■ 1.概 況 創立35周年を起点として,新たな展望のもとに活動を開始した日本出版学会は,2005年度においてその歩みをさらに一歩進めることとなった。 2005年5月14日に開催された春季研究発表会における研究発表は,これまで以上に多様で幅広い視点から出版研究が可能であることを立証し,11月26日に岡山で開催された秋季研究発表会においては,従来の東京,大阪以外の都市での研究会開催を実現したものとして重要な一歩であった。 この一年も,わが国の内外においては不安定な政治・経済情勢が継続され,出版関連産業においても様々な課題が山積する一年であったが,新しい時代の出版研究の役割の重要さの認識を一層深める一年でもあった。 学会運営に関する最も重要な変更は,事務局運営の業務の外部委託を実現したことである。その直接的目的は,学会財政の慢性的,構造的な赤字体質の解消であり,同時に,学会業務の完全な電子化,ネットワーク化を実現することであった。 この計画は,初年度において既にその成果を収め,財政的には完全な黒字体質に転換し,電子化,ネットワーク化による業務の迅速な運営と,会員による情報の即時的共有を行う体勢を実現することができた。 一方,学会の研究活動においては,2004年度から発足した出版経営研究部会等の新しい部会の運営が順調であり,既に大きな成果を収めつつある関西部会の活動と共に学会を活性化させることにおおいに貢献している。 学会創立35周年記念事業においては,2004年度総会において基本方針を決定し,記念事業実行委員会を設置して具体的な事業計画を策定し,国際シンポジウムの開催や日本出版学会35年史の編纂と刊行の準備が進められた。また,募金活動も継続され,多数の会員,賛助会員の協力を得つつある。 国際シンポジウムについては,さいわい,東京経済大学との共催により,2006年10月28日~29日の開催が決定し,学会に設置された実行委員会は,大学内の実行委員会と協力して準備を進めている。 また,日本出版学会35年史については,刊行委員会を設置して現在作業を進めており,2007年の刊行をめざしている。 日本出版学会賞は,1970年の創立10周年記念事業において制定され,2005年度までに27回にわたって実施されている。 創立記念事業の一環である募金活動については,事業の進捗状況に対応して当初の計画を一部変更しながらも,2007年3月まで継続する計画である。 当学会が開設しているウェブサイトは,学会の活動状況に関する広報の手段としての役割を果たすと同時に,今や,新規会員獲得の最も有力な手段となりつつあり,漸く当学会も情報化,ネットワーク化の中での学術研究団体として活動することが可能となりつつあり,出版研究の国際化の推進と共に,今後の学会の方向を決定づけるものと考えられる。そのような意味でこの一年は,学会の新たな一歩を記す記念すべき年であったということができよう。 ■ 2.会員数 正会員 369名 賛助会員 法人 67社 個人 7名 ■ 3.総 会 2005年度総会は,2005年5月14日(土),東京都日野市の実践女子短期大学において157名(委任状を含む)の会員が出席,2004年度事業報告,同決算,同学会創立30周年記念事業決算,2005年度事業計画案,同予算案,同学会創立35周年記念事業予算案をそれぞれ審議・可決した。 なお,第26回日本出版学会賞は,鈴木俊幸氏の近世近代出版史に関する研究書および論文と書籍研究文献目録を対象として授与され,合わせて日本出版学会賞・奨励賞が,中野晴行氏の『マンガ産業論』(筑摩書房)に授与された。 ■ 4.理事会 2005年度の会務を行うため,2005年度総会から本総会に至るまでの間,理事会を下記のとおり開催した。 第1回: 2005年 6 月13日 第2回: 2005年 7 月20日 第3回: 2005年10月 4 日 第4回: 2005年12月13日 第5回: 2006年 2 月 7 日 第6回: 2006年 3 月22日 第7回: 2006年 4 月19日 第8回: 2006年 5 月14日 ■ 5.調査研究委員会 調査研究委員会は,主として各部会間の連絡調整にあたった。各部会の活動状況は次のとおりである。(1)歴史部会 2005年7月8日(日本エディタースクール)「近代日本における発禁本の実態について」大滝則忠 2005年10月14日(日本エディタースクール)「渋江保の著作活動―博文館・大学館・三才社をめぐって」藤元直樹 2006年2月25日(日本エディタースクール)「平田篤胤の著述と出版」吉田麻子(2)出版法制研究部会 今後の研究課題について検討を行った。(3)出版流通研究部会 2005年10月24日(八木書店会議室)「アメリカの書店事情」下村昭夫・大久保徹(4)出版技術研究部会 今後の部会運営のあり方に関する検討を行った。(5)雑誌研究部会 今後の研究課題と,部会運営の方法等について検討を行った。(6)出版教育研究部会 出版教育の分野における研究課題と今後の部会活動について検討をおこなった。(7)学術出版研究部会 2005年10月20日(東京電機大学)「日本の学術誌―その現状と課題」永井裕子(8)デジタル出版研究部会 2005年11月10日(東京電機大学)「JIS Z8208(印刷校正記号)改正素案の報告と検討」小林敏(9)出版経営研究部会 2005年7月4日(日本エディタースクール)「大学生と図書購入費・読書時間の推移 ―学生生活実態調査から」西垣内義則(10)出版著作権研究部会 部会運営,および研究課題について検討を行った。(11)出版編集研究部会 部会運営,および研究課題について検討を行った。(12)関西部会 2005年4月22日(関西学院大学大阪梅田キャンパス)「〈絶え間なき交信〉と物語りの空間」岡田朋之 2005年7月25日(関西学院大学大阪梅田キャンパス)「書店人生50年―出版流通を考える」海地信 2005年9月12日(関西学院大学大阪梅田キャンパス)「棚の生理学と下村彦四郎氏の書店活性化論」下村昭夫 2005年10月26日(関西学院大学大阪梅田キャンパス)「『女ことば/男ことば』規範の形成―明治期若年者向け雑誌から―」佐竹久仁子 2006年1月27日(関西学院大阪梅田キャンパス)「ネット時代の図書館」井上真琴 2006年2月27日(関西学院大学大阪梅田キャンパス)「『戦線文庫』復刻とその後」橋本健午 2006年3月27日(関西学院大学大阪梅田キャンパス)「出版学・編集学を大学でどう教えるか」猪口教行 ■ 6.プログラム委員会 総務委員会と調査研究委員会によって構成される合同委員会を開催し,研究発表会の企画・運営に当たった。(1)春季研究発表会(2005年5月14日,東京都日野市実践女子短期大学)〈研究発表 第1分会〉 1.「『出版年表―発禁・わいせつ・知る権利と規制の変遷」橋本健午 2.「政治漫画研究の展開――視覚メディアと活字メディアの相互作用』茨木正治 3.「ドイツ書籍商出版者同業組合の読書調査について」佐藤隆司 4.「出版産業をめぐる競争の法と政策――出版産業に対する独禁法適用の展開とその原則」石岡克俊 5.「日本型出版流通と返品制―書籍高返品率の発生メカニズム」木下修〈研究発表 第2分会〉 6.「図解の誕生と出版」志村耕一 7.「短大における出版教育の試み」三浦勲 8.「表示デバイスの違いに起因するテキストコンテンツの読みやすさの違いについて」矢口博之 9.「大熊信行と大日本言論報告会―第一公論社『公論』を中心として」仙石和道 10.「韓国における出版政策の現状と出版産業に与えた影響」白源根〈特別講演〉 「情報社会日本――70年代と現代の読書」小中陽太郎(2)日本出版学会秋季研究発表会(2005年11月26日,岡山国際交流センター)〈研究発表〉 1.「日本における書籍コード標準化の歴史的意義」湯浅俊彦 2.「少女マンガ黎明期における2つの『リボンの騎士』が果たしたもの」中川裕美 3.「学術情報流通と書店の役割――紀伊国屋書店のケース」三浦勲 4.「書籍マーケティングの達成――販売データ共有化が可能にした新しい書籍販売手法の検証」星野渉〈講演〉 「デジタル時代の地方出版」山川隆之 ■ 7.『出版研究』編集委員会 『出版研究』編集委員会は,随時会合を開いて,学会誌『出版研究』の企画・編集にあたり,2005年3月20日に第35号(A5判,180頁,1000部,定価2,730円〔本体2,600円+税〕)を発行し,合わせて第36号の編集を行った。 ■ 8.会報委員会 会報委員会は,随時会合を開いて『日本出版学会会報』の企画・編集に当たり,次の各号を発行した。 第116号=40頁,2005年8月10日 (印刷部数700部) 第117号=24頁,2005年12月31日 (印刷部数700部) ■ 9.関西委員会 関西委員会は,学会の秋季研究発表会開催の立案と運営にあたり,日本出版学会秋季研究発表会を2005年11月26日に,岡山国際交流センターで開催し,合わせて研修ツアーを実施した。 ■ 10.国際交流委員会 国際交流委員会は,随時会合を開いて,国際シンポジウム実行委員会に参加し,シンポジウムの企画と,海外との連絡調整に当たった。また,2005年10月14日来日した中国出版代表団との対談も行った。 ■ 11.出版企画委員会 出版企画委員会は,随時会合を開いて,次の出版企画について検討を行った。また,『日本出版学会35年史』刊行委員会に参加し,その編纂と刊行の準備を行った。 ■ 12.日本出版学会賞の審査・授与 日本出版学会賞審査委員会は,第26回日本出版学会賞の審査にあたり,下記のとおり決定し,2005年5月14月,授与式が行われた。 ◇日本出版学会奨励賞 鈴木俊幸「近世近代出版史に関する研究書および論文と書籍研究文献目録」 ◇日本出版学会賞奨励賞 中野晴行『マンガ産業論』(筑摩書房) ■ 13.日本出版史料編集委員会 学会と出版教育研究所との共同編集による『日本出版史料10』(A5判,130頁,定価〔本体1,800円+税〕)を2005年10月刊行,これをもって完結させることとなった。 ■ 14.ウェブサイト委員会 下記により,学会のウェブサイトを運営し,部会開催案内その他の情報提供を行った。 http://www.shuppan.jp/ ■ 15.役員(2006年度総会まで) 会長=植田康夫 副会長=遠藤千舟 理事=浅岡邦雄 有山輝雄 伊藤洋子 猪口教行 今井悠紀 植村八潮 大和博幸 金山勉 川井良介 木下修 清田義昭 小出鐸男 古山悟由 芝田正夫 竹内和芳 中野潔 中村幹 星野渉 丸田耕三 三浦勲 諸橋泰樹 道吉剛 山田健太 山本俊明 湯浅俊彦 吉川登 吉田則昭 監事=中陣隆夫 藤本信彦 事務局長=植村八潮 名誉会長=清水英夫 顧問=信木三郎 箕輪成男 吉田公彦 林伸郎 ■ 16.常設委員会 (◎=委員長,○=副部会長) 1.総務委員会=◎遠藤千舟 植田康夫 植村八潮 川井良介 清田義昭 竹内和芳 2.調査研究委員会=◎植田康夫 植村八潮 遠藤千舟 川井良介 清田義昭 歴史部会=◎浅岡邦雄 出版流通研究部会=◎清田義昭 中町英樹 下村昭夫 出版法制研究部会=◎山田健太 阿部圭介 出版教育研究部会=◎諸橋泰樹 出版技術研究部会=◎道吉剛 ○小出鐸男 雑誌研究部会=◎川井良介 ○吉田則昭 学術出版研究部会=◎山本俊明 ○植村八潮 デジタル出版研究部会=◎植村八潮 ○中村幹 出版経営研究部会=◎木下修 ○永井祥一 ○中村文孝 星野渉 出版著作権問題研究部会=◎三浦勲 出版編集研究部会=◎植田康夫 関西部会=◎吉川登 猪口教行 今井悠紀 芝田正夫 中野潔 湯浅俊彦 3.『出版研究』編集委員会=◎川井良介 秋田公士 石沢岳彦 伊藤洋子 稲田隆 稲田恵美子 上田宙 大和博幸 掛野剛史 中村幹 道吉剛 吉田則昭 4.会報委員会=◎古山悟由 稲田隆 中野潔 5.関西委員会=◎芝田正夫 猪口教行 今井悠紀 中野潔 湯浅俊彦 吉川登 6.国際交流委員会=◎山本俊明 遠藤千舟 竹内和芳 蔡星慧 津田和壽澄 羽生紀子 藤本信彦 白源根 文ヨンジュ 吉田公彦 王萍 7.日本出版学会賞審査委員会=◎植田康夫 稲岡勝 今井悠紀 遠藤千舟 川井良介 中野潔 吉田則昭 8.出版企画委員会=◎星野渉 植田康夫 木下修 丸田耕三 9.『日本出版史料』編集委員会=◎稲岡勝 浅岡邦雄 牧野正久 吉田公彦 10.ウェブサイト委員会=◎植村八潮 石沢岳彦 中野潔 ■ 17.特別委員会 1.財政に関する特別委員会=◎竹内和芳 植田康夫 植村八潮 遠藤千舟 川井良介 清田義昭 小出鐸男 中村幹 2.創立35周年記念事業委員会=◎遠藤千舟 有山輝雄 今井悠紀 植田康夫 植村八潮 川井良介 清田義昭 小出鐸男 芝田正夫 清水英夫 杉田信夫 高島国男 田辺聡 中村幹 信木三郎 野間佐和子 林伸郎 丸田耕三 三浦勲 箕輪成男 道吉剛 山口昭男 吉田公彦 3.日本出版学会35年史刊行委員会=◎星野渉 浅岡邦雄 植田康夫 遠藤千舟 植村八潮 川井良介 木下修 清田義昭 下村昭夫 竹内和芳 中村幹 星野渉 丸田耕三 道吉剛 川口正 古山悟由 4.国際シンポジウム(第12回国際出版研究フォーラム)実行委員会=◎遠藤千舟 植田康夫 植村八潮 金山勉 清田義昭 川井良介 芝田正夫 竹内和芳 蔡星慧 津田和壽澄 中村幹 羽生紀子 藤本信彦 白源根 道吉剛 文ヨンジュ 星野渉 丸田耕三 山本俊明 吉田公彦 王萍 5.調査委員会=◎植田康夫 遠藤千舟 植村八潮 川井良介 芝田正夫 竹内和芳 三浦勲 山田健太 [ このページの先頭へ ]