■日本出版学会 出版編集研究部会 開催報告
(2024年10月16日開催)
「科学読み物の企画・編集
――〈岩波科学ライブラリー〉を中心に」
濱門麻美子(はまかど・まみこ)(岩波書店)
自然科学は「数学」、「物理学」、「化学」、「天文・地学」、「生物学」、「医学・薬学」など多岐にわたり、数多くの書籍が刊行されている。読者の知的好奇心を満たしてくれることはもちろんのこと、大人の学び直し本としても人気があるジャンルである。また、動画サイトとも親和性があり、入門書や図鑑、そしてロングセラーが多いことも特徴の一つである。
この度、濱門麻美子氏(自然科学書編集部編集長)に、〈岩波科学ライブラリー〉を中心とした企画立案の経緯や編集方法などについてご発表いただいた。誰もが知りたい旬のテーマをどのように立て、いかに分かりやすく、楽しく伝えていくのか、興味ある発表内容となった。
〈岩波科学ライブラリー〉は1993年に創刊された。発表資料の企画キーワードには「幅広いテーマ」「科学研究のいとなみ」「社会との関わり」「科学者の姿」「楽しく伝える」が並ぶ。ベスト10を眺めると、例えば、ロングセラーの一つである『アフォーダンス』(佐々木正人)は1994年に初版(2015年新版)を刊行しニーズが途切れていない。1996年刊の『愛は脳を活性化する』(松本元)、1995年刊の『複雑さを科学する』(米沢冨美子)など、1990年代の書籍がよく動いた時代とは言え、売れ行き良好書籍群に特徴を見る。
次に企画づくりに欠かせないテーマの選び方として4点挙げられた。「いま注目のテーマ」「面白い生き物」「人間の心・脳」「こんな研究があったのか!」であり、それぞれのテーマに繋がる書籍が丁寧に解説された。特に「こんな研究があったのか!」では『「死んだふり」で生きのびる』(宮武貴久)や『電柱鳥類学』(三上修)などがあり、タイトルを見たら読みたくなるような新しい視点がある。ここにも著者と編集者による読者層を意識した工夫がある。
編集者が主体的に動かないとなかなか満足できる企画は生まれない。出版社への持ち込み企画は多いが、やはり企画化に至ることは稀である。濱門氏が指摘しているように、「コンセプトが合致しない、読みたいものと書きたいことのズレ」はありうる。一般読者の理解、「つかみ」と「流れ」、情報を絞り込む、といったシリーズ企画の特徴を提案者が理解し、細かな打ち合わせが必要となるだろう。
最後に科学読み物は電子書籍との親和性が高いとの報告があった。時間がたつと電子書籍の割合が増えたと言う。製作部数や今日的な店頭在庫・流通の課題もあるが、出版社として「品切れ」のない状況を作り出し、読者ニーズ、そして著者ニーズにも対応し続けられる電子化はますます重要である。
会場からの質問として、「著者にとっての科学読み物を書く魅力」「いま注目のテーマの見つけ方、その基準」「他社との企画の差別化」「著者の講演やSNSを見て、その著者が1冊書く筆力を持っているかどうかの判断材料」など、幅広くいただいた。
自然科学書ジャンルは時代のなかでどう移り変わり、どう生き続けるのか、あらためて参加者と一緒に考えた空間となった。
日 時: 2024年10月16日(木) 午後6時30分~8時00分
会 場:オンライン開催(Zoom)
参加者:参加登録68名、当日参加者53名(内会員13名)
(文責:飛鳥勝幸)