創立40周年で問われること (会報125号 2009年10月)
星野 渉
日本出版学会は今年,創立40周年を迎えた。ほとんどの会員が1969年の創立当時を知らず,理事にも創設メンバーは既にいない時代になった。そして,第2世代と言うことができる川井良介氏が会長2年目を迎えた。かく言う私も会員歴は5年の新参者である。
そういう時期に当たり,改めて本学会設立の目的や背景を,私も編纂に携わった35年史『出版学の現在―日本出版学会1969-2006年の軌跡』からたどってみると,まず初代会長の野間省一氏は,設立当初に投稿した「出版学と出版学会」(『日本出版学会会報』第1号)で,「出版の総合的な研究は,いぜん未開拓に等しい」と書いている。そして2代会長である布川角左衛門氏も,学会創立10周年で著した「創立10周年に当って」(『出版研究』10号)で,「学会名の本体をなす『出版学』なるものがすでに成立しているわけではなかった」と書いた。
創立メンバーが異口同音に語るように,本学会は出版学の研究者が集まって創設された学会というよりも,学問が成立していない段階で,まず学会が設立されたという極めて異例な設立の経緯を持っている。
その意味で,本学会の構成員が,必ずしもプロパーの研究者中心ではなく,出版産業に従事する実務者が一定以上の割合を占めていることは必然だとも言える。学問を学問として究めるというよりも,いまでも,出版という営みを,文化的,経済的,社会的に分析することから,「出版学の成立」を目指しているからであろう。
さらに,創立の背景として,野間省一氏が前出の文章であげている「現代的諸条件がもたらしている出版変革の思想的・技術的側面に十全の顧慮を払わねばならない」という指摘や,設立20周年で4代会長の清水英夫氏が「『出版学』の20年」で,『日本出版学会会報』36号に野間氏が寄せた巻頭言を引用し,「1960年代は,全世界的に,政治,社会,文化の全般にわたって,激しい流動の世代であった」と回顧するように,本学会の設立は,社会とそれを映す出版が大きな変化を遂げつつあるという自覚のもとになされたという側面を見逃すことはできない。
そして,40周年を迎えた今日の出版状況が,世界的にみればデジタル化という技術的な大転換時代にあり,そのことが,日本においても,戦後続いてきた取次システムを中心とした出版体制を大きく揺るがしているという点で,設立当時と同様か,それ以上に大きな変化の時代であることは論を待たない。
その意味で,本学会が果たすべき役割は,ますます大きくなっていると言える。来春の総会に向けて40周年を記念する行事などを企画していくことになっているが,それとともに,学会として,今日の出版状況に対する視座と,将来に向けたビジョンを,これまで以上に積極的に提言していく必要があると考える。