『アメリカ通信』  三浦 勲 (会報123号 2009年1月)

■ 『アメリカ通信』 (会報123号 2009年1月)

   三浦 勲

 私は2008年9月初旬から語学留学のため,娘夫婦が住むアメリカのコロラド州の州都デンバーに滞在しています。3か月の滞在期間中のHalloween, Thanksgiving Dayという2つの祭日のこと,大統領選挙のことなども交えて,当地での体験をレポートしてみたいと思います。
 英語留学にきた理由は単純で,高校・大学と勤労学生状態で十分勉強できなかったので,社会の一線から退いた今,心置きなく勉強したかったというものです。まず語学の勉強をし,その後で教育方法に興味のあったアメリカの大学で学んでみようと考えたわけです。
 語学の勉強は,まずデンバーのAuraria Campusというコロラド大学などの機関が集中している大規模な教育施設の中にあるSpring International Language Center(SILC)で行いました。
 アメリカの大学に入学するためには,大学によってその基準が違いますが,通常500~550点以上のTOEFLのスコアの取得が必須。SICLではレベル6の英語教育を修了できれば,デンバー近郊のUniversity of Colorado, Metropolitan State College of Denverなどの大学に入学できるという特典があります。入学時にMichigan Testというクラス分けの試験があり,私はレベル3でした。試験はリスニングを含め1時間に100問を解かなければならず,高校時代いらい英語の勉強などしたことがない私にとっては相当ハードでした。
 中学・高校とlisteningとspeakingのない英語教育を受けた世代の者にとって,ここでの授業はかなり難しいものでしたが,めでたくレベル4に進級できる資格を得たところで,会話重視のBridge-Linguatecという学校に転校して勉強を続けています。因みにこの学校では,ネットでレベル判定の無料試験を実施しています。
 さて,この2つの語学学校は共に100人規模で,70%以上がリビア,クエートなどの中東諸国からの留学生で,既婚の女性も多く見られました。残りは韓国を中心としたアジア諸国,ブラジルなどの南米諸国からの人たちでした。韓国を含め既婚の女性の受講生が目立ち,韓国の場合は子供に英語教育を受けさせに来米し,そのかたわら親も英語を勉強している,中東系の女性はアメリカでの生活を志している者もいるが,多くは主人と一緒に留学しているというパターンのようでした。
 例えばリビアは国策として,国費で毎年1000人近くの留学生を海外に派遣しているとのことで,他の国も大同小異。むろん英語に堪能になって,自国に戻ってもっといい条件の職をえたいという人(女性が多い)もいました。
 ところで,日本の祝祭日は厳粛な式典が行われるというパターンですが,私が体験した当地の祝日は国をあげてのお祭りでした。ハロウィーンには学生がハリーポッターに変装したまま登校したり,サンクスギビングにいたっては,延々3キロ以上に及ぶニューヨークの壮大なパレードを朝からテレビが全国ネットで実況し,沿道は全米から集まった200万人もの見物人で埋め尽くされていました。その規模は東京ディズニーランドのパレードの300倍ほどでしょうか。
 デンバーはその標高が約1マイルであることから,「マイル・ハイ・シティー」とも呼ばれ,年間300日が晴天という地理的条件にあり,全米19位の大都市です。市の中心部のCivic Center Cultural Complexには美術館,公共図書館があり,その規模は上野の美術館や国会図書館に匹敵しています。美術館は毎月の無料公開日には家族連れで賑わい,図書館は有料の商用データベースを含め100種類ほどが,メンバーになると無料で使えるといった充実振りです。また市内のサンタフェ通りは,神田の古本街のように多数の画廊が密集しているというアート街です。
 州知事が民主党員ということもあって大統領選挙の投票日直前にオバマ氏が市のダウンタウンで演説したときは,58万人しかない人口の約5分の1もの人が会場に詰めかけました。学校の教員や周囲の多くの人々が,ブッシュはこの8年でアメリカを壊したと公然とオバマ支持を表明していて,大差での勝利は十分予想できました。しかし,知識人たちは新指導者による変革を期待するものの,自国の将来については決して楽観していません。
 さて,アメリカの出版事情ですが,現地の紀伊國屋書店の情報によれば,店での景気後退の影響は大きく,Barnes&Nobleでも第3四半期の売上は7.4%減,ただし,ガソリン高騰で外出を控えた読者が増えたアマゾンは善戦している。また,出版社は出版点数の絞り込みに入っている,とのことです。
 Publishers Weeklyは,11月10日号でObama’s Imprintという特集を組んでいますが,店頭では自伝の『マイ・ドリーム』(ダイヤモンド社)がよく売れており,また『篤姫』ものも売れている由です。コロラド州だけで,日系人を含め2万人の日本人が在住していますが,東野圭吾の『流星の絆』もよく売れていて日本のテレビの影響は,当地でも大きいようです。アメリカの一般書店では最近映画化されたTwilightのVampireシリーズがよく売れている由で,本の売れ行きがマスメディアに影響されるのは彼我とも同じようです。

(元・日本出版学会理事,元・実践女子短大教授)
(初出誌:『会報123号』2009年1月)