2017年度事業報告(2017年4月1日~2018年3月31日)

1.概 況

 1969年3月に設立された日本出版学会は,創立から48年をむかえ,新たな時代への歩みを進めている。これまで設立の理念と志を尊重し,円滑な研究者の交流や情報交換をおこない,研究成果の発表のために,学会誌や会報の発行,研究発表会や各種の部会活動,そして国際出版研究フォーラム(IFPS:The International Forum on Publishing Studies)への参加を継続的におこなってきた。
 これらが可能となったのは,何よりも学会を構成する会員の方々の努力と,経済的な支援をはじめ様々な便宜をはかっていただいている賛助会員の方々のご協力の賜物であり,ここに改めて深甚なる感謝の意を表したい。
 2017年度における日本出版学会の活動は,それまでの研究や人的交流の蓄積に基づいて着実に進められ,出版研究に対する関心は一層高められた。
 春季研究発表会は,2017年5月13日に日本大学法学部三崎町キャンパスで開催した。参加者は125名であり,10名の研究発表および4つのワークショップをおこなった。
 また,秋季研究発表会は,2017年12月2日に中京大学名古屋キャンパスで開催し,52名の参加者で,12名の研究発表およびシンポジウムをおこなった。

2.会員数

正会員        302名
賛助会員    法人  39社
名誉会員         3名
        (2018年3月末日現在)

3.総 会

 2017年度総会は,2017年5月13日,日本大学法学部三崎町キャンパスにおいて128名(委任状を含む)の会員が出席,2016年度事業報告,同決算,同特別会計決算,2017年度事業計画案,同予算案,同特別会計予算案をそれぞれ審議・可決した。

4.理事会

 2017年度の会務をおこなうため,2017年度総会から本総会に至るまでの間,理事会を下記のとおり開催した。
 第1回: 2017年6月26日
 第2回: 2017年9月11日
 第3回: 2017年12月11日
 第4回: 2018年2月5日
 第5回: 2018年3月19日
 第6回: 2018年4月17日
 第7回: 2018年5月12日

5.調査研究委員会

 調査研究委員会は,主として各部会間の連絡調整にあたった。各部会の活動状況は次のとおりである。
(1)学術出版研究部会
  6月9日(専修大学神田キャンパス)「学術出版の課題と役割――出版流通の見地から考える」牛口順二
  12月8日(専修大学神田キャンパス)「学術出版の課題と役割(3)――電子書籍と出版流通」金原俊
(2)雑誌研究部会
  3月8日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「ポピュラー音楽と雑誌――『中村とうよう 音楽評論家の時代』をめぐって」田中勝則
(3)出版アクセシビリティ研究部会
  6月19日(専修大学神田キャンパス)「電子書籍アクセシビリティ――その普及の課題と展望」松原聡
  10月2日(専修大学神田キャンパス)「当事者が求める出版のアクセシビリティ」松井進
(4)出版技術研究部会
  8月7日(丸善日本橋店)「京都外国語大学図書館所蔵稀覯本・「活字の歴史・印刷の歴史」印刷史料見学会」奥正敬・小倉有紀子
(5)出版教育研究部会
  6月22日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「一人出版社「出版メディアパル」の舞台裏――出版関連書70冊はいかにして生み出されたのか」下村昭夫(出版編集研究部会との共催)
  11月16日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「編集者として58年間考えてきたこと―― なぜ,いま『日本ナショナリズムの歴史』なのか」梅田正己(出版編集研究部会との共催)
(6)出版経営研究部会
  今後の研究課題,部会運営について検討をおこなった。
(7)出版史研究部会
  4月28日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「少女小説ジャンルの変遷――コバルト文庫とその読者層を中心に」嵯峨景子
  9月22日(上智大学四谷キャンパス)「ロンドン ジャパンセンター 日系書店のマーケティング感覚とは?――1989-91年という時代の場合」加藤重男
(8)出版デジタル研究部会
  9月29日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「「絵本ナビ」のこれまでとこれからに見る「絵本のデジタル化」の最前線」金柿秀幸
(9)出版編集研究部会
  6月22日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「一人出版社「出版メディアパル」の舞台裏――出版関連書70冊はいかにして生み出されたのか」下村昭夫(出版教育研究部会との共催)
  11月16日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「編集者として58年間考えてきたこと―― なぜ,いま『日本ナショナリズムの歴史』なのか」梅田正己(出版教育研究部会との共催)
(10)出版法制研究部会
  5月11日(日本大学危機管理学部)「図書館の機能と役割に関する一考察」宮下義樹
  5月11日(日本大学危機管理学部)「表現の自由と歴史解釈」田上雄大
  9月28日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「ヘイトスピーチ解消法と表現の自由との問題」田上雄大
(11)出版流通研究部会
  6月21日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「2017年,いま出版産業では…「改めて考える出版流通の機能と現状」=アマゾン「バックオーダー発注中止」問題の波紋を考える」星野渉
  10月12日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「今後の出版流通への展望と課題――本の販売の最前線から見た,出版産業の虚像と実像」松井祐輔
  1月12日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「「出版流通研究」の過去・現在・未来――出版産業・出版流通問題の何を考えてきたのか」第一部「出版流通研究部会の25年を振り返って」下村昭夫,第二部「2018出版産業では…10大ニュースを読み解く」清田義昭
(12)関西部会
  6月25日(中西印刷大会議室)「渡辺霞亭と菊池幽芳――大正期大阪の大衆文化」相良真理子
  7月31日(関西学院大学大阪梅田キャンパス)「デジタル・ネットワーク社会における出版学の射程とその可能性」福嶋聡
  9月21日(大阪府立江之子島文化芸術創造センター)「出版メディアと「アイドル」:1980年代以降の動向を中心に」田島悠来
  10月21日(奈良女子大学)「内地/外地をまたぐ書籍流通史をめざして――転移・国策・ネットワーク」日比嘉高
  11月20日(立命館大阪梅田キャンパス)「高麗版大蔵経の受容と現状」馬場久幸
(13)翻訳出版研究部会 設立準備会
  3月24日((株)アイディ会議室)

6.プログラム委員会

 総務委員会と調査研究委員会によって構成される合同委員会を開催し,研究発表会の企画・運営に当たった。
(1)春季研究発表会(2017年5月13日,日本大学法学部三崎町キャンパス)
〈研究発表〉
 1.「『ドラゴンマガジン』の特集記事にみる内容的特徴と方法論――読者を惹きつけた“ビジュアル・エンターテインメント”」山中智省
 2.「「造本装幀コンクール」の50回――その変遷と役割」田中光則
 3.「近代メディアミックスの形成過程――春陽堂書店とラジオドラマの連携を中心に」本間理絵
 4.「出版物の変容に関する史的考察――読者の大衆化を中心として」鯉淵拓也
 5.「鏡花本の〈装い〉と作品受容に与えた影響」常木佳奈
 6.「ウクライナにおける表現の自由」田上雄大
 7.「大規模図書選定事業の比較」伊藤民雄
 8.「学校図書館における電子書籍利用に関する一考察――実証実験を通したアンケート調査から」植村八潮・野口武悟
 9.「図書館というアーカイブ機関とアーカイブ化の対象の行方」宮下義樹
 10.「原稿の書き換えによる電子書籍TTSの誤読解消についての考察――異なる音声エンジンによるTTSの比較から」植村要
〈ワークショップ〉
 1.「電子出版における「定額制読み放題サービス」が出版に与える影響」矢口博之・鷹野凌・堀鉄彦・梶原治樹
 2.「「ライトノベル」にどう向き合うか?」中川裕美・山中智省・村木美紀
 3.「まとめサイト問題と編集者の責任――法的問題を中心として」瀧川修吾・宮下義樹・小向太郎
 4.「出版創業・独立史データベース(仮)の共同製作に向けて」柴野京子・飛鳥勝幸・磯部敦・中村健

(2)秋季研究発表会(2017年12月2日,中京大学名古屋キャンパス)
〈研究発表〉
 1.「大学図書館における電子ジャーナル購入の歴史:公立大学図書館コンソーシアムが果たした役割とその特徴」中村健
 2.「日本の大学図書館における電子ジャーナルと多文化サービスの拡充――国際競争力の強化に向けて」郭昊
 3.「東京の公立図書館は純文学と専門書を購入しているのか?」伊藤民雄
 4.「電子書籍がもたらす学校図書館の利用者サービスと学びの変容」向井惇子
 5.「JATSへのタグ提案とその結果にみる規定国際化」中西秀彦
 6.「オープンサイエンス時代における「研究・データ・出版」:「日本古典籍データセット」と「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」」鈴木親彦
 7.「江戸中期から後期の出版規制を再考する――天保13年『偐紫田舎源氏』絶版処分一件をめぐって」鎌田大資
 8.「明治の読者共同体――文芸投書雑誌『文庫』『新声』の読者を例に」宮本温子
 9.「1920年代の反理論とその帰結――社会運動における渋谷定輔・『農民自治』と『文芸戦線』の分岐点」新藤雄介
 10.「中公新書刊行の言葉の思想 加藤秀俊の経験論」松井勇起
 11.「戦後マンガ出版物における「書籍」概念の位置付け――「マンガ文庫」の誕生とその変容を事例に」山森宙史
 12.「中国人の文化的姿勢と翻訳書のテーマ選定――2000~2016年に中国語訳された日本語書籍を中心に」陸詩琪
〈シンポジウム〉
 「出版史研究の史料とその方法」中川裕美・日比嘉高・牧義之・浅岡邦雄・柴野京子

7.日本出版学会賞

(1)受賞図書・論文
 第38回日本出版学会賞は,下記のとおりである。また,新設された第1回清水英夫賞(日本出版学会優秀論文賞)は,下記のとおりである。
【日本出版学会賞】
 谷暎子著『占領下の児童出版物とGHQの検閲――ゴードン W. プランゲ文庫に探る』(共同文化社)
【日本出版学会賞奨励賞】
 馬場久幸著『日韓交流と高麗版大蔵経』(法蔵館)
 文ヨン珠著『編集者の誕生と変遷――プロフェッションとしての編集者論』(出版メディアパル)
【清水英夫賞(日本出版学会優秀論文賞)】
 清水一彦著『「若者の読書離れ」という“常識”の構成と受容』(『出版研究』45号)
(2)日本出版学会賞審査委員会
 日本出版学会賞審査委員会は,第39回日本出版学会賞の審査にあたった。
(3)受賞記念講演会
 2017年10月11日(日本大学法学部三崎町キャンパス)「『占領下の児童出版物とGHQの検閲』を上梓して」谷暎子

8.『出版研究』編集委員会

 『出版研究』編集委員会は,学会誌『出版研究』の企画・編集にあたり,第47号(A5判,148頁,700部,定価:本体2,600円+税)を2017年4月に発行し,引き続き第48号(A5判,146頁,700部,定価:本体2,600円+税)の編集をおこない2018年4月に発行予定である。

9.広報委員会

 広報委員会は,学会活動に関する対外的広報活動を随時おこなうとともに,学会案内の作成,および『日本出版学会会報』の企画・編集にあたり,次の各号を発行した。
 第143号=40頁,2017年4月20日(700部)
 第144号=44頁,2017年11月10日(700部)
 また,当学会の公式ウェブサイトの充実をはかり,情報発信をおこなった。

10.関西委員会

 関西委員会は,調査研究委員会と協力して,関西部会の運営にあたった。

11.国際交流委員会

 国際交流委員会は,2018年11月開催予定の第18回国際出版研究フォーラム(IFPS)の企画・運営をおこなった。

12.役員(2018年度総会まで)

会長=植村八潮
副会長=塚本晴二朗 星野渉 湯浅俊彦
理事=浅岡邦雄 石川徳幸 和泉澤衞 磯部敦 茨木正治 今村成夫 掛野剛史 梶原治樹(事務局次長) 古山悟由 柴野京子 清水一彦 志村耕一 玉川博章 中川裕美 中西秀彦 中町英樹 中村幹(事務局長) 中村健 橋元博樹 樋口清一 村木美紀 諸橋泰樹 山崎隆広 山田健太 王萍
監事=菊池明郎 清田義昭

13.委員会メンバー

(◎=委員長・部会長,○=副部会長)
(1)総務委員会=◎星野渉 植村八潮 梶原治樹 柴野京子 塚本晴二朗 中村幹 湯浅俊彦
(2)調査研究委員会=◎塚本晴二朗 植村八潮 梶原治樹 柴野京子 中村幹 星野渉 湯浅俊彦
  学術出版研究部会=◎山崎隆広 ○橋元博樹
  雑誌研究部会=◎玉川博章 ○石川徳幸 ○吉田則昭
  出版アクセシビリティ研究部会=◎野口武悟 ○植村八潮
  出版技術研究部会=◎田中公子 ○中村幹
  出版教育研究部会=◎清水一彦 ○鈴木親彦
  出版経営研究部会=◎橋元博樹 ○星野渉
  出版史研究部会=◎柴野京子 ○石川徳幸
  出版デジタル研究部会=◎梶原治樹 ○矢口博之
  出版編集研究部会=◎飛鳥勝幸 ○清水一彦
  出版法制研究部会=◎樋口清一 ○瀧川修吾
  出版流通研究部会=◎鈴木親彦 ○岡部友春 ○星野渉
  関西部会=◎湯浅俊彦 磯部敦 中西秀彦 中村健 村木美紀
(3)『出版研究』編集委員会=◎諸橋泰樹 ○茨木正治 石川徳幸 稲田隆 上田宙 掛野剛史 末包愛 玉川博章 山崎隆広 吉田拓歩 吉田則昭
(4)広報委員会=◎志村耕一 石沢岳彦 古山悟由 田中公子 橋元博樹
(5)関西委員会=◎中西秀彦 磯部敦 中村健 村木美紀 湯浅俊彦
(6)国際交流委員会=◎樋口清一 塚本晴二朗 山田健太 王萍
(7)日本出版学会賞審査委員会=◎植村八潮 石川徳幸 今村成夫 芝田正夫 清水一彦 山崎隆広 吉田則昭
(8)創立50周年記念準備委員会=◎星野渉 和泉澤衞 塚本晴二朗 樋口清一 山田健太 王萍