「マガジン航」の10年にわたる実践を通して見えてきたこと 仲俣暁生 (2019年10月17日開催)

■ 出版編集研究部会 開催要旨 (2019年10月17日開催)

「マガジン航」の10年にわたる実践を通して見えてきたこと

仲俣暁生(なかまた・あきお) (「マガジン航」編集発行人)

 「マガジン航」は2009年10月20日創刊した。標題のとおり、創刊10年を振り返り、現在の編集発行人である仲俣氏が自身の前史、出会った人々、その時代背景を踏まえての発表であった。「出版のアーキテクチャ、プラットフォームといった仕組みを考える」、「出版文化、コンテンツといった下部構造を知る」が「マガジン航」の主テーマである。まさに、「本と出版の未来」を参加者自身が考える会場空間となった。情報量が多く、一部のみの紹介になることをご了解いただきたい。
 前任の「季刊・本とコンピュータ」(1997年~2005年)で編集長をしていた時代(2003-05)、巻頭のメディアマガジンの小ネタを集めたコーナー、また“雑誌内雑誌”の「未来の本の作り方」等が「マガジン航」編集に役立ったと言う。「効果を上げるメディア、機能(work)するメディアを作りたい」と思う中、単なるニュース媒体ではなく、「未来の本の姿」を予測する映像を載せたり、本や出版の将来像にビジョンを持っている人物を取材し紹介するなど、論評中心のメディアに変えていった。インターネット・アーカイブのブリュースター・ケール氏をはじめとする海外キーパーソンへのインタビューは、他のメディアで紹介されていないものが多く、特徴となっている。
 多くの人が、グーグルやウィキペディアをいつから使ったのか覚えていないように、誰がいつ決めたのか分からないがデファクトスタンダードとして使われている、というのがネットの世界である。出版物の意味は、「形態や、流通とは離れたところにあり、読む・書くということは、もっと深いところで人間の生活に関わってくるのでは」という発言は傾聴に値する。
 フェイスブックやツイッターで流れてくる本についての情報は、それなりに「フィルタリング」がされている。確かに著者・編集者・出版社の積極的な参加が、新たな本との出会いの場を拡げているのも事実だろう。同様に1990年代以前のインターネットもスマホもSNSもなかった時代を考えると、読者へのリーチはしやすくなり、現在は出版起業が比較的しやすくなった。そのことは「出版」を編集者の志がある「個人的な営み」という、本来の出版の有り様に戻すエコシステムになっていることも事実だろう。制作、流通、読書における電子化はかなり進んでいる。これから必要なのは「原稿が生まれるまでをどう電子化か」であり、いまnoteなどで行われている、執筆のプロセスをネット上で公開するやり方は、これからの形態を考える上でも重要な観点である。
 出版社、図書館、電子書籍、IT企業、ウェブメディア等がフラットに情報交換できるメディアが実は存在していないという中で、仲俣氏が「小さいメディアで身に付けた風景」から、今後の「マガジン航」をどう展開させるか、興味を持つ人も多いだろう。
 ウェブマガジンの継続性は、編集発行人の信頼性、内容の話題性・信憑性、そして継続できる経営面にあるかと思う。ゲートキーパーとしての役割を忘れることなく、今後10年の「マガジン航」が何を発信し、どういった議論の場を提供し、何を総括するのか10年後のご発表に期待したい。

「本の未来」はすでにいま、ここにある――創刊十周年を期して(仲俣暁生)
  ↓
https://magazine-k.jp/2019/10/04/editors-note-47/

日 時: 2019年10月17日(木) 午後6時30分~8時30分
会 場: 日本大学法学部三崎町キャンパス 10号館3階1031教室
参加者: 45名 (会員10名、一般35名)

(文責:飛鳥勝幸)