■第14回国際出版研究フォーラム参加記
山田健太(国際交流委員長,専修大学)
ためになる話や感動エピソードは参加者各位のエッセイに譲り,ここでは名ばかり委員長として,今回のフォーラムの全体を概観しておきたいと思う。
日程詳細は学会ウエブサイトを参照いただきたいが,14回を数える「国際出版フォーラム」は中国・南京をベースに開催された。日本からは川井会長,諸橋副会長ほか,稲岡,田中,長谷川,山田が東京から,甲川,近藤が関西から参加したほか,国際交流委員会から王萍さんに同行をお願いし,出発前の報告準備や日程調整も含め,大変なご苦労をいただいた。
5月7日の正午,ハブ空港としてますます発展を続ける上海空港で参加者全員が落ち合ったのち,南京には整備された有料高速道路をバスで向かった。会場ホテルでの歓迎会にそのまま乗り付け,着替えるまもなく日中韓三国の友情を確認し合う杯を重ねるうちに,早朝に自宅を出て12時間以上の移動で疲れた頭は,すでに街の西北に位置する長江の流れの中にあった。
2日目と3日目は終日学術発表で,立派な国際会議場には連日200人を超える参加者が詰めかけ,日本からは,川井,諸橋,稲岡,長谷川,近藤,山田が報告者として登壇した。特筆すべきは,その洗練された会議運営。通訳能力を除けば,そのスムーズでホスピタリティ溢れる対応は,熱気溢れる会議を下支えするに十二分のものであった。これを実現した原動力は何といっても,今回の会議を事実上主催した地元企業・鳳凰出版メディアグループである。同社は国有企業として江蘇省を中心に放送・出版・書籍流通のほか,宿泊先となった高級ホテル業なども営む大企業グループで,その力は,党役職者と目される中国編輯学会会長や省の情報担当責任者に互していた,初日開会式の壇上の序列からも窺われた。
なお,一言だけ発表内容について言及するならば,韓国はデジタル時代を強く意識した最新事情を折り込んだ発表に特徴があり,これに比して中国はむしろ歴史あるいは理論研究を基礎に置いた上で,現在の状況を比喩的に語るといった点が記憶に残った。中国政府のグーグル検閲に関する質問を受けた小生は,公権力による検閲行為は許されるものではなく,政府よりも人民を高位に置いた対応が求められると回答したが,質問者に満足を与えるものであったかどうかは覚束ない。
より南京の対日歴史観のフィールドワークに重点をおいた参加者の一部は,昼休みを活用して南京大虐殺紀念館(侵華日軍南京大屠殺遇難同胞紀念館)にも足を運んだ。施設は広い敷地に歴史展示スペースとともに慰霊施設を中核的に配置し,無料開放され愛国主義教育基地にも指定されている同所には,訪問当日も多くの団体客が列をなしていた。犠牲者数30万人表記が話題になることが多いが,他国の戦争博物館や独立記念館施設と比しても,展示は全体として抑制がきいていると感じたが皆さんはどう感じられたものだろうか。
なお,学術研究はホテル会場にとどまらず,4日目の近郊視察も極めて有益な機会が用意されていた。午前中は市内名所である孫文の遺体が安置されている中山稜等を周り,午後からは揚州を訪れ,木版印刷博物館や鑑真和尚ゆかりの長明寺をめぐった。その翌日,一行は日本の新幹線同様の高速鉄道で上海に戻り,開催中の万博を視察。北朝鮮館やキューバ,カンボジアにラオスと,ひと味違ったパビリオン見学を行った後,予想に反してすんなり入れた中国館で,これまたチベットとウイグル自治区の展示を見て,妙な納得をした後,中国最後の晩を上海バンドを聴きながら,刺激に富んだ一週間の旅を回想したのであった。