人口動態の出版流通への影響  山本隆樹 (2008年11月7日)

出版流通部会   発表要旨 (2008年11月7日)

人口動態の出版流通への影響
――「人口の減少・人口増加率の鈍化と読者人口の推移」

 出版不況の要因を考えると,その一つに少子化と消費人口の減少問題がある。1990年代前半から少子化の影響が顕在化したにも関わらず,政府も社会・企業も根本的な対策を立てられないまま,全ての流通小売業に多大の影響を与えてきた。出版流通の販売額は11年連続マイナス,CVSも8年連続・音楽業界(CD/DVD)9年連続・百貨店業界11年連続マイナスとなり外食産業も1997年をピークに下降続けている状況です。その原因は15歳~25歳の年齢層が1990年前半には約2000万人を数えたが2000年には1600万人・2010年(2年後)には1200万人と10年毎に400万人ずつ減少し,今後もこの年代層は少子化の影響で減少続ける予定です。これは現在の不況とは関係なくボディブローのように効いてくると考える。『少子化は何故起こったのか』日本では1994年に高齢化率(全人口に占める65歳以上の人口比率)が14%を超え高齢化社会となった。現在は超高齢化社会(21%以上)となっている。14%を超えると女性が生涯に子供を生む数はせいぜい1.5人以下となりこの状況下では何があっても少子化は止まらないと予想する。これは女性の未婚率の増加が出産率に影響しており,20代の未婚率が50%を超える日本の場合,結婚しなければ子供を産んではいけないという風土も重なり出生率が低くなったのである。これに対して高齢化率が高いEU・北欧諸国では女性の社会進出が盛んで婚姻外出産(未婚の母)が高率を占めている。出産は結婚が前提とならなくなってきているのが特徴である。子供の出生数は生物学的問題と個人の問題であるので政府・行政が何を政策立案しても基本的に少子化に変化はなく,今後40年間人口増加は考えられず,現在の消費社会を維持するには相当の困難が待ち受けている。特に年少人口(14歳以下)に関わる教育機関と教育関連産業の熾烈なシェア争いの展開が起きてくると見る。
 2005年より人口減少が開始された。日本は現在高齢化率で世界トップとなり,今後も世界の先頭を走り続けることになる。少子化・高齢化社会に人口減少とこの状況は誰もが経験したことの無いものであり教科書も無く,よって誰もが対策を立てられないでいるのが現状。人口減少が続くと何が問題になるのか,まず最も多い意見は年金・医療保険支出の増加・収支の悪化から保険制度の維持が困難になる。更に地方税の減収から地方自治体の財政破綻が現実を帯びてくる。最大の問題は生産年齢(15歳~64歳)人口の減少から社会生活のインフラに影響が出てくる。既に表面化している医師・看護師・介護師・警察官・消防官・上下水道の保守管理,清掃車の人員不足・農産物自給率不足・林業・漁業の人手不足で思いもかけない事態が起きても不思議ではなくなる。以上人口減少による人手不足が顕在化してくるのは2010年頃となる。
 人口減少は各県の問題としても現れた。人口100万人以下の件が鳥取県(59万8000人)を始め7県。2015年までに6県増えて13県となるが,その他の県も人口流出で100万人以下になる可能性もある。2005年の国勢調査では32県が人口減少となり17政令指定都市でも減少・流出が起き,中核市指定の市39市も同様である。人口減少・人口流出が続いている地域は就職先も無く若者が逃げ出し衰退していくのは間違いない。今後も人は集まらなくなり行政の負担と生活インフラの維持に問題が生じてくるのは明白である。このような状況で出版マーケットは2010年までに大手チェーン書店を中心に全国の書店地図も変化すると予想する。過去数年間の書店出店ラッシュが行われた全国125市(人口20万人以上)にある書店動向も気になるところである。
 出版流通における拡大なき競争の行き着く先,その時求められる対応は,まず出版業より後に出てきたインターネットとの競争,中古本マーケットとの競争が今後益々厳しくなってくる。更に2011年から開始される地上波デジタル放送を中心に全てのコンテンツはデジタル化され,出版の世界もネットの世界に否応なく巻き込まれることは間違いない。(1)市場縮小での出版社個々のサバイバル競争に打勝つ方法(2)自社商品の市場把握,取次依存型の出版社に明日は無いといわれている。(3)市場に合わせた商品開発(市場は書店だけではない)。同時に自社商品と市場にあった多様なチャンネルへの対応が急務である。少子化・人口減少は厳然たる事実であると同時に未来でもある。何時かは人口が増加するだろう,売上も増加するだろうとの願望からは何も生まれてこない。出版業界は今まで民間の消費支出によって伸び続けてきた。
 従って国民所得の伸びが無い状況下で如何に新刊の発行によって売上増加を図っても返品の山を築くだけで無駄骨に終わると見る。企画の厳選もさることながら過去の成長過程で肥大化した体質を削り取る減量経営も避けられないが,この業界には自己抑止力は無いと考える。
(山本隆樹)