日本出版学会は,2004年において創立35周年を迎え,それを起点として一層本格的な学術研究団体としての歩みを開始した.それは,これまでの年月において築かれた研究のネットワークを尊重し,かつ,出版研究固有の広大なフィールドに対して真摯に取り組むことを意味している.そのためには,新しい世代の研究者を育成し,かつ,それらが育つことのできる社会的な環境の整備も課題として有している.
当学会においては,このような目標の達成のために,次のような事業に取り組みたいと考えている.
■ 1.会勢の充実
1983年から2003年にかけて,正会員の数は43パーセントの増加を見せ,正会員の会費による収入は倍増した.かつては,学会予算に占める賛助会費の割合が66パーセントであったものが,今や35パーセントに減少し,他方では,正会員の会費に依存する比率は50パーセントに達している.これは,経済的には困難な面も生じさせているが,学術研究団体としては健全な傾向と判断することができよう.当学会はこの路線を継承し,今後も真に出版の様々な側面の研究に関心を抱く研究者の加入を歓迎しつつ,経済的にも自立した学術研究団体として存続させるべく努力したいと考えている.
■ 2.財政の強化
当学会は,久しく賛助会員社の支援によって支えられてきたことは事実であり,わが国出版を代表する企業,団体によってこのような地道な学術研究団体を支えていただいていることは大きな感謝であると共に誇りとするところでもある.
しかしながら,管理関係費用が費用の5割以上を占め,活動費関係がむしろ減少傾向にあるというのは,研究団体としては必ずしも歓迎すべきことではない.
そこで当学会は,残念ではあるが当面の間専用事務所と事務員を断念し,事務局業務の外部委託をおこなうことによって,収支均衡財政の実現に努めたいと考えている.
■ 3.事 業
(1)調査研究の促進
近年においては,受託研究等も可能な状態となり,今後独自の研究活動に加えて,受託研究についても研究活動の範囲として考え,さらには,共同研究や共同調査の可能性について今後とも探索したいと考えている.
1 研究部会活動の推進
前期においては,出版経営研究部会,出版著作権問題研究部会,出版編集研究部会の3部会を発足させることができ,当学会の研究部会は,関西部会の成功とともに益々活発になりつつある.この路線は今後とも継承し,さらに発展させたいと考えている.
2 研究集会の充実
首都圏における春季研究集会は首都圏の大学を開催校として定着しつつあり,今年度はさらにその範囲を都心以外の大学にも拡大したいと考えている.また,関西地区における秋季研究集会については,今期においては,岡山大学での開催が決定しており,次第にその範囲を拡大することによって,全国規模で研究者を糾合したいと考えている.
(2)学会誌・会報の発行
1 学会誌『出版研究』
第36号の企画・編集を進め,年度内の発行を予定する.
2 『日本出版学会会報』
本年においては3号の発行を予定し,内容の充実を図るとともに,ウェブサイトとの連動によって学会の公知化に資することとしたい.
3 会員名簿の改訂
現在の学会員名簿は,2002年に発行されたものであり,前期において実現することの出来なかった,会員名簿の改訂版を発行する.
(3)国際交流の促進
1984年に開始された国際出版研究フォーラムは次回で12回を数えることとなり,日本誘致が決定した国際フォーラムの開催めざして,国際交流委員会,および国際フォーラム実行委員会が協力の上,その実現に向けて努力したいと考えている.
(4)日本出版学会賞の審査・授与
日本出版学会賞は,創立10周年を記念して開始され,その後周年事業毎に計画を更新しつつ現在まで継続している.当期においては,第26回日本出版学会賞の審査・授与を行う.
(5)学会創立35周年記念事業への取り組み
学会創立35周年を記念する事業として下記事業を計画し,推進しているが,そのうちの募金活動については必ずしも目標に到達する状況には至っていない.今後,多面的な工夫を重ねることによって,一歩でも目標に近づくように努力したい.募金活動は,2006年度まで継続されるので,会員,及び,賛助会員各位のさらなるご支援を要請したい.
1 第12回国際出版研究フォーラムの日本誘致
前回は1997年,東京の国連大学で開催され,費用については周年事業とは別に募金活動が行われた.しかし,今回は周年事業と結合させ,かつ第三者機関との共催も視野に入れて計画を進めている.
2 日本出版学会35年史の編纂と刊行
当学会の出版研究への取り組みとその成果を適切に調査し,次の世代に継承するための学会史の編纂と刊行を行うことは前期総会において決定されたとおりであり,特別委員会も設置されているので,目標の達成めざして作業を継続したい.
3 日本出版学会賞の継続
当学会設立10周年を記念して設置された日本出版学会賞は,その後20周年,30周年においても継承され,出版研究の推進に極めて重要な役割を果たしている.財政的には必ずしも楽観を許すものではないが,今後とも本件事業を継続すべく,財政基盤をより強固なものとしたいと考えている.
4 募金活動
以上の事業を可能とすべく,当学会は以後2006年度までの間,継続的に募金活動を行う.募金活動はあらゆる機会をとらえて積極的に行い,上記事業の実現を期す事としたい.
(6)その他
1 出版事業関係
2004年度に第9号を刊行した『日本出版史料』を継続し,第10号の編集・発行を推進する.また,その他の出版物についてもその実現を目指して積極的に取り組む.
2 その他
当期においては役員改選の時期を迎えることになり,新に選挙管理委員会を設置して,改選に伴う作業を行いたい.