「漫画編集者としてのひとつの生き方」金城小百合(2023年1月25日)

■日本出版学会 出版編集研究部会 開催報告(2023年1月25日開催)

「漫画編集者としてのひとつの生き方」
 金城小百合(きんじょう・さゆり) (小学館)

 
 漫画やアニメ、動画編集に関する関心は相変わらず高い。特に漫画には世代を超えて夢や共感するものが多く含まれているようだ。今回、現役漫画編集者の一人である金城小百合氏(小学館)にお話をいただいた。
 金城氏は秋田書店で『cocoon』『花のズボラ飯』、小学館では『プリンセスメゾン』『あげくの果てのカノン』『サターンリターン』『往生際の意味を知れ!』『女(じぶん)の体をゆるすまで』など数多くの話題作品を担当した編集者である。
 研究会の前半は司会者からの事前質問と回答をまとめたスライドを元に進行し、後半は小林えみ会員によるインタビュー形式にて進行した。質問のポイントは、一漫画編集者としてのルーチンワーク、影響を受けた雑誌や作家のこと、作家の対処法や漫画編集の手法について、そして、電子・メディアミックス・漫画アプリ、ジェンダーから見る漫画編集者など広範囲にわたる。
 金城氏は新人作家の見つけ方について、SNS・書店・雑誌も利用するがやはり一番頼りにしているのは「口コミ」だという。漫画編集者として一番必要なスキルについては「責任感」という発言も重い。また、作家と編集者の間で話題になることが多い「ネーム」については、作家が「何がやりたいのか」を知るためにも大事であり、これがないと作家の「本気度」がわからないという。電子コミックの市場拡大とあわせメディアミックスの展開が増えていることに関しては、仕事量は格段に増えるが、メディアミックスで初めて知ることや、自分のできる仕事、自分の限界もわかるので大事な経験との発言があった。藤田貴大「マームとジプシー」による舞台「cocoon」への金城氏のコメントに「生きる意味まで与えてくれるメディアミックスは少ない」がある。ここにも単に市場拡大を求める観点とは違う編集者の目線がある。
 後半では読み手やジェンダー・年代の想定について、社会問題との接続の観点、海外読者への意識などのインタビュー、参加者からは、作家獲得にむけて気にしていること、書店の棚から得るものや漫画雑誌の部数減少について、そしてSNSで話題になった漫画編集者のネーム修正ツイートに関してなど多くの質問があった。漫画ジャンルに限定するものではないが、担当編集者が作家にとってクライアントなのかパートナーなのか、関係性を考える上で難しい課題もある。
 漫画作品を通したさまざまな視点、作家と伴走する漫画編集者のひとつの生き方を知り、描き手へのエールと漫画愛にあふれる研究会となった。
 
日 時: 2023年1月25日(水) 午後6時30分~8時00分
会 場: オンライン開催(Zoom)
参加者: 参加登録107名、当日参加者83名(内会員18名)
(文責:飛鳥勝幸)