一人出版社『出版メディアパル』の舞台裏
下村昭夫 (会員、出版メディアパル編集長)
2002年11月30日に理工学書のオーム社で41年2ヶ月間、編集者生活を過ごし定年を迎えた下村昭夫氏(出版学会会員)は、その翌日から、一人出版社「出版メディアパル編集長」として、新たな出版活動を船出されました。
それから15年、2017年3月で75歳になり、日本出版学会理事を退任されたのですが、その胸のうちに秘められた「編集者としての半生」を語っていただきました。
下村会員は、同時に出版労連主催の「労働組合の本の学校=出版技術講座」や日本エディタースクールで「編集者のための実務教育」に専念されました。その実務教育の経験にも触れていただきましした。
◇ 以下、下村会員の報告骨子
出版関連書70冊はいかにして生み出されたのか
定年後、一人出版社“出版メディアパル”を設立し、出版学の入門書や実務書の刊行を通じ、「本の未来を考える旅」を始めました。以来15年間にわたる一歩一歩の本の旅で、今日までに70冊を数えました。今日は、70冊の本の横顔と出版メディアパルの舞台裏をお話しさせていただきます。
シリーズ最初のブックレット『本づくりこれだけは』は、出版労連の「本の学校=出版技術講座」や、出版ビジネススクールの「基本/本づくり講座」の講演レジメを本の形にまとめました。この本は、副題に“失敗しないための編集術と実務”とあり、出版技術講座で学んだことをまとめたパンフレットのような本です。
ほとんど同時に発行した『絵でみる出版産業』は、出版業界の03年から04年の統計データをExcelの図版にして、この時期の雑誌・書籍の販売部数、新刊点数.返品率などの推移が、一目でわかるブックレットにしました。“産業統計で解き明かす出版再生の道”を考えたブックレットです。この2冊は、主に出版技術講座の講演資料として活用されてきたものです。初版わずか300部でしたが、業界紙誌に紹介されて1500部を超える反響となりました。
順調に歩み始めた3冊目は『出版の近未来』です。出版の夢と現実と出版再生への道を考えた本で、出版産業の現状、デジタル技術の導入による編集術の変化や本と編集者の世界をリポートしています。4冊目は、好評の『本づくりこれだけは』の改訂新版としました。現在“改訂4版”を発行しています。
5冊目は、『出版ウォッチング』で、毎日新聞のメディア欄に2年間連載したコラムの集成ですが、業界の最新状況や出版史の教訓などをコラムにしたものです。ここまでの5冊は、すべて私自身の著述です。
2004年からは、やや実験的な出版活動を終え、依頼原稿を主とした、出版活動に切り替え、以下、『発禁・わいせつ・知る権利と規制の変遷』『ニューヨークの書店ガイド』『韓国の出版事情』『編集デザイン入門』『中国・台湾の出版事情』『校正のレッスン』『文庫はなぜ読まれるのか』『電子出版学入門』『少女雑誌に見る「少女」像の変遷』『昭和の出版が歩んだ道』『表現の自由と出版規制』『出版営業ハンドブック』など、今日までに、30冊の出版学入門書シリーズを発行してきました。その一方で、出版学会奨励賞をいただいた蔡星彗さんの『出版産業の変遷と書籍出版流通』や文ヨン珠さんの『編集者の誕生と変遷』はじめ、『世界の本屋さん見て歩き』『韓国出版発展史』など本格的な出版関連実務書を40冊あまり発行してきました。
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70冊の本の横顔を紹介した下村会員は、出版メディアパルを支えてくれた多くの著者や協力会社の人々に感謝するとともに、最後に「出版メディアパルの舞台裏」で、次のように述べて、報告を終えられた。
「“72歳までの10年間で50冊発行できればよい”という、時限会社的な位置付けでスタートいたしました。皆さんからはやや道楽的とも見えると思いますが、「本の旅」を楽しむために二つの戒めを課しました。その一つは、家計費を持ち出さないこと。二つ目は、借金をしないことです。この二つの戒めを堅持し続けたからこそ、出版メディアパルは、15年間維持できたのだと思っています。今は、延長戦に入っていますが、もうしばらく、本の旅を続けたいと思います」
会 場: 日本大学法学部10号館1072講堂)
参加者: 25名(会員12名(講師含む)、一般13名)
(文責:出版教育研究部会&出版編集研究部会)