キュレーションサービスにおける編集のあり方
発表者:宮下 義樹(会員、洗足学園音楽大学講師)
討論者:小向 太郎(日本大学危機管理学部教授)
今回は、近年、話題となっているキュレーションサービス(いわゆる“まとめサイト”)について、知財法を専門とする発表者が、その編集のあり方やコンテンツ(情報の内容)としての問題点、負うべき責任等について解説をし、情報通信法制を専門とする討論者が、これに専門的見地から様々なコメントを加え、かつ総評をしてくれた。
キュレーションサービスは、サービスを瞬時に多種多様な情報にアクセスできる便利なメディアとして、今日、多くのSNSユーザーに利用されており、その社会的な影響力は軽視できない存在となっている。これらは、みずからコンテンツを創り出すのではなく、インターネット上に存在するコンテンツを利用している点が特徴的であり、情報の収集や採用、記事化という取捨選択をしている点において、さしずめ“編集”を行っているといってよい。まずは、こうしたキュレーションサービスがいかなるもので、具体的にどのようなサイトが存在し、どういった運営がなされているのかについて、発表者が丁寧な整理をしてくれた。
ついで浮き彫りにされたのが、キュレーションサービスにおけるコンテンツの質や信頼性にまつわる諸問題である。キュレーションサービスは、情報がまめに更新されていたり、統一感ある見出しなどでジャンル分けされていたりと、あたかも情報誌のような外観を備えている。しかし、その運営の実態は、いわゆる昔ながらの“出版編集”とは大きく異なっており、コンテンツの中身を精査せず、投稿された情報をそのまま掲載するようなケースも往々にしてあるという。そこで考えなければならないのが、コンテンツへの責任という問題である。この点につき、発表者は、利益ないし損失が発生した場合それぞれを想定し、著作権法上の判例やプロバイダー責任制限法などを典拠に、大変興味深い解説をしてくれた。要するに、サイトの運営者は、コンテンツをチェックするなど、これに関与すればするほど、法的責任を問われる可能性が高く、逆に場を提供するだけならば責任を問われる可能性が低くなるが、他方で、掲載情報に手を加えていなくとも、広告収入を得るなどの図利性がある場合は、侵害主体としての責任を問われる可能性があるということであった。
これを受けて討論者は、プロバイダー責任に関するアメリカにおける事例やEUでの議論を紹介するとともに、媒介者に関する問題として、過去の犯罪歴等がいわゆる検索エンジンによって記事として表示されないように求める“忘れられる権利”の問題や、これを認めなかった最高裁決定(最三小判決平29・1・31)にも言及し、このテーマの奥深さについて論じてくれた。また、今後、本テーマを扱うにあたっては、これをとりまく責任や制度をどうすべきかという法的な議論と、利用者に信用されるための仕組みがどう構築されるべきかといった倫理的な問題は、ややもすると接近しがちであるが、混同を避けるため、ある程度、区別して議論をしていく必要があるとの方向性も示唆してくれた。
今回の部会では、研究者のみならず、実業界、さらにいえば一般の人々にとっても関心の高いテーマを扱ったため、あいにくの悪天候にもかかわらず、参加者も平素より多く、かつ、職種や年齢の層も多彩であった。会場となった日本大学危機管理学部の学生数名からも的を射た良い質問がなされ、自然、質疑応答も盛り上がり、活発な議論がなされた。結果、来る5月13日の春季研究発表会においてワークショップを企画してみてはどうかという流れになった。
その後、論点を整理集約し、鋭意準備を進めて応募したところ、本文書の脱稿直前に、企画が通ったとの有り難い報せが届いた。テーマは「まとめサイト問題と編集者の責任-法的問題を中心として-」とした。一人でも多くの、かつ幅広い層の皆様が参加してくれることを期待したい。
参加者:14名(会員9名、一般5名)
会場:日本大学危機管理学部 本館1203教室
(文責:瀧川修吾)