2019年度事業報告(2019年4月1日~2020年3月31日)

1.概 況

 1969年3月に設立された日本出版学会は、創立から50年をむかえ、新たな時代への歩みを進めている。これまで設立の理念と志を尊重し、円滑な研究者の交流や情報交換をおこない、研究成果の発表のために、学会誌や会報の発行、研究発表会や各種の部会活動、そして国際出版研究フォーラム(IFPS:The International Forum on Publishing Studies)への参加を継続的におこなってきた。
 これらが可能となったのは、何よりも学会を構成する会員の方々の努力と、経済的な支援をはじめ様々な便宜をはかっていただいている賛助会員の方々のご協力の賜物であり、ここに改めて深甚なる感謝の意を表したい。
 2019年度における日本出版学会の活動は、それまでの研究や人的交流の蓄積に基づいて着実に進められ、出版研究に対する関心は一層高められた。
 春季研究発表会は、2019年5月11日に跡見学園女子大学文京キャンパスで開催した。参加者は110名であり、5名の研究発表、2つのワークショップ、創立50周年記念講演、創立50周年記念シンポジウムをおこなった。
 また、秋季研究発表会は、2019年11月30日に奈良女子大学で開催し、34名の参加者で、4名の研究発表およびシンポジウムをおこなった。

2.会員数

正会員        303名
賛助会員    法人  38社
名誉会員         2名
        (2020年3月末日現在)

3.総 会

 2019年総会は、2019年5月11日、跡見学園女子大学文京キャンパスにおいて91名(委任状を含む)の会員が出席、2018年度事業報告、同決算、同特別会計決算、2019年度事業計画案、同予算案、同特別会計予算案をそれぞれ審議・可決した。

4.理事会

 2019年度の会務をおこなうため、2019年総会から本総会に至るまでの間、理事会を下記のとおり開催した。
 第1回: 2019年6月24日
 第2回: 2019年9月30日
 第3回: 2019年12月9日
 第4回: 2020年3月23日
 第5回: 2020年5月24日

5.調査研究委員会

 調査研究委員会は、主として各部会間の連絡調整にあたった。各部会の活動状況は次のとおりである。
(1)学術出版研究部会
 8月20日(専修大学神田キャンパス)「電子書籍購入の新しい仕組みとメタデータ流通――DDA(Demand-Driven Acquisition)による購入の現状と課題」入江伸・藤本優子
(2)雑誌研究部会
 9月19日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「アニメファンの「テレビの保存」と受容空間――1970年代から80年代のアニメファンの雑誌利用実践に着目して」永田大輔
 11月14日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「海外提携誌の過去・現在・未来――女性ファッション誌における考察」富川淳子
 2月27日(上智大学四谷キャンパス、出版史研究部会共催)「「誌友交際」と明治後期の出版流通」長尾宗典(会場校の新型コロナウィルス対応により延期)
(3)出版アクセシビリティ研究部会
 7月30日(専修大学神田キャンパス)「「読書バリアフリー法」制定を出版界としてどう生かすか」野口武悟・植村八潮・江草貞治・植村要・中和正彦
(4)出版技術研究部会
 今後の研究課題、部会運営について検討をおこなった。
(5)出版教育研究部会
 7月21日(専修大学神田キャンパス)「江藤淳没後20年 昭和と平成の批評――江藤淳は甦える」平山周吉・與那覇潤・金志映・酒井信
(6)出版産業研究部会
 9月9日(八木書店本店)「「取次」のいない市場――イランの出版販売から日本の出版産業を考える」岩﨑葉子
 1月20日(専修大学神田キャンパス)「アマゾンの新戦略が出版産業にもたらすもの――これからの出版産業・出版流通問題を考えるために」高須次郎
(7)出版史研究部会
 2月27日(上智大学四谷キャンパス、雑誌研究部会共催)「「誌友交際」と明治後期の出版流通」長尾宗典(会場校の新型コロナウィルス対応により延期)
(8)出版デジタル研究部会
 10月4日(デジタルハリウッド大学)「紙書籍、電子書籍に対する消費者の意識・行動の変化と電子図書館の今後」渡部和雄・梅原英一
 2月25日(JCIIビル)「2019年電子出版ビジネスの現状と今後の展望――出版社における電子書籍・デジタル雑誌ビジネス実態調査報告」植村八潮・星野渉・矢口博之・鷹野凌
(9)出版編集研究部会
 5月28日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「独立系出版社の編集デザイン」上田宙・小林えみ・宮後優子
 10月17日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「「マガジン航」の10年にわたる実践を通して見えてきたこと」仲俣暁生
(10)出版法制研究部会
 今後の研究課題、部会運営について検討をおこなった。
(11)翻訳出版研究部会
 7月29日(専修大学神田キャンパス)「編集者から見た出版翻訳の現在」田口恒雄・小都一郎
 10月11日(専修大学神田キャンパス)「出版翻訳の現在(2)――翻訳者の視点から」越前敏弥・堀千恵子
 11月15日(専修大学神田キャンパス)「出版翻訳の現在(3)――研究者の視点から」水野的・安部由紀子
 1月24日(ふれあい貸し会議室 飯田橋 No8)「出版翻訳の現在(4)――販売者の視点から」野上由人・梶原治樹
(12)MIE研究部会
 6月17日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「小中高校でのMIE実践に応用できる、大学での雑誌作り教育の実例報告」富川淳子・清水一彦
 9月26日(専修大学神田キャンパス)「第2回 小中高校でのMIE実践に応用できる、大学での雑誌作り教育の実例報告」牛山佳菜代・大曽根薫
(13)関西部会
 7月4日(追手門学院大阪城スクエア)「電子書籍の読者特性」秦洋二
 7月13日(大阪市立大学学術情報総合センター)「近代文芸と出版編集――挿絵と口絵の問題系を考える」出口智之・常木佳奈・中村健
 1月25日(大阪市立大学学術情報総合センター)「コミックスから考えるマンガの「メディア」像――出版学・メディア論とマンガ研究の狭間から」山森宙史

6.プログラム委員会

 総務委員会と調査研究委員会によって構成される合同委員会を開催し、研究発表会の企画・運営に当たった。

(1)春季研究発表会(2019年5月11日、跡見学園女子大学文京キャンパス)
〈研究発表〉
 1.「4コママンガの読みの変化:縦書きと横書き、コマ割りの観点から」村木美紀
 2.「1970年代の投稿誌『わいふ』と『女・エロス』両者を比較して見えてくる「雑誌が死ぬとき」について」豊田雅人
 3.「中西松香堂の江戸期書肆から明治期印刷会社への変容」中西秀彦
 4.「戦後におけるナウカ社と大竹博吉――占領期・50年代における出版史の一側面」 吉田則昭
 5.「雑誌『東亜時論』―― 十九世紀末における東亜同文会の中国時局観」張賽帥
〈ワークショップ〉
 1.「学術書のアクセシビリティ――手話翻訳動画、テキストデータ提供の実践から」植村要・羽田野真帆・高橋淳・木下衆・東知史
 2.「デジタル時代にどう向き合うか?――出版史研究の新たな方法と課題」磯部敦・中村健・中川裕美・山中智省
〈創立50周年記念講演〉
 「日本出版学会と出版ニュース社――共に歩んだ50年を顧みて」清田義昭
〈創立50周年記念シンポジウム〉
 「日本出版学会のこれから――何をどうする学会であるべきか」塚本晴二朗・石川徳幸・植村八潮・梶原治樹・富川淳子・中川裕美

(2)秋季研究発表会(2019年11月30日、奈良女子大学)
〈研究発表〉
 1.「大手書店チェーンの販売実績について――少し前の本、新刊ともに売れるのか」伊藤民雄
 2.「電子出版を活用した学校教育・大学教育の新展開――追手門学院の事例研究」湯浅俊彦
 3.「清末の雑誌出版における『農学報』が果たした役割――羅振玉の論説を中心に」南岳
 4.「活字化された個人情報を編む」滝口富夫
〈シンポジウム〉
 「デジタル絵本における読書と制作――出版メディアの還流構造をデザインする」湯浅俊彦・池下花恵・村木美紀・阪本健太郎

7.日本出版学会賞

(1)受賞図書・論文
 第40回日本出版学会賞は、下記のとおりである。
【日本出版学会賞】
  横田冬彦『日本近世書物文化史の研究』(岩波書店)
【清水英夫賞(日本出版学会優秀論文賞)】
  栗山雅俊「出版の自由」と「出版の倫理]に関する一考察――新しい「出版の倫理」再構築のために」(『出版研究』47号掲載)
(2)日本出版学会賞審査委員会
 日本出版学会賞審査委員会は、第41回日本出版学会賞の審査にあたった。
(3)受賞記念講演会
 7月20日(専修大学神田キャンパス)「近世民衆の蔵書と読書――仏書の読者をめぐって」横田冬彦

8.『出版研究』編集委員会

 『出版研究』編集委員会は、学会誌『出版研究』の企画・編集にあたり、第49号(A5判、192頁、600部、定価:本体2,600円+税)を2019年4月に発行し、引き続き第50号(A5判、140頁、600部、定価:本体2,600円+税)の編集をおこなった。

9.広報委員会

 広報委員会は、学会活動に関する対外的広報活動を随時おこなうとともに、学会案内の作成、および『日本出版学会会報』の企画・編集にあたり、次の各号を発行した。
  第147号=16頁、2019年4月20日(700部)
  第148号=32頁、2019年10月31日(700部)
 また、公式ウェブサイトの充実をはかり、情報発信をおこなった。

10.関西委員会

 関西委員会は、調査研究委員会と協力して、学会の秋季研究発表会の運営にあたった。

11.国際交流委員会

 国際交流委員会は、第19回国際出版研究フォーラム(IFPS)の開催にあたり、韓国出版学会との連絡にあたった。

12.役員(2020年度総会まで)

会長=植村八潮
副会長=塚本晴二朗 星野渉 湯浅俊彦
理事=飛鳥勝幸 阿部圭介 石川徳幸 和泉澤衞 磯部敦 茨木正治 梶原治樹(事務局次長) 柴野京子(事務局長) 清水一彦 鈴木親彦 玉川博章 常木佳奈 富川淳子 中川裕美 中西秀彦 中村幹 中村健 橋元博樹 樋口清一 村木美紀 矢口博之 山崎隆広 山田健太 山中智省 王萍
監事=菊池明郎 志村耕一

13.委員会メンバー

(◎=委員長・部会長、○=副部会長)
(1)総務委員会=◎星野渉 茨木正治 植村八潮 梶原治樹 柴野京子 塚本晴二朗 中村幹 湯浅俊彦
(2)調査研究委員会=◎塚本晴二朗 植村八潮 梶原治樹 柴野京子 中村幹 星野渉 湯浅俊彦
  学術出版研究部会=◎橋元博樹 ○山崎隆広 ○吉田拓歩
  雑誌研究部会=◎玉川博章 ○石川徳幸 ○田島悠来
  出版アクセシビリティ研究部会=◎野口武悟 ○植村八潮 ○植村要
  出版技術研究部会=◎田中公子 ○中村幹
  出版教育研究部会=◎酒井信 ○清水一彦 ○鈴木親彦
  出版産業研究部会=◎鈴木親彦 ○岡部友春 ○橋元博樹
  出版史研究部会=◎柴野京子 ○石川徳幸 ○長尾宗典 中川裕美 山中智省
  出版デジタル研究部会=◎矢口博之 ○梶原治樹
  出版編集研究部会=◎飛鳥勝幸 ○清水一彦 ○吉田拓歩
  出版法制研究部会=◎和泉澤衞 ○阿部圭介
  翻訳出版研究部会=◎柴田耕太郎 ○山崎隆広 ○神長倉伸義
  MIE研究部会=◎富川淳子 ○清水一彦
  関西部会=◎湯浅俊彦 磯部敦 常木佳奈 中西秀彦 中村健 村木美紀
(3)『出版研究』編集委員会=◎茨木正治 ○山中智省 飛鳥勝幸 石川徳幸 磯部敦 稲田隆 上田宙 玉川博章 中川裕美 山崎隆広 山田健太 吉田拓歩
(4)広報委員会=◎富川淳子 飛鳥勝幸 石沢岳彦 古山悟由 田中公子
(5)関西委員会=◎中西秀彦 磯部敦 常木佳奈 中村健 村木美紀 湯浅俊彦
(6)国際交流委員会=◎樋口清一 和泉澤衞 塚本晴二朗 山田健太 王萍
(7)日本出版学会賞審査委員会=◎植村八潮 飛鳥勝幸 酒井信 芝田正夫 柴野京子 新藤透 塚本晴二朗 長尾宗典 中川裕美 山崎隆広

14.創立50周年記念事業

(1)創立50周年記念講演
 2019年5月11日、跡見学園女子大学文京キャンパスで開催した春季研究発表会で、清田義昭会員が「日本出版学会と出版ニュース社――共に歩んだ50年を顧みて」と題した講演をおこなった。
(2)創立50周年記念シンポジウム
 2019年5月11日、跡見学園女子大学文京キャンパスで開催した春季研究発表会で「日本出版学会のこれから――何をどうする学会であるべきか」と題したシンポジウムをおこなった。
(3)『出版研究』第49号に記念座談会を掲載
 『出版研究』第49号に「出版(学)のこの50年――現在・過去・未来」というタイトルで開催した座談会の模様を掲載した。
(3)『出版研究』の電子化
 『出版研究』の電子化をおこない、J-STAGEに第1号から第37号までを登載した。これにより、『出版研究』の既刊号すべての登載が完了した。以後は刊行後1年を経過した号を順次搭載する。