子どもは何を読んでいるのか:読書調査からの分析と考察
村木美紀
(同志社女子大学学芸学部情報メディア学科専任講師)
2011年の「学校読書調査」を基に子どもの読書状況を整理してみたい(注1)。
〈何を読んでいるか〉
1ヶ月間の読書冊数は小学生9.9冊,中学生3.7冊,高校生1.8冊であった。小中学生は学校における読書の時間の定着が一定の効果を挙げているようである。では,何を読んだのか確認していきたい。
小学生
シリーズもの,伝記がよく読まれている。男子では江戸川乱歩や歴史物。女子は若おかみシリーズや黒魔女さん等。伝記では同性偉人を好むことが分かった。
中学生男子
1年生は『三国志』,『西遊記』,「ハリーポッター」,推理小説等を好んでいる。それに対して,2・3年での1位は『もし野球部の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(以下,「もしドラ」)であった。ライトノベル,映画やドラマで実写化された作品に人気が集まっている。
中学生女子
全学年で1位は『なぞ解きはディナーの後で』(以下,「なぞ解き」)であった。さらに,「もしドラ」,『告白』が共通して上位を占めている。
高校生男子
全学年で「もしドラ」が1位であった。目を引くのは,『とある魔術の禁書目録』,『バカとテストと召喚獣』,『ロウきゅーぶ!』といったライトノベルのシリーズが何作もランクインしていることである。
高校生女子
「なぞ解き」の人気が高い。さらに上位に『告白』,男子よりは低いものの「もしドラ」もみられる。2・3年生のみ『図書館戦争』がランクインしていた。高校生女子では,実写映画化された作品が他の年齢・性別よりも目立つ。
以上,メディミックスの原作,シリーズものが人気となった。「なぞ解き」は調査時にはまだ映像化はされていなかった。「なぞ解き」のみならず中村佑介によるイラストの表紙作品は中高生に人気のようである(注2)。
では,子どもはどのように本を選んでいるのだろうか(注3)。
「タイトル」,「表紙」が上位なことから,興味を引くタイトルや表紙がポイントであることが分かる。現物を提示することやブックリストには書影も付与するのが効果的であろう。映画やドラマの原作人気も高い。「好きな作家」や「友達のすすめ」というのはシリーズものやブームとの関係が見える。
表1 本を選ぶポイント
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | |
小学男子 | タイトル | 表紙 | メディアミックス | 友達のすすめ | 人気や評判 |
小学女子 | タイトル | 表紙 | 友達のすすめ | 好きな作家 | メディアミックス |
中学男子 | タイトル | 表紙 | メディアミックス | 人気や評判 | 友達のすすめ |
中学女子 | タイトル | 表紙 | メディアミックス | 好きな作家 | 友達のすすめ |
高校男子 | タイトル | 人気や評判 | 表紙 | 好きな作家 | メディアミックス |
高校女子 | タイトル | 表紙 | 人気や評判 | 好きな作家 | 友達のすすめ |
〈読書の動機〉
次に読書の動機を探っていく(注4)。「読書のきっかけ」では,「本屋で見かけて」(小学生60%;中学生70.5%)が最も高く,「アニメや映画・テレビ番組で見て」(小学生45.8%・2位;中学生43.3%・3位)の回答が続く。
興味深いのは「読書中・読書後にとる行動」が,小中学生ともに「映画化・テレビ化されたものを見る」(小学生49.7%・2位;中学生53.4%・1位),「本の続きを想像して楽しむ」(小学生54.1%・1位;中学生・27.9%・4位),「友達とその本の内容を話し合う」(小学生37.6%・5位;中学生50.1%・2位)が上位にきていることである。
「読書の目的」の回答では,「おもしろいから」がともにトップ回答であった(小学生83%;中学生88.1%)。
このことからかも,小中学生はメディアミックス作品を好み,読書をコミュニケーションツールと捉えていること,何らかの形で現物を手に取ったり存在を確認したうえで読んでいること,中学生は「友達のすすめ」(45.7%・2位)や「ベストセラー・話題の本だから」(38.0%・5位)が大きなきっかけになっていることが分かる。
では,どうすれば今以上に本を読むようになると考えているのだろうか。
表2 どうすればもっと読むようになるか
1位 | 2位 | 3位 | |
小学生 | おもしろいタイトル | 漢字に振り仮名 | 内容をおもしろく |
中学生 | 値段を安く | 内容をおもしろく | おもしろいタイトル |
高校生 | 値段を安く | 内容をおもしろく | 目立つような宣伝 |
この回答からは,本は購入して読むものであるという意識が読み取れるし,おもしろい本に出会えていないことが分かる。その為ユニークなタイトルや宣伝等が求められているのである。公立図書館も学校図書館も機能していないのは残念であるし,出版社や書店の広報活動も届いていないのである。それゆえにメディアミックス作品には注目が集まりやすいのかもしれない。子どもにとって読書は「良いこと」で「楽しいこと」だし,「苦しいこと」ではないが,あまり「興味がな」く,「めんどうくさい」のだということも付け加えておきたい。
〈まとめ〉
以上,子どもの読書状況を分析したところ,図書館が上手く機能していないこと,本の情報が届いていないことが明らかになった。その一方で,子どもたちはメディアミックスには敏感で,読書が友達とのコミュニケーションツールとして機能している。
学校教育や読書の時間に頼るのではなく,図書館は読書材やその情報をどのように提供し,子どものコミュニケーションに役立てることができるのか,出版社はコンテンツ・装丁の戦略を練る必要があるだろうし,ブックリストの提供や宣伝広報活動にも力を入れるべきである。子どもが読書に向き合う可能性を広げるためのきっかけを逃してはならない。
注・引用文献
1)全国SLA研究調査部「第56回学校読書調査報告」『学校図書館』733号,2011.11,pp.12-38。
2)「聞きたい!本の謎」『Rの法則』NHK,2011年11月23日放送
番組では実写化の櫻井翔の影響で「なぞ解き」と『神様のカルテ』が大人気であった。書影では中村佑介のイラストが人気との分析も。確かに「なぞ解き」,『神様のカルテ』,『夜は短し歩けよ乙女』等,彼の作品は多い。
3)全国SLA研究調査部「第56回学校読書調査報告」『学校図書館』721号,2010.11,pp.16-42。
4)岩槻和也「子どもたちは本とどのようにつきあっているのか?」『社会教育』2007年9月号(No.735),pp.20-24。