定価:本体2,600円+税)の編集をおこなった。
9.広報委員会
広報委員会は、学会活動に関する対外的広報活動を随時おこなうとともに、学会案内の作成、および『日本出版学会会報』の企画・編集にあたり、次の各号を発行した。
第149号=16頁、2020年4月20日(700部)
また、公式ウェブサイトの充実をはかり、情報発信をおこなった。
10.関西委員会
関西委員会は、関西部会の運営に協力した。
11.国際交流委員会
国際交流委員会は、2020年11月6日にオンラインで開かれた第19回国際出版研究フォーラム(IFPS)(韓国出版学会主催)の企画・運営をおこなった。
第19回国際出版研究フォーラム
テーマ:モバイル時代の出版革命
〈第1セッション:モバイル・コンテンツの生産〉
1.「MZ世帯のためのモバイル出版コンテンツ生産戦略」李抒炫・李知樺
2.「コンテンツとしてのジャーナリズム――技術革新と生産者の倫理学」塚本晴二朗
3.「メディア融合背景からモバイル・コンテンツの生産メカニズムに関する研究――COL事例を中心として」童之磊
〈第2セッション:モバイル・コンテンツの販売とマーケティング〉
1.「図書発見とソーシャルメディア競争に関する研究――適所分析を中心として」金東赫
2.「COVID-19の影響拡大における出版・電子書籍の現状と課題」植村八潮
3.「モバイル時代に専門出版デジタル製品構築と市場戦略の協同発展」唐亮・李鋒
〈第3セッション:モバイル・コンテンツの読書〉
1.「デジタル時代の読書変化と活用方案」李銀浩
2.「デジタル時代の読書とは」山崎隆広
3.「ポストコロナ時代の出版発展戦略――新しい日韓中の出版文化協力方式模索」劉文昕
〈第4セッション:モバイル・コンテンツの出版政策〉
1.「モバイル・コンテンツと出版ビジネスモデル研究」崔俊蘭
2.「海賊版電子書籍に対する著作権法改正」宮下義樹
3.「ポストコロナ時代、編集長の出版戦略」杜賢
12.役員(2022年度総会まで)
会長=塚本晴二朗
副会長=茨木正治 富川淳子 中西秀彦
理事=飛鳥勝幸 阿部圭介 安部由紀子 石川徳幸 和泉澤衞 磯部敦 伊藤民雄 植村要 梶原治樹(事務局長) 駒橋恵子 清水一彦 新藤透 鈴木親彦 玉川博章 長尾宗典 中川裕美 中村健(事務局次長) 橋元博樹 秦洋二 村木美紀 矢口博之 山崎隆広 山中智省 山中秀夫
監事=植村八潮 星野渉
13.委員会メンバー
(◎=委員長・部会長、○=副委員長)
(1)総務委員会=◎富川淳子 阿部圭介 石川徳幸 茨木正治 梶原治樹 塚本晴二朗 中西秀彦 中村健 山崎隆広
(2)調査研究委員会=◎石川徳幸
学術出版研究部会=◎橋元博樹 山崎隆広 吉田拓歩
雑誌研究部会=◎山中智省 玉川博章 石川徳幸 田島悠来
出版アクセシビリティ研究部会=◎野口武悟 植村要(担当理事)
出版技術研究部会=◎矢口博之
出版教育研究部会=◎伊藤民雄 清水一彦
出版産業研究部会=◎鈴木親彦 岡部友春 橋元博樹
出版史研究部会=◎長尾宗典 柴野京子 石川徳幸
出版デジタル研究部会=◎矢口博之 梶原治樹
出版編集研究部会=◎飛鳥勝幸 清水一彦 吉田拓歩
出版法制研究部会=◎和泉澤衞 阿部圭介
翻訳出版研究部会=◎柴田耕太郎 安部由紀子(担当理事)
MIE研究部会=◎清水一彦 富川淳子
関西部会=◎中村健 磯部敦 常木佳奈 中西秀彦 秦洋二 村木美紀 山中秀夫 湯浅俊彦
(3)『出版研究』編集委員会=◎茨木正治 ○山中智省 飛鳥勝幸 磯部敦 稲田隆 上田宙 玉川博章 中川裕美 山崎隆広 山森宙史 吉田拓歩
(4)広報委員会=◎阿部圭介 石川徳幸 石沢岳彦 鈴木親彦 秦洋二
(5)関西委員会=◎中西秀彦 磯部敦 常木佳奈 中村健 秦洋二 村木美紀 山中秀夫 湯浅俊彦
(6)国際交流委員会=◎山崎隆広 植村八潮
(7)日本出版学会賞審査委員会=◎塚本晴二朗 飛鳥勝幸 植村八潮 駒橋恵子 柴野京子 新藤透 長尾宗典 中川裕美
(8)プログラム委員会=◎新藤透 ○駒橋恵子 ○湯浅俊彦
(9)ウェブサイト改定委員会=◎鈴木親彦 阿部圭介 鷹野凌 山中智省 吉田拓歩
(10)出版企画委員会=◎塚本晴二朗 磯部敦 牛口順二 大重史朗 玉川博章 中川裕美 野口武悟 平松恵一郎 堀井健司 森貴志
14.『パブリッシング・スタディーズ入門(仮)』プロジェクト
出版学会とは、いかなる学会なのかを明確にするための出版物を刊行しよう、というこのプロジェクトは、プロジェクトチームによるアンケート調査を経て、出版企画委員会を組織し内容を決定した。それを受けて執筆者の公募を行い、執筆者が決定した。目下全執筆者が、2021年8月末日の締め切りに向けて執筆中である。
15.「産学連携」プロジェクト
出版学会と出版業界の新しい連携を模索するこのプロジェクトはプロジェクトチームにより、シンポジウムが企画され、出版三団体の理事長にご登壇いただくシンポジウムを春季研究発表会で開催することとなった。