『出版流通の現状と未来』
――21世紀の出版流通を考える
9月27日,八木書店にて,出版流通研究部会が開催され,『21世紀の出版流通を考えるシリーズ(1)-出版流通の現状と未来』と題して,前半で蔡星慧さんの「委託制と再販制からみる書籍出版流通」,後半で下村昭夫さんの「出版産業の現状と課題」の二つの報告が行われました(参加者45名)。
以下,本レポートでは,蔡さんの研究発表の骨子のみご報告する。
委託制と再販制からみる書籍出版流通 蔡 星慧
1.戦前・戦時中の出版流通
明治時代における「教科書経路」(「共同販売所→特約販売所→取次販売所→小学校ルート」は出版流通の根幹を成す。明治中期,大取次の登場から近代出版流通構造の基盤が形成,雑誌中心の出版流通が定着していく。近代創業の大手出版社は雑誌出版によって発展。
1926年,改造社の「現代日本文学全集」の発行は円本ブームへ。円本ブームは書籍出版の全国的流通経路の開発,大衆化に貢献。
近代の出版流通の構造,戦時中の日配体制,終戦直後の1949年体制といわれる新取次機構の設立過程を経て,今日に受け継がれる構造的連続性を持つ。
2.定価販売制の経緯
1892年6月,医書の英欄堂,南江堂,金原書店などが「医書組合」を結成,定価販売をしない店には卸売しないことなどを取り上げる。
1887年8月設立の「東京雑誌売捌営業組合」は売価協定を定めて定価厳守を促進し,違反者には違約金を徴収することを定め,組合員には「雑誌協定売価表」を配布。
1915年10月,岩波書店,発行図書の奥付に「本店の出版物はすべて定価販売卸実行被下度候」と印刷,全国の書店に同社の出版物の定価販売励行を要請。単独メーカーによる再販価格維持行為の最初のケースとされる。
1919年2月,東京雑誌販売業組合,雑誌の定価販売を全面実施。
1919年7月,東京書籍商組合,販売規定案を提出。奥付の定価記載,定価販売の励行,割引販売・景品付販売の禁止,組合員の発行図書の販売は原則として組合加入者に限ることを定め,販売規定では定価表示の明記,割引規定,見切仕入品,汚損本規定,注文品の返品禁止規定,違背者の処分を定める。
1931年6月,東京書籍商組合,販売規定を修正,取引規定を新設。発行後1年経過の図書は,出版社の意志により価格を引下げることができる条を販売規定に入れる。同規定から1980年導入の「時限再販」に相当するもので「自主基準」の原型が見られる。
3.戦前の流通と委託制
委託制の実施説。実業之日本社の『婦人世界』が創刊3年目の明治42年に,委託制を採用。実業之日本社より先立って1908(明治41)年,大学館が書籍の委託制を採用している。
日配の取引規定における日配以前からの「前金制度」と前金以上に厳しい「信認金制度」,長期委託に次いで「常備委託」へ,書店報奨制」を設けたが,あまり効果はなかった。1943年7月,書籍の売切買切制を全面的に実施。1944年1月,日配,雑誌の委託配本を廃止し,買切制とする→書籍と雑誌の総合流通体制が全国的に定着。
1939年9月,岩波書店,買切制実施(文庫・新書は1941年8月から実施)。
4.戦後の流通と再版制
1949年,新取次の時代へ。
再販制の成立。1953年,改正独占禁止法の第二十四条の2(現,第二十三条)において再販制度が容認され,「著作物」の再販も適用除外とされる(法定再販)。1978年10月,橋口収公取委員長は,二大取次の寡占問題,優越的地位の乱用の疑いがあると,見直し発言。部分再販や時限再販を適用した新再販制へ移行。1980年10月,「新再販価格維持契約書」を発行。2001年,再販制は当面維持に。
5.流通制度の解釈と課題
(1)再版制の存廃論
小部数書籍出版・中小出版・文化としての出版を保護すべき,独占的カルテル,制定における適用過程の議論がなかった,制度的硬直性,雑誌とは違って,長期的に手間がかかる書籍出版は委託制のような量的扱いに止まる状況に対して再検討が必要なのでは…。1980年の新再販制の弾力的運用を検討すること,消費者にリーズナブルな価格で提供すべき。
(2)再販制の縮小論
商品の特性や寿命,産業構造,寡占,系列化,取引慣行,消費者利益を見て規制,撤廃。
(3)再販制の弾力的運用
ブックフェア,神保町ブックフェスティバルにおける読者謝恩価格本販売,ブックハウス神保町,八木書店の非再販本,ポイントカード制,専門書出版社の直販(オンライン受注対応など)経路による送料無料など。
以下,後半では,下村さんによる「出版産業の現状と課題」が報告され,全体として,「出版流通の現状と未来」を考える総合的な問題が提起された。
(文責:出版流通研究部会)