IPA 大会と第13回国際出版フォーラム参加して  植村八潮 (会報122号 2008年10月)

「本の道,共存の道」 第28 回IPA 大会と第13回国際出版フォーラム参加して
(会報122号 2008年10月)

植村八潮

 
 国際出版連合(IPA)の第28 回大会が,2008 年5 月11 日~ 15 日の間,韓国ソウルのCOEX 展示場にて開催された.IPAは1896 年に設立され,現在61 の国と地域における出版協会で構成されている.世界大会は4 年に1 回開催されており,ソウル大会は1992 年インドのニューデリー以来,16 年ぶりアジア開催となる.その前のアジア開催は1976 年の京都大会であった.
 韓国はアジアで最初にIPA に加盟したことを誇っている.それだけ日本に32 年遅れで開催する大会をなんとしてでも成功させたいとこだろう.ソウル国際ブックフェアなど国内の出版イベントを同時開催して集客を図っている.また「国際出版フォーラム」や,毎年開催の「日韓中大学出版部協会セミナー」がIPA 大会と連携しての開催となった.
 IPA ソウル大会には日本からは日本書籍出版協会を窓口に50 名が参加し,出版学会,大学出版部協会とあわせて72 名の大所帯となった.
 11 日の前夜祭に続き,翌12 日9 時からセンターホールで,「本の道,共存の道」を大会テーマに掲げて開催式が挙行された.来賓がイ・ミョンパク韓国大統領であることからも韓国政府の力の入れ方が伝わってくる.大統領は韓国が世界最古の金属活字を持つことに触れながら,「本をとおして異なる文化と地域を知ることができた.さらに本はデジタル化に向かいつつあり,情報のマルチユースが国の競争力を左右する」と述べた.
 「世界最古の金属活字」とは高麗金属活字のことで,確認されているものは1377年に印刷された「直指心体要節」である.会場の特設ブースでは「直指」レプリカを用いた印刷のデモを行うなど,グーテンベルクより古く印刷を発明したことが強調されていた.日本が「百万塔陀羅尼」を持ち出して最古を競うと不毛な“日韓対立”となるが,西洋に対しアジア文明の先進性を見直す機会でもある.
 大会は24 のセッションが行われ,面白い発表もあるのだが,総じて発表者が言いっぱなしで議論がかみ合わないセッションが多かったようである.
 中国はIPA に参加を申請しているのだが,「表現の自由が制限されている」ことを理由に毎回総会で否決されている.参加させて中国の内情を明らかにするべきだ,という意見もあるが,チベット問題や四川大地震に関しての中国政府の報道規制を考えれば今後とも参加は困難だろう.欧州主導のIPA 本部が決めたセッション発表の一つに中国の表現弾圧があった.一方で,ソウル国際ブックフェアは中国が招待国である.バランスを配慮しなければならない40 のが韓国の立場だ.
 13 日は韓国出版学会の主催の第13 回国際出版フォーラムに参加し発表した.このフォーラムは日韓中の出版学会が隔年で持ち回り主催している.一昨年の日本に続く今年は「デジタルメディア時代の出版と読書」をテーマに,政策,産業,経営,国際交流,読書の五つのセッションでの発表となった.いつもは2 日間にわたり発表が続くのだが,今年は1 日での開催となり満足いく議論ができなかったのが惜しまれる.
 14 日のツアーは坡州(パジュ)出版都市見学である.ここは出版社から印刷,製本,流通倉庫,住居区,ショッピングセンターを持つ48 万坪の巨大な出版産業団地である.オープン間もない04 年に訪問して以来となったが,ホテルも完成し見違えるように整備されていた.

インタビューを受ける植村氏(パジュの軍事境界線付近で)

 大学出版部セミナーでの発表のために筆者は15 日に光州市に移動した.民主化運動における悲劇とされる光州事件の舞台である.長いこと韓国現代史のタブーであったが,昨年,事件を正面からとらえた韓国映画「光州5・18」が製作されヒットしている.訪韓前日,日本でも封切られたので幸い見てから訪問することができた.
 発表会場に向かうバスの中から,市民が立てこもり多くの尊い命が失われた全羅南道庁を見ることができた.当時,事件の実態は軍政府による言論統制により国民に知らされることはなかった.隣国でわずか28 年前におこった事件である.

(初出誌:『出版学会・会報』2008年10月122号)

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