■南京大会参加記
稲岡 勝
中国で開催の国際出版学術会への参加は、1993年第6回北京大会以来久々のことである。この間17年、歳月の重みを色々と感じた。 今でも鮮明なのは到着した日の北京は2000年オリンピック招致で街中が盛り上がっていたこと。御存知の通り結果はシドニーに決定、天安門事件の余儘はまだ消えず人権抑圧国と見るIOC委員が多かったのだ。国際的なイベントを催して経済成長を加速させるビジネスモデルは日本の発明である。1958年アジア大会、1964年東京オリンピック、1970年大阪万博、と日本は高度経済成長路線をひた走った。二十年後には韓国が同じ道を歩んで経済的繁栄を迎える。そして改革開放路線の中国がその後を追い、今日まで驚異的な経済成長を続けている。2008年北京五輪は記憶に新しい。2010年上海万博は目下開催中で、今回見学する機会を得た。
世紀の変わり目を境に中国は全く別の国に変貌したかのようである。90年代前半には普く見られた朝夕の自転車の奔流、旧型のオンボロバス、白墨で書かれた政治スローガンなど今はキレイに消え去り、代わってクルマやバスの洪水と渋滞、派手な宣伝広告の氾濫など、東京を凌ぐばかりである。
しかし容易に変わらないものがある。人の縁を尊重するお国柄である。参加メンバーが大幅に若返る中に昔の懐かしい顔があり、彼等は口々に吉田公彦元会長の消息や容態を尋ねてきた。「井戸を掘った人のことを忘れてはならない」中国人気質を表すこの言葉には千鈞の重みがある。